農家と地主マッチング「TILLABLE」にみる、四方良しのグロース戦略「コミュニティ・シェアリング」とは

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ピックアップ: Online Marketplace Tillable Raises $8.25M Series A to Bring Efficiency to $32 Billion Farmland Rental Market

ニュースサマリー:2019年2月、農地レンタルサービス「TILLABLE」がシリーズAラウンドで825万ドルを調達した。同社は地主と農家をマッチングするサービスを展開する。

米国で土地レンタルを行う農地主は320億ドルの売上を毎年上げているが、市場価格と比較すると80億ドルも下回っており、毎年多額の損をしている計算になる。そこでTILLABLE側は各地主が所有する土地を市場価格・作付面積・土壌の質・場所の4つの要素から差額が出ないように正しい査定を行う。

農家は査定結果を基にどの土地で農業をするのかを判断できる。一方、地主側はどの農家を受け入れるのかをレビューを基に選択し、生産量及び収益最大化を図ることができる。

最大の特徴は「農家は自分の土地を持ち、そこで長年自ら農業を行う」という考えをシェアリングの観点から変えている点。誰かの土地を借りて耕作を行い、時期が来たら転々と場所を変えて農業を営むスタイルを浸透させるのがTILLABLEの狙い。事実、米国では40%の土地が貸し出しされているため、シェアリングの追い風が強い。

また、シェアリングの概念が入ってきたことから、農家のバックグラウンドチェックが出来るようになり、誰に任せれば土地を有効活用できるのかがわかるようになった。たとえば後継者を用意することなく、信頼できる人を選べば土地利用を最大化できる。適正価格で農家に貸し出し、かつ正しいレビューに基づいて評価の高い人とをマッチングさせるのがTILLABLEの事業である。

Image Credit: StateofIsrael

話題のポイント:TILLABLEの資金調達ニュースを聞いた瞬間浮かんだのが、耕作放棄地の解消につながる社会課題解決のアイデアです。

荒れ果てた土地をそのままレンタルに出しても、ほとんどの農家が利用しようとは思わないでしょう。改めて土地を整備するコストが農家側に大きな負担としてかかってしまうためです。

そこで農家を志す学生向けキャリアアップの場所として利用する考えが浮かびます。たとえば、どのような手順を踏めば立派に農業を営めるまで土地環境を直せるのかを学ぶ場として放棄地を利用できるかもしれません。

ここに参加する学生のモチベーションは学習にあるため、100%ボランタリーベースでお金は発生しません(教育機関側からいくらかマネタイズできるかもしれませんが)。しかし、履歴書には残せますし、実地作業の経験は農家としての将来に役立ちます。

一方の地主側はこうした「学びの場」を提供することで土地の再利用につながります。加えて、TILLABLE側はマーケットップレイスの拡大につながると同時に、CSR(企業の社会的責任)の観点からもほぼノーコストで企業価値やブランディング向上につながるでしょう。

マーケットップレイス運営側(TILLABLE)、提供者(地主)、利用者(農家)、ボランティア(学生)の4者がWinになれる構図を作れるわけです。

他の代表的なスタートアップ例としてキャンプ地版Airbnbを運営する「HipCamp」を挙げさせてください。同社は2013年に創業し、累計1,150万ドルの資金調達に成功しています。

TILLABLEと同様に広大な土地を持っていたり牧草地を持っている地主と、特別なキャンプ体験をしたい人をマッチングさせるサービスを展開しています。

キャンプをする場所は田舎・地方に多く点在していることから放棄地も大量に存在します。HipCampはこうした放棄地を有効活用することでマーケットップレイス拡大を目指そうと考えました。そこで自然保護の意識の高いボランティアを募り、その場でワイルドなキャンプ体験をさせながら土地整備をするキャンペーンを展開。

ボランティアが整備した土地はマーケットップレイスに上がってくるため、HipCampはサービス拡大を、地主は新たな収益源の確保に即つながる仕組みです。一方のボランティア側はこの経験を履歴書に書き込んだり、環境保護のモチベーションの糧にしていきます。

このようなシェアリングサービスと各ステークホルダーを社会貢献の観点から繋ぎ合わせ、コミュニティを形成させていく新たな成長のやり方に密かに筆者は注目しています。

人口減少が急速に進む日本では今後、放棄地の事例が大量に発生することでしょう。そこでシェアリングのコンセプトと土地耕作を行わせるための何かしらの機会提供を上手く絡めて、独自のコミュニティを作りながらみんなで一緒に事業を成長させる「コミュニティ・シェアリング」とも呼べる社会問題解決型の手法にたくさんの賛同が集まるかもしれません。

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