イグジットやユニコーンは投資家の言葉

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名刺管理の「Sansan」が上場承認されました。いわゆるアクセラレーションプログラムなど「起業の科学」云々のずっと前、まだまだ起業自体の生存確率が低かった2007年の創業組です。

<参考記事>

インキュベイトファンドのジェネラル・パートナーであり、日本投資界のレジェンド、赤浦徹さんがSansanの共同創業者、寺田親弘さんと二人三脚でこの企業を1000億円規模の評価にまで高めていったこちらのストーリーなどは大変胸が熱くなります。

時価総額も昨年末に1,000億円を超え、「次のユニコーン」との声も聞こえてくる。そんなSansanだが、実は創業は2007年と案外古い。2007年といえば、今のようなスタートアップブームの前夜で、リスクマネーの提供は今とは比較にならないほど少なかった。むしろネットバブルがはじけて、リーマンショックが起こる直前でもあった(創業前からの二人三脚、起業家Sansan寺田氏とVC赤浦氏の12年間のハードシングスより引用)

さて、メルカリの上場時もそうですが、国内でも「ユニコーン」という呼称を耳にすることが多くなりました。米国のスタートアップ市場が「10億ドルの株式評価を持つ未公開企業」を表現したものなんですが、これについてiSGS代表の五嶋一人さんがある意見をポストしていました(お友達限定公開)。

ベンチャーキャピタルが「ユニコーンの創出を目指す」というのは、ファンドリターンの観点から、まあアリかなあとは思うんですが、‬ユニコーン=「未公開企業の発行済株式数×投資家が評価した株価>1,000億」っていう意味でしかなくて、これを起業家が「目標」とか、プレゼンの場だけであっても言ってほしくはないなあ、と感じてます。

イジワルな言い方をすると、「あなた投資家から評価されるために起業したんですか?」と。

イグジット(企業株式の売却)という行為もそうなのですが、株の売買に関する経済的な活動は基本、投資家サイドのものです。彼らは早いタイミングで株式を購入し、高くなったら売却します。一方、起業家や経営者はその根源となる経済活動に携わります。社会に対して生み出す「利益」に関する考え方が少し違うんですよね。

ややこしいのは創業者はそうはいっても大株主である、という点です。つまり、企業価値を上げることイコール保有する資産も膨らむ、という側面のことです。

起業家の方でやたらとこの株で生まれる利ざや、つまり株式の売却益や保有する株の価値のことを意識する人がいます。五嶋さんが直感的に感じている違和感はそういう点じゃないのかなと。

経営の観点からみた企業価値の根本はキャッシュフローの創出だし、キャッシュフローの創出は顧客への価値提供の結果なわけだから、普通に「顧客への価値提供の最大化」みたいな目標にむかって堂々と粛々と邁進していけばよくて、その過程で資金調達をする際の株式価値がどうなんだ、っていうのは、調達に関わる要素のひとつでしかないと思ってます。

‪そういう面倒くさいこと考えないで無邪気にユニコーンとか言っちゃってる人がほとんどすべてだとわかってはいるんだけど、これベンチャーキャピタルや行政がユニコーンの創出を目指す、と言ってるから起きるミスリードなような気もしてて、しかしベンチャーキャピタルは投資先の株式価値向上のわかりやすい基準のひとつとして言っているだけだし、行政はベンチャー振興の進捗の可視化のわかりやすい手段のひとつとして言ってるわけで、起業家にユニコーンを目的にしてほしいのではないはずなのでw‬

私もスタートアップシーンを伝える一人として、ユニコーンのようなわかりやすい「バズワード」は大変便利です。あの企業がユニコーンになった!すごい!日本もシリコンバレーに追いつけるゥ!みたいな。読んだ人は明日には忘れてる話題です。

一方でこのワードが一人歩きすることの懸念もあります。前述した通り、これは投資家サイドの経済活動です。これを目的にするということは、自分も株を売って儲けたいと言ってるのと大差ありません。実際、手早く事業作って手金を作りたいという方もいらっしゃいます。これはこれでその人の人生の戦略なので異論ないですが、やはり大きな事業にはなりづらい。

五嶋さんもそうですが、国内トップのベンチャーキャピタリストの方々の多くは、純粋に次の大きな経済活動を生み出す企業・起業家を探しています。

株の話は確かに大切ですが、起業家の方(特に五嶋さんが言う「無邪気な方」)にはそれよりも大切なことがある、ということを胸に、私たちメディアなどの喧騒に惑わされないことを祈るばかりです。

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