ピックアップ: Altice USA buys digital news network Cheddar for $200M
ニュースサマリー : 20〜30代を中心にするミレニアル世代向け経済動画ニュースメディア「Cheddar」がAltice USAによって2億ドルで買収されたと報じられた。同社は「ポストケーブルTV」がコンセプトのライブ動画ニュースサービス。
経済・金融ニュースに特化した「Cheddar Business」、世界中のトップニュースをハイライトで伝える「Cheddar News」、学生向けに特化した「CheddarU」の3つのチャネルを展開する。
FacebookやTwitter、Snapchatに代表されるSNSだけでなく、HuluやSiling TVのようなストリーミング配信サイトで視聴もできる。あらゆる視聴環境に対応する「オーバー・ザ・トップ(OTT)」を事業軸にしたライブ動画メディアである。月間合計視聴数は4億視聴を誇る。
Cheddarの直近のラウンドにおける企業評価価値は1.6億ドルであったため、今回の買収は25%のプレミア価値がついた。
話題のポイント : Cheddarが登場した2016年は動画元年でした。1〜2分ほどに編集した短尺動画を配信するメディア「NowThis」を筆頭に、SNSのタイムラインは動画で溢れかえっていました。
自社ウェブサイトを持たず、視聴者が望むプラットフォーム上(主にSNS)で動画視聴できるUXを重視したメディアを「分散型メディア」と呼び注目されていました。そんな中、ニューヨーク証券取引所から経済ニュースをライブ配信するCheddarを少し異質に見ていたのが筆者の率直な感想です。
確かにライブ動画の重要性は語られていましたが、短尺動画のように大量生産をして視聴数を稼げるほどの費用対効果は見込めないと踏んでいました。
短尺動画では食や美容分野を中心にノウハウ系コンテンツを出せば、1コンテンツだけで軽く100万視聴以上を稼げます。加えて、アーカイブ性を持つことから一回配信したとしても何度もリピートして活用することができます。
一方、ライブ動画は1日経ってしまえば情報価値は廃れてしまいます。また、後日見返したとしても1〜2時間の尺の動画を再生して観る人はあまりいないでしょう。そんなライブ動画にどうしてビジネス軸を振るのか不思議で仕方なかったことを覚えています。
しかしライブ動画の強みはコンテンツ性です。NetflixやHuluのようなストリーミング配信サービスはオリジナル番組を欲しており、長尺ライブコンテンツはリビングでくつろぎながらスマートTV経由で動画視聴する利用シーンにぴったりだったのです。特集ニュースをアプリだけで視聴できる脱SNSの魅力も持ちえていました。
この「脱SNS」の戦略が命運を分けます。
Cheddarは創業当初、月額サブスクモデルで収益化を目指しました。自社アプリの集客に力を入れて独自ユーザーコミュニティ形成へ動いたのです。最終的にこの収益戦略は失敗に終わってしまい、ネイティブ広告からの収益化に軸を振ります。
ここでポイントとなるのは広告費用対効果の戦略図式です。短尺動画メディアはSNSページに大量のフォロワー数を抱えていることから一定数以上の視聴数が見込めます。
しかし、ソーシャル広告運用の経験のある方はわかるかもしれませんが、非常に多くの視聴者データをプラットフォームに抜き取られていることがわかります。この結果、広告主へデータを返すことができないのです。結果として残せるのは数字だけですが、これだけでは中抜き状態と言っても過言ではありません。
また、SNSアルゴリズム変更によって、過去の数字から保証されていた最低予測視聴数が突然崩れるリスクも抱えています。たとえばミレニアル向け動画メディア「Mic」は2017年のFacebookアルゴリズム変更の影響で業績を低迷させ一度サービス閉鎖に追い込まれています。
広告主は大きく費用対効果が変動するSNS投稿が主体のメディアへの出稿にどうしても消極的にならざるをえません。
この点、Cheddarは広告動画データを共有してくれるメディアプラットフォームと提携しているため、広告主へ数字だけでなくターゲット視聴者データも返すことができます。SNSアルゴリズム変更の煽りも最小限に減らせるOTTを軸にする拡大戦略も取っているため、リスクヘッジに成功しながらコンテンツ展開できていると言えるでしょう。
The WallStreet Journalの記事によると、収益の95%を広告が占めており、2018年度の収益は1,800万ドルを計上。2017年の1,130万ドルから着実な成長を見せています。
確かに現在でもSNSへの動画投稿を続けていますが、あくまでもCheddarは自社プラットフォームを持つ提携企業が視聴者集客するための呼び水としてオリジナル番組を提供する市場ポジションを取ったのです。
根こそぎデータを囲い込んでしまうプラットフォーマーに嫌気が差している企業は少なくありません。こうした企業が視聴者をSNSから引き離して自社に流れ込ませるニーズを巧みに汲み取り、オリジナル性の高いコンテンツを売り込んだのがCheddarの戦略であったというわけです。
日本では料理動画メディア「クラシル」がCheddarと同様の戦略を採っている事例として挙げられるかもしれません。
自社アプリに動画コンテンツを集約させることで「料理辞書」としてのサービス切り口をうまく提案しています。当初はSNSでの動画視聴数の伸びに頼っていたように思えましたが、今ではアプリを通じた膨大なユーザーデータ獲得に成功。Facebookのようなプラットフォーマーに頼る必要性を徐々になくす戦略に打って出ています。
ちなみにクラシルは自社アプリとコンテンツの両方を持つことからCheddarとは違い、非常に大きなプラットフォームを独自で作り上げようとしているメディアと言えます。アプリコンテンツ検索性の高さから、Cheddarが失敗した月額サブスクモデルでも成功する兆しが見えていると感じます。
さて、ここまで述べてきた脱SNS・脱プラットフォーマーの戦略は他業界でも顕著になってくるでしょう。たとえば小売業界ではAmazonで同じような流れが生まれてくるかもしれません。データを獲得して出店企業の競合製品を作る強引なやり方はいつか崩壊するでしょう。
今回のCheddar買収の一件はプラットフォーマーに左右されないビジネス戦略で生き残った一つの象徴的な事例と考えています。
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