資金調達ケーススタディ: 「SAFE(将来株式取得略式契約書)」の使い方をシミュレーションしてみる【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2019.4.10

mark-bivens_portrait本稿は、パリと東京を拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist.


Image credit: RudeVC

先日は資金を調達する起業家に見過ごされがちだと思われる、SAFE(将来株式取得略式契約書)のいくつかの欠点を説明した。今回の記事は前回の記事を読んでいないと意味が分からないので、まずはざっと目を通しておいてほしい。

また、前回も言ったことだが今一度念を押しておきたいのは、私は SAFE を批判しているわけではないということである。むしろ逆で、アーリーステージの企業が資金調達を行うのを容易にする、試す価値のある新しいやり方だと信じている。前回と今回の記事で私が言いたいことは、見過ごされるリスクを起業家に説明し、彼らが将来的に転換の罠に嵌らないようにしたいということである。

SAFE について最も強く警告したいことの1つは、起業家が値付けされたエクイティラウンドを行わずに連続で SAFE を重ねることで発生する複雑さだ。この複雑さは手形の転換の希薄化効果や、投資後の企業価値の乗数効果、評価や価格決定における市場のフィードバックの遅れといったものの中に姿を現す。

例を挙げて考えてみよう。

例えば、あなたがプロジェクトのために SAFE を発行して、友人や家族や言いくるめやすい相手から50万米ドル程度の創業資金を調達するとしよう。スタート地点にいる最近のテック企業としてはかなり標準的な運営の仕方だ。SAFE では20%のディスカウントと500万米ドルのキャップという、TechCrunch や Quora によればかなり標準的な水準の変数を設定する。そしてあなたは企業を立ち上げ、おそらく幾人かを雇い、製品を作り始める。

それから12ヶ月間、あなたは大きく前に進んできた。有名なテック開発者を雇用することができ、製品のビジョンは広がりを見せてきた。80万米ドルを調達する2回目のバッチに多くの投資家を誘い、参加してもらうことが簡単にできた。単純化のため、そして率直に言って時間もないため、あなたは最初の SAFE を再利用することにした。書類の中で修正する部分は調達額(今度は80万米ドル)、あとはバリュエーションキャップを500万米ドルから800万米ドルにするだけだ。なにしろここまでの素晴らしい成果を考えたら、あなたのスタートアップはもっと価値が上がるに決まっているのだから。

さらに1年後、すごいぞ、エキサイティングだ! あなたのプロジェクトはいくつかの賞を受賞し、あなた自身もカンファレンスのパネル参加者の常連となっている。リーンスタートアップの実践のおかげで、将来有望な顧客と交流し、いくつかの PoC も販売してきた。彼らからのフィードバックによって、あなたのソリューションの市場可能性は想像していたよりも大きいということも分かった。もう少し機能を強化して、チームに有能な人材を加えるだけでいい。さらに、あなたはピッチの達人になっていて、120万米ドルの新たな資金の口約束を取り付けている。お馴染みの SAFE を再び取り出して、バリュエーションキャップを今の勢いから考えれば大安売りとも思える1,000万米ドルまで引き上げる。

ここまでの時点で、あなたの会社の資金調達履歴は以下のようになる。

1年か1年半が過ぎ、残っている資金の底が見えてきたところで、あなたはついにプロの世界へ行くことを決める。ティア1やティア2の VC といった機関から資金を得るためにピッチする準備はできている。

以下は私が楽観的なケース、ほどほどのケースと呼ぶ2つのシナリオである。

楽観的なケース

楽観的なケースでは、あなたは幸運にもいきなり製品を市場にフィットさせ売上を上げることができた。クライアントが持つ大量の支払い済みパイロット版は、実際の長期的または定期的な契約へと変換されている。マネタイゼーションモデルの柱の少なくとも1つが有効であると証明されており、会社は今年少なくとも200万米ドルの利益を生み出すだろう。VC も喜んであなたに会おうとする。数週間の話し合いの後で、トップティアのVCから値付けされたエクイティラウンドで500万米ドルの投資の申し出をもらい、これは会社の持ち分の25%になるだろう。これによって投資後の企業価値は2,000万米ドル、もしくは現在の年間利益の10倍となる。

この取引があなたの資本政策にどういう影響を与えるかを見てみよう。

この VC ラウンドの前は、あなた(と共同設立者のチーム)は会社の100%分を持っていた。外部からの資金調達はすべてエクイティではなく SAFE だったためだ。

多くのベンチマークであなたの会社のサイズにしては立派とされる2,000万米ドルの価値がつけられた500万米ドルの VC ラウンドによって、あなたと設立者チームの持ち分は100%から約53.5%へとダウンする。格言に言われるように、(小さなパイの大きな欠片より)大きなパイの小さな欠片を持つ方が良い。しかしながら、こんなに素晴らしい結果を残していながらのこの突然の希薄化にショックを受ける起業家を、私は目にしてきた。

ほどほどのケース

では、程々のケースを見てみよう。上手くいっているスタートアップの多くが辿る、より一般的な道だ。このシナリオではあなたのチームはフル回転している。健全な企業文化を作り上げ、大体のことは上手くいっている。ある程度のプロダクトマーケットフィットに届いているが、一貫して支払い済みパイロットを長期的または定期的な契約に変換し続けていることは、少々不安定な証拠でもある。

クライアントサイドへの臨時の支援によって、セールスやプリセールス、アカウントの運営機能に人員を増やすことが要求されている。今年の収益は50万米ドル以上、もしかしたら100万米ドルに届くかもしれないが、その多くはプロジェクトやパイロットの寄せ集めによるものであるため、楽観的なケースの200万米ドルに比べればその質は(そしてもちろん重要度も)及ばない。

法人から資金を調達するには、より長い時間がかかる。トップクラスの VC は好感触のサインを送ってくるが別件で忙しそうであり、必ずしもあなたが望むほど迅速に対応することはできない。結局、6ヶ月ほどの話し合いとピッチの後で、あなたは中堅クラスの VC ファンドから200万米ドルの投資と800万米ドルの投資後企業価値というタームシートを受け取ることになる。さらに、このファンドは他のケースに比べると大胆ではない。投資条件の1つは、既存の投資家がこのラウンドで少なくとも50万米ドルを決済することなのだ。

この取引があなたの資本政策にどういう影響を与えるかを見てみよう。

この程々のケースでは、値付けされたエクイティラウンドで設立者チームの持ち分が100%から一気に29.7%へと激減しており、場合によっては設立者が眩暈を起こすほどの急落である。設立者が2人の企業では、それぞれの持ち分が50%から15%以下に減少するということになる。

上記2つのシナリオはどちらもありそうなことであり、イノベーティブなスタートアップの発展においては後者の方がはるかに一般的である。もう1つの一般的なシナリオ、低調なケースと私が呼ぶものはあえて除外した。なぜなら、複数回 SAFE を重ねて資金を調達するスタートアップは、どちらかと言えば「特殊な状況」であり、解決不能ではないがもっと苦しいトレードオフであるからだ。

何度も言うようだが、この記事は SAFE を非難するものではなく、値付けされたエクイティラウンドなしにSAFEを繰り返す前に、起業家はよく考えるべきであると警告するものである。

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