インドネシアでオンライン貸金サービスがブーム、その危険な側面とは?

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Dini 氏(仮名)は2017年初頭からオンライン貸金アプリを使ってきた。そしてほとんどの場合は、彼女は優良借主だった。返済期限までにきちんと支払ったため、クレジットの限度額は上昇した。

だが病気の父を介護するため職を離れてから間もなく、彼女の夫が解雇された。収入がなくなり、返済期限が来たローンを支払うため別の貸金アプリから借り入れた。

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Photo credit: Ian Espinosa on Unsplash

その間、Dini 氏と彼女の夫はフルタイムで働く仕事を見つけるべく奮闘した。彼女は次の返済期限には支払うことができなかった。すると取立人が1日に何度も電話をかけたり WhatsApp でメッセージを送ってきたりして、彼女の連絡先に載っている全員に債務不履行者であることを知らせて恥をかかせるぞと脅してきた。

Dini 氏は貸金業者に連絡を取って苦境を説明し、過去にはきちんと期限を守って支払ってきたことも言い添えた。

分割払いのプランを申し出てくれたところもありましたが、即座の全額返済を譲らないところもありました。私が指定された銀行口座に振り込んだのにも関わらず、支払いを受け取ったことはないと言い張るところもありました。(Dini 氏)

今のところ彼女にできることはほとんどない。彼女はバイクを質に入れて、仕事への申し込みを続けている。ただ借金を返すという目的のためだけに。

節約して1つ1つゆっくり返そうとしています。穏やかに暮らせるように。でも何ができるでしょうか? 今お金がまだないのです。(Dini 氏)

こういった問題を抱えている借主は Dini 氏だけではない。無料で法的な相談を受け付ける市民社会組織・法律扶助協会のジャカルタ支部(LBH Jakarta)に、フィンテック関連の最初の案件が来たのは2018年5月のことだった。債務の取立人が借主の雇い主に連絡したため解雇されたというものであった。

同団体でフィンテック案件を扱う弁護士 Jeanny Sirait 氏はこう言う。

当初、私たちは刑事事件ではなく一般的な民事案件だと考えていました。ですが、苦情が絶え間なく寄せられたのです。

11月、同団体はフィンテックのローン問題を専門に扱う苦情センターを開いた。すると、たった3週間で合計1,330件の苦情が寄せられた。このセンターについてのニュースが現地メディアを通じて広がると、2019年2月末までにジャカルタ支部だけで4,000件の苦情が寄せられた。

貸金アプリはユーザのスマートフォン・データにどのようにアクセスするか

インドネシア人の大部分は今でも銀行口座を持っておらず、クレジットにアクセスできる人は少数である。お金が必要になったとき、伝統的な方法は家族や友人から借りるというものだが、それができない場合は質屋や高利貸しへと向かうことになる。

そして、借主と貸金業者をつなぐことで隙間を埋めるフィンテック貸金アプリが登場した。消費者の反応は良好だった。インドネシア金融サービス庁(OJK)のデータによると、これらのピアツーピア(P2P)貸金プラットフォームは昨年1,566億円相当の貸付を行い、前年比で681%の増加をしていた。

Grab から Modalku(シンガポールの Funding Societies のインドネシアにおけるブランド)まで多くの企業がこの分野で営業しているが、こういった大物プレイヤーの多くが提供しているのは概してリスクが低いビジネスローンである。しかしながら個人の借主、特に低い社会経済的背景を持つ者をターゲットとするフィンテック貸金業者の下位グループも存在する。Sirait 氏によれば、市民社会組織・ジャカルタ法律扶助協会(LBH Jakarta)が扱った案件のうち約80%は200万インドネシアルピア(約16,000円)以下の額の借金だった。

ユーザはこういったアプリを無作為のテキストメッセージ(一般的に Google Play を通さずアプリを直接ダウンロードするダイレクトリンクが含まれている)か、もしくはゲームやソーシャルメディアのプラットフォーム内の広告を通じて見つけることが多い。

こういった貸金アプリはすぐにインストールすることで、物理的な担保なしに即座の現金を約束する。代わりにユーザが手放さなければならないものは個人情報だ。ローンの申し込みのため、もしくはアプリにアクセスするためだけに、ユーザはまずアプリがスマートフォン内のデータにアクセスする大きな権限を許可しなければならない。

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Jeanny Sirait 氏(中央)とオンライン貸金に抗議する人々. ジャカルタで行われたデモにて
Photo credit: 法律扶助協会ジャカルタ支部(LBH Jakarta)

表面的には、個人のデジタルなフットプリントはその人の金融面の行動を表すものであるという主張の下、アプリは信用力を測るためにそれらの個人情報を使用している。一例を挙げるなら、インドネシアのデジタルクレジットカード「Kredivo」はモバイルアプリの許可や e コマースの購入履歴、さらにはブラウザの履歴のようなユーザのデータポイントを使い、クレジットスコアを算出している。

だがいくつかのケースでは、許可されたアクセスはそういった範囲を越えているようだ。

一部のオンライン貸金アプリをダウンロードすると、アプリはスマートフォンの中の様々なデータや機能にアクセスできるようになります。クレジットスコアと何の関係もないデータにもです。ユーザの e メール、スマートフォンの Wifi ネットワークへの接続や遮断、フラッシュライトのオンオフというようなものにまでアクセスできるようになるアプリがあります。(Sirait 氏)

誤解がないように言っておけば、借主は借りたお金を全額返済するべきであるというのは正しい。同団体は相談者にローンを返済するよう常に強く促していると Sirait 氏は言う。

しかし案件を精査するにつれて、Sirait 氏と彼女の同僚はインドネシアの法律や基本的人権に反している状況がしばしば起きていることが分かってきた。

所有者の同意なしに第三者と共有されている個人情報の問題がある。多くのフィンテック貸金業者は自社で雇用している債務の取立人に加えて、第三者の債務回収業者を利用している。

さらに、もしフィンテック貸金業者の貸付額が少なくデフォルト率が高い場合、彼らは収益を上げることが困難となるが、データそのものを現金化することは可能である。

Sirait 氏はこう言う。

ビッグデータは現代の金脈です。こういった第三者が個人情報を売ったりしないと、どうして言うことができるでしょうか。

金利も高く、アプリの中には90日間で360%という驚くべき金利(1日につきおよそ4~5%)のものや、支払期日を過ぎるとさらに高くなるものもある。これらの金利は貸金業者が請求する事務手数料に加えられるが、場合によっては貸付総額の25%に達するケースもある。

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Image credit: Pixabay

Sirait 氏は、期限ちょうどに返済を行おうとした借主が間違った銀行口座を教えられたというケースについても話してくれた。借主は貸金業者のカスタマーサービスに助けを求めたが、正しい口座番号を教えられたのは1週間後のことであり、それまでの間に金利は20%以上にまで膨れ上がっていた。

1度や2度であればヒューマンエラーということもあるかもしれません。ですが複数回起きたのであれば、それは故意ということではないでしょうか。(Sirait 氏)

だがもっとも議論を呼んでいる違反行為は回収プロセスだ。取立人は何度も何度も、1日に30回も電話をかけてきたり、脅迫的な文言を含むメッセージを WhatsApp で送ってきたりすることで知られている。

彼らはまた、ユーザが最初にアプリをインストールする際にアクセスを許可した連絡先リストも利用する。取立人は借主の雇い主や家族、友人、もしくはただの知り合いにまで連絡を取る。これは「面目を保つ」ことが重視されるアジア社会では強力な動機付けとなり、また借主が職を失うことにつながったケースも複数ある。

女性の借主は性的嫌がらせを受けることにもなると Sirait 氏は言う。取立人から露骨な画像や動画が送られてきたケースもある。時には取立人が性的な関係と引き換えにローンの返済を申し出てくることもある。

こういった取立方法は特に、大きく注目を集め現地メディアに取り上げられてきた。今年、ジャカルタのあるタクシー運転手が首を吊り、遺書でフィンテック貸金業者の名前とその「悪魔の罠」を暴露した。LBH の相談者の中にも自殺を考えたことがある者が複数いると Sirait 氏は言う。

どうすれば規制を進めることができるのか

Sirait 氏によれば、重要な問題は明確に頼れるところがないという点である。

借金の返済を迫るプレッシャーは大きいのですが、借主がフィンテック貸金業者に連絡を取ろうとしても利用可能な連絡先がない場合があるのです。彼らはどこへ行けばいいのでしょうか?

警察に通報しても実を結ばない。彼らのスタンスは借主が自分で借りたというものであるためだ。OJK も同様に苦情を受け付けていない。(Tech in Asia は OJK に何度もコメントを求めたが返答はなかった。)

公平を期すために言えば、OJK はフィンテック貸金業者に対して、認可システムを実行したり最近では上限金利(1日につき0.8%)を設けたりすることで、一定のセーフガードや規制を与えている。2019年4月5日現在、OJK は106のフィンテック貸金業者を認可しており、2月には600以上の無許可のオンライン貸金業者を閉鎖させたとしている。

しかし消費者監視団体であるインドネシア消費者協会(YLKI)の報告によれば、フィンテック貸金業者の RupiahPlus と Akulaku は共に OJK の認可を受けているが、もっとも苦情が多く寄せられている5社のうちの2社である。他の3社は Pinjam Kilat、Dr. Rupiah、そして Uang Cepat となっている。

Sirait 氏は彼女が扱った案件に関係するフィンテック貸金業者の中に似たデータを発見した。

私たちが受け取った苦情で言及されている89個のアプリのうち、25個は OJK に認可されたものでした。認可を受けていてもいなくても、保証はありません。

例えば上限金利は、OJK の下で運営され OJK が認可する P2P 貸金業者によって構成されているインドネシア P2P 貸金フィンテック協会(AFPI)が実施し推奨している。この協会のルールに違反するスタートアップは協会から除名されるが、だからといって営業が停止されるわけではない。

これは民間の責任の問題であってはいけません。協会は拘束力を発揮できませんでした。国だけが、OJK を通じてできることなのです。(Sirait 氏)

時には簡単にリブランドすることで手早く汚名を雪ぐことができる。OJK の認可はフィンテック貸金業者の正式名称で登録されており、ブランド名は変更することができる。正式名称が PT Digital Synergy Technology である RupiahPlus は、こっそりと Perdana と名称変更することで論争に対応し、Google Play の自身のページでは個人情報のセキュリティを強調している。

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ジャカルタにあるインドネシア金融サービス庁(OJK)本部
Photo credit: OJK

同様に、Sequoia と Ant Financial(螞蟻金融)が支援する Akulaku は現在 P2P 貸金サービスに Asetku というブランド名を使用しているが、分割払いのサービスでは元々知られていた Akulaku のままである。Perdana と Akulaku に対して複数回コメントを求めたが、どちらからも回答はなかった。

小規模で知名度の低いプレイヤーは、さらにグレーゾーンだ。

もしアプリが停止されたら、新たなアプリをローンチするのは困難になるでしょうか? そんなことは全くありません。特に、テックの才能がある者には尚更です。(Sirait 氏)

中国を例として見てみれば、確かに OJK による強力な取り締まりだけがこの問題に対する唯一の取り組み方法のようだ。中国も同様のフィンテック貸金問題を抱えていた。その中には8,280億円を超える額と90万人の投資家が関係する出資金詐欺も含まれていたが、この事件を契機に中小規模のプレイヤーへの規制が強化され、詐欺関連の逮捕者や資産の凍結を含む大規模な警察の捜査が行われた。

規制の面では、LBH は OJK に以下のように勧告している。

  1. OJK に認可されていない貸金アプリが運営できないようにするルールを設けること。(現在はアプリが運営を始めて、その後に認可を申請することができる。)
  2. 規制の責任を協会に委ねず、自らが負うこと。
  3. 好ましい回収プロセスを含む関連手順と共に、上限金利を規定すること。
  4. 制裁を明白に示すこと。

こういった貸金業者が正式名称をきちんと明示することも重要です。こういったアプリが、個人ではなく企業に運営されているとは必ずしも保証することはできません。(中略)企業が関わっていれば、少なくとも、より万全なプロセスが保証されます。(Sirait 氏)

とは言うものの、インドネシアのフィンテック貸金分野はまだ比較的新しく、消費者への周知を含めた成長の痛みはあるものと思われる。こういった貸金業者が、そうでなければ機会がなかった人々にクレジットへのアクセスを提供しているというケースも起きている。

LBH はこういったビジネスをなくそうとしていると思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。私たちは、もし消費者への法的な保護が保証されるのであれば、このビジネスを成長させたいと考えています。そうでなければ、このビジネスはインドネシア人には適切ではないでしょう。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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