#スタートアップPR の”死の谷”を助ける、「パブリシティ活動のクラウド化」という考え方

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先日、とあることから広報会議さんに寄稿する機会ありまして、4月号から3回連載をさせていただくことになりました。そこでスタートアップPR(パブリック・リレーションズ)について考えたことやその解決、とまではいかなくとも、手助けになりそうなアイデアを本稿でまとめてみます(過去記事はこちらから)。

スタートアップPRにおける「死の谷」問題

さて、スタートアップのPRで一番の課題とはなんでしょうか?

実は資金調達の時とほぼ同じタイミングで、PRにも死の谷と呼ばれる期間が生まれます。投資ラウンドで言えばシリーズAやBなど「(人と認知を)踏み込めば勝てる」という前、PMFする前段階あたりの時期です。

ここの時期、スタートアップは資金も認知も信用もごくわずかです。アイデアや創業メンバーが良く、シード資金やブリッジラウンドに成功したとしても、本質的には踏み込めません。ひたすらPMFを求め、プロダクトを繰り返し市場に問い続ける苦しい時期です。

当然ながらメディアもまだ実証前のビジネススキーム、夢のようなプロダクト完成図で「たら・れば」の話題はやはり扱いづらい。プロダクトに潜在的な力があったとしても、それを見抜くことは長年取材を続けた身でも難しい。さらにビジネス系の各紙が課金にモデルに移行していることや、スタートアップする人が増えたこともパブリシティ活動を困難にする要因になっていると思います。

つまり、スタートアップPRの「死の谷」はさらに深くなっているのです。

ではどうすればいいか。たまに年齢が若いとかプロダクトとは全く関係ないラインでスタートアップが話題作りする例もありますが、本質(プロダクトファースト)とズレてる以上、一時的な話題になったとしても、その後の「企業と社会の関係性強化」につながることはありません(自分をネタにして話題になることのすべてが悪いわけではないので悪しからず)。

そこでスタートアップする創業者、PR/広報の方に提案したいのは「パブリシティ活動のクラウド化」という概念です。これは3つの構成要素にまとめられます。

  • 情報を集める方法のクラウド化
  • 伝える方法のクラウド化
  • 改善・検証のクラウド化

結論を先に言うと「自分たちで発信力・関係づくり力を持つ」、これに他なりません。それぞれについて少し解説してみます。

パブリシティ活動のクラウド化

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企業はこれまでPR活動の中心をメディアリレーションズに置いてきたと思います。引き続きこのスキームは変わらないと思うのですが、メディアが変化していること、スタートアップPRでは従来モデルが効かないこと、この2点は理解すべきと思います。

パブリックリレーションズにおける第三者視点が欲しい、という理由で私たちメディアは存在意義がありますが、こと「パブリシティ(宣伝)」について言えば自分たちでできる環境が整っています。平たく言えば自社発信(オウンド)コンテンツの見直しです。

THE BRIDGEを運営しているPR TIMESが最も近い例ですが、彼らはプレスリリースという「メディアと企業の私信」をコンテンツ化して消費者に届けることに成功しました。最近では資金調達などの公表はニュースではなく、PR TIMESのプレスリリースがそのままユーザーにシェアされる光景が広がっています。

noteやPR Table、Wantedlyのようなコンテンツ配信プラットフォームもそうです。従来、コーポレートサイトに閉じていた「企業情報」がコンテンツ化して消費者に届くようになった事例だと思います。

パブリシティ活動を「クラウド化する」というのは、決してこれまでFAXでメディアに送っていたプレスリリースをオンライン化することではなく、企業情報配信の考え方そのものをインターネットに最適化させる、というシフトチェンジのことを指しています。

クラウド化するパブリシティ活動で何が起こるのか、その辺りは広報会議などの連載でもう少し詳しく書くとして、この概念を構成する3つのHowを少し書いてみます。

情報を集める方法のクラウド化

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まあ、オウンドメディアをカッコよく言葉に変えただけじゃん、という意見もあると思いますが、そこはさておき、自社発信の情報には「書けない」「読まれない」「何やってるのかよくわかんない」という三重苦があります。

まず書けない、については「情報収拾が足りていない」ことを再認識することが先決です。こちらにも書きましたが、スタートアップはそもそも話題がありません。その前提で「自分たちで逆算して作る」ことが重要なのです。(参照:逆算で考えるスタートアップPR手法

また、その際の情報をしっかりと整理しておくことも大切です。例えばイベントですが、私たちTHE BRIDGEはこれまでTrelloというタスクツールを使ってイベントやメディアタスクの管理をしてきました。現在は社外の方のオウンドコンテンツの制作支援も増えて、社外の方も参加できるJootoというタスクツールを使っています(情報開示しておくと、こちらのJootoもPR TIMESが運営しているサービスです)。そのほかにもツール連携するZapierのような統合ツールや、おなじみのSlackなど、便利なツールが増えました。

効率よく自分たちで積み上げたイベント情報を一元管理する。実はこれができれば、プロダクトリリースの際の「話題のネタ帳」はもちろん、イベント等で関係性を作ったユーザー、企業、支援者が積み上がってますから、パブリシティ活動を応援してくれるようになるはずです。

つまり、情報を作り・集める=企業・創業者のPR力を高めることに繋がるのです。

伝える方法のクラウド化

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しかしながらこうやって自分たちで作った情報は、なかなか人に伝わりません。もちろん私たちのようなメディアは信頼の担保に加えてある意味「インフルエンサー」としての作用もあります。いろいろな機能があるので「載せて!お願い!」とやった方が早いかもしれません。

でもやっぱり考えるべきは「自分たちで伝える方法を持つ」ことだと思っています。伝える手法、思考をインターネットに最適化すれば、いろいろなアイデアが出てきます。

例えば今、ソーシャルメディアは成熟し、身近な人たちとの関係性を持つには最適な方法になっています。メディアへの取材が難しくとも、非常によい内容であれば寄稿や転載といった持ち込みの方法もあります。すべて自分たちがコンテンツを持っていればこそ、伝える手段を考えていればこそ実現する内容です。

先日、SmatHRやミラティブが採用コンテンツをスライドシェアするという事案がありました。ああいったものはパブリシティ思考がクラウド化している人たちにとっては当然の流れになるんだと思います(内容は別ですが)。

改善・検証のクラウド化

そしてコンテンツや伝える方法・思考をクラウド化できたPR/広報チームにはPDCAという道のりが用意されることになります。

自社で配信したコンテンツの拡散量、露出時のエンゲージメント、読んでくれた人たちのフィードバック。この辺りは私もまだ検証中なので、全部を説明できませんが、これまでなかなか可視化できなかった「企業ブランド」や「それに貢献してくれた社員」、「コンテンツを作った製作者」などの評価ができるようになるんじゃないかなと思っています。

最後に

たまに取材先から「過去の記事を削除してくれ」というリクエストを貰うことがあります。恐らく過去にやっていた事業が上手くいかず、検索流入が強すぎて現状とのギャップに困っているとかそういうことだと思います。しかし、考えてみてください。人と人の関係で、都合悪くなったから一方的にその記憶を消してくれというコミュニケーションが成り立つでしょうか。

PRは関係性の構築活動です。メディアだけでなく、営業活動やプロダクト、社員、株主、ありとあらゆる関係者とのリレーションシップ・マネジメントのことです。重要でないはずがありません。

自分たち企業が社会とどのように真摯に向き合い、関係性を作ろうとしているか。手法自体がアップデートされる中、スタートアップ経営者の諸兄におかれましては、ぜひPRの重要性を今一度考えるきっかけになればと思っております。

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