数千項目の監視業務をAIが自動設定、「将棋」で培った機械学習を産業の力にーービジネス効率化の旗手たち/HEROZプロデューサー・大井氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

前回からの続き。本稿では、エンタープライズSaaSやインダストリークラウドに注目したサービスを展開するスタートアップにインタビューし、どのような生産性向上の取り組みがあるのか、その課題も含めてお伝えしています。

今回お話を伺ったのはAI領域にて、これまで人間には解決できなかった諸問題へ取り組む自社プロダクト「HEROZ Kishin Monitor」を提供するHEROZ、プロデューサーの大井恵介氏です(太字の質問は全て筆者。回答は大井氏)。(取材・編集:増渕大志

HEROZ Kishin Monitorが解決していること:データの時系列分析・未来予想に基づいて、AIによる自動監視・異常検知ツールである「HEROZ Kishin Monitor」を法人向けに提供し、IoT時代における諸サービスの向上・予兆保全を支援している

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HEROZさんといえば将棋のアプリが第一に思い浮かびます

大井:消費者の方に一番身近な私たちのプロダクトかもしれませんね。将棋対戦アプリ「将棋ウォーズ」はAI×エンターテイメントを軸に展開しているアプリケーションです。毎日24万人ほどのオンライン対戦、総ユーザー数では500万人を突破しています。また、当社エンジニア開発の将棋人工知能である「Ponanza」も搭載されており、2013年には史上初プロ棋士に勝利しました。

AIという概念が世間一般に知れ渡るきっかけになったのを覚えています。さて、本連載ではテクノロジーで社会を効率化するソリューションを取材しています。法人向けにはどのような展開を実施されていますか

大井:2015年頃から法人向けに「HEROZ Kishin」サービスの提供を開始しました。その中の1つのプロダクトとして、「HEROZ Kishin Monitor」を展開しています。HEROZ Kishin Monitorは「○○×AI=世界を驚かす」をテーマに、様々な業界とのコラボレーションで社会課題の解決ソリューションを提供しています。データの時系列分析・未来予測に基づく、AIによる自動監視・異常検知を可能としていることが特徴です。現在では他社のエンターテイメント関連を始め、建設関連やIoT関連業界との引き合いが増えています。

法人のAI需要の高まりを感じた具体的なケースについて教えてください

大井:そうですね。当初ウェブサービスのセキュリティー面での監視が当社事業のスタートでした。AzureやAWS等の監視において、重視していたのは「いかに人手をかけずに監視するか」という観点でのシステム設計です。

ただ、イベント等であらゆる業界の方とお話を進めていくと、製造系やインフラ系、またIoT関連のお客様からサービスに関してお問い合わせいただく機会が多くなってきたんです。そんなお話を繰り返しているうちに、様々な分野で私たちの技術が役に立つ可能性があるのでは、と考えるきっかけになりました。

建設業界から需要があるのは新鮮でした

大井:そうなんです、実は建設業界ではセキュリティーや安全面の保証において我々のサービスが有効活用される予定です。現場のメーターに対して画像認識を組み合わせ読み取ることで、設備点検や予兆保全などに適応が可能です。

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なるほど。IoT領域では特にセキュリティー面の担保に需要がありそうです

大井:そうですね、特にIoT周りでは空調システムやデバイスなどから時系列データを元に異常検知を可能にしています。

従来のAIを用いた異常検知では、正常系データと異常系データの両方を学習させなければならず、異常系データが少ないというご相談をお受けすることが数多くありました。HEROZ Kishin Monitorでは、異常系データが無い場合でも学習が可能となっているのが特徴で、私たちが提供するプロダクトの特徴だと思います。そのため、今後はIoTなど新しい概念の領域でも活用事例が進んでいくと考えています。

監視業務の自動化は業務改善の中でも影響範囲が大きそうです

大井:そもそも開発のきっかけは、自社サービスを監視するためのツールを探していたということでした。AIなどを活用し、効率的に監視してくれるようなサービスを探していましたが、人によるチューニング作業が必要なものが多く、運用工数が増大してしまうことが課題と感じていました。

そんな時に「なければ作ればいいじゃないか」という発想で生まれたのが『HEROZ Kishin Monitor』です。自社の課題を解決できるものを作ったからこそ、実用的な自動監視を実現しています。

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莫大な監視項目自体をAIで効率化した

大井:安心できるサービスを提供するためには、監視や異常検知にて担保を図るのは必要不可欠な存在だと思います。ただ、実際にはどの業界でも後回しになっていることが多いなという印象です。

私たちのソリューションであれば、時系列データを流し込むことができれば、どのような値でも扱うことができるので、サーバーのアクセスログだけでなく、不正取引やBOTの検知、製造現場のセンサー情報を基にした異常検知、予兆保全、設備点検など、各産業での維持管理の業務改革を支援できると考えています。

実際に法人向けにサービス提供を開始されて感じる、導入企業さんの反応はいかがでしょうか

大井:利用者の方からは、運用工数を大きく削減することができた、何か問題が起きた際の初動が速くなったなどの感想が届いています。

ビッグデータを扱うという面では開発面での苦労も多かったのでは

大井:リアルタイムの時系列データを収集・蓄積する基盤の開発について、大規模なデータを扱うため、データ形式の統一や処理の遅延などが課題でした。プロトタイピングでは自前でメッセージングシステムを構築していたのですが、AzureのEvent/IoT Hubなどを活用することでスムーズにデータを扱うことができるようになっています。

今後の注力分野はどこになりますか

大井:今後は、特に金融とIoTの領域で力を入れていきたいと考えています。金融については未来予測だけではなく、取引データをもとにした不正検知などに役立てていきたいと考えています。また、IoTについては、画像認識など他のAI技術と組み合わせることでアナログメーターなどの情報を時系列データとして扱うことができるようになりますので、さらに発展していくことができる領域だと考えています。

ありがとうございました!(取材・編集:増渕大志

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