22億円調達のCAMPFIRE、クラウドファンディングを「超える」次の何かへ

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クラウドファンディング・プラットフォームCAMPFIREは5月6日、シリーズCラウンドとなる資金調達の全容を公表した。第三者割当増資の実施によるもので、引受先になったのはKDDI Open Innovation Fund(以下、KOIF)、グローバル・ブレイン、伊藤忠商事、大垣共立銀行の4社で、調達した資金は総額11億5000万円。

KOIFの出資については3月に公表済みのもので、KDDIとauフィナンシャルグループとの間でポイント連携等を検討する。また、伊藤忠商事による出資も4月10日に公表済みで、両社は日本未上陸のブランドの需要予測にクラウドファンディングをはじめとするプラットフォームを積極利用するとしている。

時期を前後して同出資ラウンドには上記4社以外にもSBプレイヤーズ、アライアンスパートナー、サーチフィールド、セゾン・ベンチャーズ、セレス、パルコ、フリークアウト・ホールディングス、ワールドの8社が参加している。これらすべてを合わせたシリーズCラウンドにおける出資総額は22億円。それぞれの出資比率などの詳細は公開されていない。同社の累計出資額は33億6000万円、CAMPFIRE単体でのプロジェクト掲載数は2万1000件、支援者数は117万人、累計流通総額は112億円に拡大している。

調達した資金でアジア中心の海外展開、融資型クラウドファンディング事業の立ち上げなどを進め、2021年の累計流通総額1300億円およびフィナンシャルインクルージョン(金融包摂)の実現を目指す。

2011年、震災と共にクラウドファンディングの文化が立ち上がる

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CAMPFIREとGROWのお披露目パーティー(2011年)

日本国内でのクラウドファンディングを取材して8年になる。

中でもこのCAMPFIREは思い入れが強いサービスだ。当時、東日本大震災が発生したばかりということもあり、寄付とよく似たクラウドファンディングという仕組みには開始当初から大きな注目が集まっていた。

小さな力を集めて大きな動きを作る。

理想的なインターネットの活用方法ではあるものの、寄付文化の薄い日本でこれを実現するのは非常に困難だったように思う。現在もグローバルで躍進しているモビリティの「WHILLやツクルバのco-baなど、界隈で身近なプロジェクトが資金集めに成功するなど、話題には事欠かない一方、流通総額自体はそこまで大きく跳ね上がらない。

実際、2012年時点で米kickstarterが公表した「1万8000件プロジェクト成功、約224万人から3億2000万米ドルの成約(※)」の実績からは遠い結果だった。それから5年。いつしか成功プロジェクトの話題も途絶え始め、CAMPFIREの火は一度消えかかることになる。

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オープン当時のCAMPFIRE共同創業者、家入一真氏(2011年)

キャンプファイアにもう一度薪をくべる

家入一真氏が共同創業者としてだけではなく、代表として同社に深くコミットしたのは今から3年前のこと。

「CAMPFIREの代表に戻ることになり、今回改めてクラウドファンディングの本質とは何か、僕が実現したい世界は何か、ということを考えました。インターネットが浸透したからこそ出来ること。それは、かつての引きこもりだった僕のような人間が声を上げられるということ、そんな小さな声を拾い上げることができるということではないでしょうか。

大きな案件が話題になることも多いクラウドファンディングですが、僕はもっと小さな個人の活動を支援したい、そして一円でも多くそういった方々に渡したい、そう思い、手数料5%へと舵を切ることにしました。

クラウドファンディングという仕組みに惚れ込んでCAMPFIREを立ち上げてから5年が経ちますが、正直このままだとCAMPFIRE自体も、そしてクラウドファンディングという仕組みも浸透しないまま、縮小していくのではないかと個人的に危惧しています。

そのためにCAMPFIREとしてできることはなにかを考えたい。そのための第一弾が今回のリリースになります。

個人が活動をはじめるきっかけになりたい。背中を後押ししたい。そして、継続的に支援していける仕組みにしていきたい」(クラウドファンディングの原点に戻るーーCAMPFIREが手数料を5%に引下げ、代表は家入一真氏が復帰)。

当時の様子を家入氏に聞いたことがあるが、経営環境は非常に厳しく、オフィスや人員は最小限にまで縮小していたらしい。それでも当時のチームは諦めず、クラウドファンディングという可能性を追求した。

手数料と仕組みの最適化にはじまり、地域特化型、融資型、ファンクラブ、音楽などのテーマ特化などなど、ここをきっかけに従来の「クラウドファンディング」に囚われない、支援の仕組みを拡大させていくことになる。不安定だった経営体制も家入氏を中心に再構築し、資金調達も再開した。

結果的にそれから3年で「CAMPFIRE」を中心に、融資型の「CAMPFIRE Owners」や地域特化の「FAAVO」、少額支援の「polca」、継続課金の「CAMPFIREファンクラブ」、評価型与信モデル融資「CAMPFIRE Bank」、コミュニティウォレット「Gojo」、仲間集めの「tomoshibi」など、多種多様なケースに対して「資金とファンのつながりを作る仕組み」を網の目のように配置することになった。

ギアチェンジの時

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取締役COOとして新任した大東洋克氏

今日、彼らは22億円にも及ぶ大型の調達を公表した。気になるのは彼らは今後もずっと「クラウドファンディング」という枠の中で事業を続けるのか、という点だ。

3年前に家入氏が戻ってきたことで、目指した世界観の輪郭はぼんやりと見えてきた。家入氏もそもそもクラウドファンディングのプラットフォーム自体、手数料が必要な時点で改善の余地がまだまだあると話している。

実はこの1年ほどで、CAMPFIREの経営体制は大きく変化している。中でも今年3月から取締役COOとして新任した大東洋克氏は今後のキーマンとして注目の人物だ。音楽家であり、エンジニアであり、何よりGMOグループ時代に彼が手がけた.shopなどのgLTDのレジストリ事業は国内インターネットの事業利用を大きく促進させた。

2013年に約10年間在籍したGMOグループを離れ、当時から交流のあった家入氏の要請で昨年からCAMPFIREに参画し、事業現場の執行を中心に活動している。3月は大きな話題となった「のん」出演のCMや出資、事業提携など10本以上のプレス向けリリースなど、これら仕掛けは大東氏の采配によるところが大きい。

大東氏に次のCAMPFIREの一手を聞くと、提携や海外展開による拡大戦略もさることながら、組織の視座を上げることを強調していた。CAMPFIREには優秀なタレントが多い一方、マルチに活躍できる「マネジメント層」が不足しているそうだ。

他のスタートアップでもよく聞く話ではあるが、事業が多種多様に渡りそれぞれに金融などの専門知識が必要な状況なだけに、全てを俯瞰するのは確かに難しい。さらに家入氏のビジョンを理解し、具体化するとなると相当に技術も必要になる。

家入氏が戻ってきてからの3年間、CAMPFIREは大きな変化を遂げた。組織も数名だった頃から100名規模のチームに成長し、これに伴う成長痛も聞こえてきている。大東氏の手腕が試されると同時に、家入氏色の強かったCAMPFIREが「社会の公器」の法人としてギアチェンジするチャンスなのかもしれない。

クラウドファンディングを超える「何か」へ

米kickstarterが生まれて今年で10年が経過した。これまでに16万件のクリエイティブプロジェクトを1600万人が支援、その総額は40億ドルに到達したそうだ。一方のCAMPFIREは前述した通り、全く異なる進化を遂げた。小さな力をインターネットの力を使って集めるという考え方はそのままに、より細かい選択肢を用意した。

大東氏や家入氏も口を揃えてCAMPFIREはクラウドファンディングでは語りきれない、という主旨のことを話している。パブリシティ的な要素としてクラウドファンディングのキーワードは使うが、彼らの持っているビジョンはもっと上位の概念に移っている。

ではそれが何なのか、と言われると説明は難しい。会話の中で、家入氏はCASHを引き合いにこんなことを言っていた。

「CASHって売れる・売れないはあなた次第ではなく、一旦買い取るじゃないですか。個人間(C2C)はどうしてもさやを抜くことになってしまう。クラウドファンディングの存在意義とは何なのか」(家入氏)。

金融包摂が言葉として正しいかもしれないが、どうしても営利活動とこの活動は相反する箇所が出てきてしまう。なぜ手数料を取るのだ、と。家入氏も悩んでいる。

答えが出ていないのだから彼らは挑戦し続けると思う。家入氏は失敗のプロだ。失敗を積み重ね、打席に立ち続けることで、クラウドファンディングの向こうに見える何かを発見してくれると思う。

何かが見えたその時、できれば真っ先にそのことをお伝えしたいと思う。

※:現在kickstarterは過去の実績を公表していないので当時記事の情報として掲載

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