ブロックチェーン・スマートコントラクト監査「Quantstamp」が日本市場を狙う理由【CEOリチャード・マー氏インタビュー】

by Taishi Masubuchi Taishi Masubuchi on 2019.3.28

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左からCEOのRichard Ma氏, Kei Oda氏, Yohei Oka氏

「ビットコインが”Donation“的なら、スマートコントラクトは”Bidirectional“的。つまり、実際にビジネスが起きる世界と最高の組み合わせだと思うんだ(Quantstamp CEO, Richard Ma)」。

Quantstampはイーサリアムのスマートコントラクトにおけるハッキングの脆弱性、安全性を事前に発見するためのセキュリティー監査プロトコルを提供している。

2017年にはY Combinatorのアクセラレータプログラムに採択され、2018年2月にはプロサッカー選手・本田圭佑氏のファンドKSK Angelから資金調達を完了させるなど、ブロックチェーン業界をリードしているスタートアップだ。

創業者でCEOのRichard Ma (リチャード・マー)氏はブロックチェーン文脈において「日本は世界的に見ても独特な市場」と語る。裏付けするようについ最近、日本市場への本格的参入をリリースした。

リチャードがなぜ日本をブロックチェーンにとって独特な市場とみるのか、そして彼が今後目指していく先には何があるのかについて取材を実施した。まずは、彼とブロックチェーンとの出会いの歴史を語ってもらった。

スマートコントラクトの一番の特徴は「Bidirectional」なところ

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Neutrinoでイベント登壇時のリチャード

元々金融機関にてアルゴリズムトレーダーとしての経験を積んできたリチャード。プログラマーとして、毎日何百万ドルという金額のアセットをトレードしていく中で、ブロックチェーン領域に進むこととなったのには、どんなきっかけがあったのだろう。同氏は、キーパーソンとしてAdamという元同僚の話をしてくれた。

「アルゴリズムトレーダーとして働いていたころ、同僚にAdamというポーランド人がいたんだ。彼とは公私ともに仲良くて、話す機会が多かったんだけど彼は当時(2011年頃)からビットコインのマイニングをしてたんだよね。それが今思い返してみれば、僕にとって初めてブロックチェーンという概念を知るきっかけだった。ただその時点では、イーサリアムも存在していなかったし、仮想通貨がここまでのスピード感で世界に知れ渡っていくなんて想像もしていなかった」。

リチャードはそんなきっかけでひょんなことから、ビットコインのホワイトペーパーを特に何も考えず読んだ。そうすると、彼が当時職務として担当していた「Programming for Finanical Technology」に近い考え方やコンセプトが、BTCのホワイトペーパーには書いてあることに気が付いた。

「この内容が、限りなく僕が担当していた金融領域におけるプログラミングの適用と近いコンセプト設計を持っていたんだよね。それから数年経って、イーサリアムが発表され、2016年初めにはDAOが登場した。ビットコイン自体は、どちらかというと通貨としての要素が強かったけど、DAOでは”Stock(株式)“的要素が生まれていたから、僕にとってはすごくそのコンセプトと可能性を理解しやすかった」。

DAOの登場で、株式的な要素を持たせることができるのに気が付いたリチャード。それから、リチャードは2万5000ドルをDAOに投資したと語る。それからの出来事は、知っての通り。THE DAO事件と呼ばれるハッキングが起きる。

「僕の投資判断は結局間違ってたのかもしれないね(笑。だけど、この出来事が起きたことで、ブロックチェーンにおけるセキュリティーの重要性に気が付くことになった。それと、もう一つ気が付いたことがあって。THE DAO事件が起きたのにイーサリアム自体の価格にほぼ変動は生じていなかったこと。

このタイミングで、ビットコインとイーサリアムを根本的にどう違うのか考えだすようになったんだ。そして分かったことは、ビットコインはある意味ドネーション的な”One-Way“なやり取りという点。その反面、イーサリアムは常に”Bidirectional“なやり取りが生じる、これは大きな違いだと感じたんだ」。

リチャードは「特にビジネスの世界では両者間でのやり取り(Bidirectional)が生じる」という話をしてくれた。そして、そのトランザクションの動きをビットコインのコンセプトではカバーしきれないが、イーサリアムは違ったと語る。

何よりリチャードは「スマートコントラクトを使ったビジネスモデルなんて、ちょっと前まで全く存在していなった。そんな市場を開拓していくのはすごいワクワクする」と話す。

THE DAOで自分自身が資金を失った原体験や、Bidirectionalなシステム構築が出来るイーサリアムのスマートコントラクト。これらが組み合わさりブロックチェーン・スマートコントラクトのセキュリティー監査企業「Quantstamp」が誕生した。

日本市場進出までのストーリーを全て語る – The Background Story –

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Quantstampチームと本田圭佑氏

Quantstampが日本市場へのエントリーを正式に発表したのは、2月25日のこと。同社はサンフランシスコに本社を、そしてトロントやニューヨークにもオフィスを構えている。その中で、なぜTOKYOという場所正式に合同会社を設立することに至ったのか。これについてリチャードは以下のように語っている。

「Quantstampは元々Y Combinatorにバックアップされていたこともあり、サンフランシスコがベースの活動拠点だった。ただ活動をグローバルに広げていく中で、私たちに興味を持ってくれる2人の日本人と出会ったんだ。一人目がObiさんという方。彼とは2017年11月にタイで開催されたBeyond Blockcsというカンファレンスで会ったんだよね。彼は当時から、日本でブロックチェーンの活動をしていて、私たちにもいくつかの日本企業を紹介してくれたんです」。

かなり早い段階で日本という市場と縁があったという同氏。そんな中で、日本をもっと身近なマーケットへと近づけた、ある人物との大きな出会いがあった。

「2人目がサッカー選手の本田圭佑さん。彼はY Combinatorのリストに載っていた我々の名前を見つけてくれて、連絡を来れたんです。話しているうちに、お互いのビジョンや考えている方向性に近いものを感じて。結果的に、彼が運営するKSK Angelから資金を調達することになりました」。

QuantstampがYCに採択され、その認知度が広がるきっかけになったことは間違いない。ただ、まさか本田圭佑氏との出会いを引き起こすきっかけになるとは思ってもいなかっただろう。続けて同氏は、自身の日本とのかかわり以外にも、日本がブロックチェーン業界から非常に注目度が昔から高かったと話す。

「日本には実際にカンファレンスに参加したり、元々ブロックチェーン関連で来ることは多かったんだよね。それだけ日本のブロックチェーン市場は世界から注目されていることをずっと感じてはいたんだけど、実際にエントリーするとなることになったのは、2人との出会いが大きかったと今考えると思うな」とリチャードは語る。

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実際に来日し、日本におけるブロックチェーンの盛り上がりと雰囲気を感じ取っていく中で、進出を後押しするかのようなObiさんや本田圭佑さんとの出会いがあった。

そんなきっかけを通して、Quantstampは積極的に日本企業に対しコラボレーションの声掛けを始めた。市場進出はもちろん簡単ではなかったが、時間をかけて準備を着実に進めてきた。

そして2019年02月25日、Quantstampは米国本社に対する出資を野村ホールディングスまたデジタルガレージインキュベーションから完了させ、無事日本法人設立を発表した。長い道のりは今始まったばかりだが、最高のスタートを切れたといえそうだ。

世界を魅惑する日本のブロックチェーン市場

ではなぜ、日本がブロックチェーン業界にとって注目されている市場となっているのだろう。リチャードは、日本市場が「ビジネスサイド寄り」な特徴を持っていると表現していた。逆に、北米では技術によってしまって完全な「Permissionless」なブロックチェーンを現段階で作り上げようとしまっている、と。

「日本市場は世界的に見てもすごく独特だと感じている。現段階でアプライ可能な技術を使って、実際のユースケースを探そうという雰囲気。例えば北米では、技術に特化したプロジェクトやプロトコルレイヤーのプロジェクトが乱立してしまっている。もちろんそれが悪いということではないけれど、我々としては長期的に見たときのビジネスユースケースを作り出す企業とコラボレーションしていきたい考えが強い。そう考えたとき、日本はスタートアップに限らずエンタープライズ企業が積極的にブロックチェーンを使って、既存ビジネスモデルにどう組み込もうかと模索していることに気がついたんだ」。

なるほど。確かに、安直な考えで日本=仮想通貨の取引大国のように連想させるが、ビジネス面で見ると実はエンタープライズ企業が積極的にブロックチェーンの導入を検討しているという特徴がある。海外に目を向けると、大体がスタートアップの話題に比べ、日本はエンタープライズ企業によるリリース量も負けていない印象を受ける。

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リチャードとチームメンバーのYoheiさん

「完全なDecentralizedを現段階では目指さず、長期的目線でステップを設けてブロックチェーンの導入を試験的に進める。そして、いかに既存のビジネスモデルと組み合わせることが出来るのかのR&Dを進められる環境、これは世界でも本当に希少なんだよね」。

続けて同氏は、そんな市場でなぜQuantstampが重要なロールを担っているのか説明してくれた。

「彼らがステップを進めていくにあたって、最も重要なのがアプリケーションが本当に信頼できるかどうかのセキュリティー面。Quantstampは、ブロックチェーンにフォーカスしたセキュリティー監査企業として、アカデミックにもキャリア的にも多才なバックグラウンドを持ったメンバーが集まっている。

ブロックチェーンに限らず、セキュリティーに担保がないサービスが導入されることはないよね。その前提で、お互いがお互いの強みを生かしてプロダクトを長期的に、同じ目線で作り上げてくことが可能な体制を作り上げていけていると感じているよ」。

また、リチャードは「既存ビジネスモデル内に多くのユーザーを抱えているエンタープライズ企業とR&Dを、セキュリティー監査という立場で進められていけることは、私たちにとっても非常に貴重な経験」とも語る。

リチャードは、ブロックチェーン・スマートコントラクトのセキュリティー監査企業として企業と共にステップを進めていくうえで、特に着目している3つの業界があると説明してくれた。

「日本に限ったことではないんだけどQuantstampとして、3つの大きな指針を持って取り組みを進めているんだ。1つ目はGaming領域。日本ではまさに最近リリースされたフィナンシェさんなどのサポートをセキュリティー面で関わらせてもらっています。

2つ目がFinTech領域。日本でもリアルテック企業など数社をサポートさせて頂けている状況。最後の3つ目がMobility領域、つまり自転車などに対するブロックチェーン・スマートコントラクトのアプローチ。これに関しては、まだまだコンフィデンシャルなことが多いんだけど、あらゆるユースケースが生まれることを目指して取り組んでいる最中なんだ」。

ある「本」との出会いと長年の夢

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インタビューの終わり、リチャードはある一冊の本を引き合いにこんな話を共有してくれた。

Founders At Work – Stories of Startupという本を皆さんはご存じだろうか。これは、Y Combinator創業者のJessica Livingstoneさんが書き記した、YC卒業生へのインタビューで構成されている名著。リチャードにとっても、この本によって得た影響は計り知れないと語る。

「僕にとって、本の中のインタビュイーはみんなヒーローのような存在だった。大学へ通っているときは、常にバイブルとしてこの本を持ち運んでいたのが懐かしいです。だから、すごく長い間、YCと起業家として関係性を持つことは長年の夢だった。

それが、結果的にはブロックチェーン業界としては初めてQuantstampがYCに採択されることになった時は、本当にうれしかった。ただ、採択されるて何をしていくかが重要なわけだから、これからも初心を忘れずに励んで行くよ」。

Quantstampチーム、日本での挑戦はこれから始まったばかりだ。

Quantstamp創業者・CEOのRichard Maさん、Quantstamp Japanチームのお2人(Keiさん、Yoheiさん)、またインタビューの機会を作ってくれたObiさんに、深く感謝します。

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