体験消費の戦場は「自宅」へーーライブ瞑想「Journey LIVE」が240万ドルの資金調達

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ニュースサマリー : 5月9日、他のユーザーと一緒にリアルタイムで15分の瞑想クラスを楽しめるiOSアプリ「Journey LIVE」が240万ドルの資金調達を発表。同社は2015年にニューヨークで創業、累計調達額は260万ドルに及ぶ。

朝の起床時間に合わせて瞑想クラスが毎日配信される。専属トレーナーがライブ動画を通じて配信を行い、ユーザーはチャットを通じてリアルタイムに質問ができる。配信時間の都合のつかない人向けに録画コンテンツも配信される。

料金体系は月額支払いで19.99ドル、年払いで月額7.99ドル、無制限アクセス・一括支払いで399ドルとなっている。競合瞑想アプリ「Calm」や「Headspace」は月額12.99と7ドルほど低価格。しかし多すぎるコンテンツ数で自分の好きなコンテンツが見つけづらい点や、一人で瞑想を続けなければならない体験から継続率はJourney LIVEより低くなっているとのこと。

室内トレーニングバイクを販売し、ニューヨークのスタジオから専属トレーナーが毎日コンテンツをライブ配信する「Peloton」のサービス仕様と同じく、リアルタイムに多数のユーザーと一緒にコンテンツを楽しめるモチベーションが競合優勢性になっている。

話題のポイント : 本サービスから学べる点は「顧客を軸にした事業トレンド」です。具体的には「製品チャネル」と「コミュニケーション」が変わったと言えます。

先に要点だけまとめます。

  1. フィットネス市場の製品体験チャネルは顧客の最も通いやすい場所である自宅へと移行した
  2. ターゲットを絞りきった良質なコミュニティを基盤に、ライブ動画配信手法がトレンドに

まずは「チャネル」からです。元々フィットネス市場は、月額サブスクモデルで地元のジムに通い放題(今は料金設定が変わっている)を謳った「ClassPass」の登場により大きな節目に直面しました。

ジムクラスのコンテンツはオンラインで購入・体験はオフラインで消費するフィットネスEC市場に、サブスクリプション要素を取り込んで旧来のビジネスモデルを刷新したのです。

記事でも紹介されているPelotonはこうしたClassPassのモデルに対して、新たなチャネル設定を行いました。約2,000ドルの室内トレーニングバイクを開発し、体験消費の場所を顧客の自宅へと移したのです。大きく製品チャネルシフトを起こしたと同時に商材カテゴリーも変更。

ClassPassではコンテンツの種類がオフライン体験商材に限られていましたが、Pelotonではオンライン商材へとシフト。商材を変えることでコンテンツ消費のあり方を自宅へと最適化させました。

ここで学べる点は、ジムという「店舗」を軸に考えられていたフィットネス事業が、顧客が最も心地よくコンテンツ体験できる「自宅」へと移った点。

あらゆることが店舗というロケーションベースで考えられていた慣習が、顧客を軸にした事業展開になったことで根底から覆りました。たとえば店舗軸の考えとして、商圏の設定やローカル・プロモーションなどが挙げられます。こうした戦略思考は顧客が自社製品を自宅で体験するとなった時代では無意味なものになります。

このトレンドはあらゆる小売市場で発生すると思われます。構造的な大きな戦略シフトが求められていることを示唆しているのです。Journeyの事例もこのトレンドを踏襲しています。

次に「コミュニケーション」です。今回の事例では「ライブ動画」と「コミュニティ」が挙げられます。

日本ではトリビアアプリが一時期流行り、今となってはVTuberが席巻しているように思えるライブ動画市場。

しかし単にライブ動画をコミュニケーション軸に置くだけでは失策に終わってしまうでしょう。ライブ動画は単なるツールであってコミュニケーションを加速させる起爆剤にはなりません。必ず磐石なコミュニティが存在しない限り成功に至りません。

Pelotonの事例では2,000ドルの高級価格帯バイクで勝負をすることで、あえて顧客セグメントを絞り込みました。健康意識及び可処分所得の高い人たちに対して最高のフィットネス体験を届ける「ラグジェリー・コミュニティ」という優越感を与えることで根強いファン層を獲得したのです。

ジムでは不特定多数の様々な人たちが集まるため特別な感情は得られませんが、ライブ動画を通じて知り合えるいわゆる意識高い系の人たちのコミュニティは帰属意識を自然と高めます。

トレーニングは1人で行うよりグループで体験した方が緊張感も生まれて継続率も上がるフィットネス市場特有の傾向も手伝ってコミュニティー成長速度は加速します。

この点、Journeyは大型ジム店舗で見かけるヨガトレーニングクラスを自宅でできるようにしている体験だけが基盤になっており、Pelotonほど緻密なコミュニティ構築戦略ができていません。顧客がコミュニティに入るインセンティブがヨガ好きという比較的弱め・かつ競合性の低い要素だけに見えるため、これが原因で成長が限定的なものになってしまうのかどうかに個人的には注目をしています。

Pelotonを真似た製品やサービスは幾つか見かけることがあります。しかし単に製品チャネルを自宅へと移し、ライブ動画でコンテンツ配布するだけでは弱いかもしれません。チープなコミュニティだけでは継続率向上の施策はすぐに陰りが見えると感じます。

どのような層に対して、他社とは違うどのようなインセンティブやモチベーション与えられるコミュニティなのかを考え尽くす必要がありそうです。2,000ドルという破格の室内バイク販売から動画コンテンツの月額サブスクモデルで成長を続け、上場間近にまで迫ったPeloton級になるには最低限必要な思考材料と言えるでしょう。

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