キノコを革製品に変えるインドネシアのMycotech、シードラウンドで数十万米ドルを資金調達

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フランスのルイ・ヴィトン、エルメス、イタリアのプラダ、グッチ——伝統あるファッションブランドの服飾品は高品質の動物の皮が使われており、店舗でもオンラインショッピングでも商品の大半を占めている。

ブランド品は消費者にとってステータスシンボルとなると同時に、企業にとっては大きなビジネスだ。データ調査機関 Statista によると、2019年の世界の高級革製品(ハンドバッグ、スーツケース、ブリーフケース、財布、その他小型アイテムを含む)市場は5,040万米ドルに達すると見積もられており、年間で3.1%上昇すると予想されている。

しかし、安価の一般商品にも当てはまることだが、その洗練された一流商品を製造するのに多くの負担がかかる。革製品を作るため大量の水やエネルギーに留まらず、環境・人体に悪影響のあるホルムアルデヒドを含む有毒の化学薬品も使用しなければならない。また、本物の動物の皮で作られているため、動物虐待や大量屠殺も問題となっている。

これらの問題に対処すべく、複数の企業は「持続可能な」革製品を生産し、有害効果を最小限に止めようと尽力している。環境に優しい天然素材に目を向け、ヴィーガンレザーや人工皮革を製造しようとする企業も存在するが、成果はまちまちである

動物の代用となる皮革を追求する企業の1つが Mycotech だ。キノコを活用し合成皮革を作る、インドネシアの小規模バイオテックスタートアップである。5人の設立者は以前にもキノコをベースとした事業を行った経験があり、キノコについて造詣が深い。

CEO である Adi Reza 氏によると、2018年、世界的知名度のある投資家から注目され、シードラウンドでは数十万米ドルもの資金を調達したという。

2015年に設立する前、設立チームは1年間製造工程に関する研究を行った。しかし、当時は適切な設備を持っておらず、数多くの失敗を重ねた。

私の母の台所を研究に使っていました。

Reza 氏はそう回想する。結局のところ、彼らが大きな進歩を遂げたのは、研究機関に連絡を取り、研究所を利用し始めた後であった。

生産工程

Mycotech 製皮革の作り方は至ってシンプルだ。まずココナッツの殻やサトウキビのくずといった農業廃棄物を回収。そして集めたものを加工し、キノコの菌糸体(キノコの根のようなもの)を使って固着させる。その結合力は形崩れしないほど強力なものである。

同社はこの合成皮革を「Mylea」と名付けた。すでに腕時計、財布、ノートを作る際に Mylea を使用し、Kickstarter で販売した。

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(左から)Mylea で作られた腕時計と財布
Photo credit: Mycotech

Reza 氏によると、Mylea は市場において動物の皮よりもはるかに持続可能だという。 製造時間が飛躍的に短くなるほか、製造工程における水の消費量を減らし、二酸化炭素の発生量も削減できる。比較のため、統計を以下に提示する。

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強度面では動物の皮に劣るが、人工皮革と比べたらすでに2倍も丈夫である。したがって破れやすいということはない。

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Photo credit: Mycotech

それに加え染色も容易であり、同社チームは原産の植物や樹木、根、葉から作られた自然染料で素材を色付けすることに成功している。

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Photo credit: Mycotech

しかし Mycotech が手掛ける製品は、合成皮革だけに留まらない。キノコを使った人工木板「Biobo」も開発し、お洒落な室内パネルとして利用可能だ。Reza 氏によると、ベニヤ板と同等の強度を持っているという。

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左側の壁に貼られているのが人工木板「Biobo」
Photo credit: Mycotech

Mycotech の目標はブランド企業やデザイナーと提携し、自社の皮革・木板で作られた商品を販売することだ。例えば、Mylea の腕時計はインドネシアの有名な木製時計メーカー Pala Nusantara と提携し、作られたものである。

これらのタイアップを通じ、Mycotech は提携先との利益分配で稼ぐ予定。

比率は30/70もしくは50/50です。製品自体の価格によって変わります。

Reza 氏は語った。

課題と今後のプラン

Mycotech のキノコ皮革に関するコンセプトは興味深いが、実は同社が初めてではない。EcovativMycoWorksBolt Threads といったアメリカに拠点を置く企業でもすでに合成皮革やその他グッズを生産するため菌糸体が使われている。

しかし Reza 氏によると、Mycotech は東南アジアの中では唯一の企業であり、そこではキノコの栽培や農業廃棄物の回収をどこよりもはるかに簡単かつ安価で行えるという。

同氏は次のように述べる。

原料は豊富にあります。弊社は温度を管理するために過剰なエネルギーを使いません。

しかし、生産規模の拡大は Mycotech にとって最大の課題の1つだ。同社はまだ1つの小さな工場と28名の従業員しかおらず、大量の素材を粉砕するのは困難である。現時点では、Mylea と Biobo 向けに毎月それぞれ1,400平方フィートを製造することが可能であるが、チームは2020年末までに毎月100万平方フィートまで拡張することを望んでいる。

Mycotech は拡張を実現するため、6ケタの資金を使い、より多くの農業廃棄物の供給業者やキノコ農家と手を組むことを計画している。また、より多くのブランド企業やデザイナーと提携し、製品を開発することも目指している。

Reza 氏は Tech in Asia に対し、バッグ、サンダル、スニーカーなど他にも Mylea で作られた製品が開発進行中だと語った。同社はこれらの製品のパイロットテストを行っているが、量産体制に入るまでまだ道のりは長い。

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Mylea のバッグの試作品
Photo credit: Mycotech
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Mylea のサンダル
Photo credit: Mycotech

Reza 氏は「これはビジネスという枠を超え、持続可能性を生み出すためのソリューションである」と考えている。

人類が素材をどのように作り出すかを見つめ直さなければなりません。それはこの時代において、物理や化学をベースにした素材からバイオをベースにした素材に切り替えることを意味しているのです。

そして、消費者側も環境への影響と消費選択をより意識するようになりつつあり、「キノコを身につけること」が流行のファッショントレンドになるかもしれない。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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