auフィナンシャルホールディングス始動から1ヶ月、CDOに就任した藤井達人氏に聞いたスタートアップとの事業共創と将来戦略

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2019.5.14

au フィナンシャルホールディングスの執行役員兼 CDO の藤井達人氏
Image credit: Masaru Ikeda

<14日11:30更新>

  • カブドットコム証券に対する増資は本稿発出時点で完了していないため、文中表現を一部修正。

今年2月、KDDI から中間金融持株会社「au フィナンシャルホールディングス」の設立が発表された。4月には、MUFG の「DIGITAL アクセラレータ(当初は FinTech アクセラレータ」の設立などに携わった藤井達人氏が、au フィナンシャルホールディングスの執行役員兼 CDO(最高デジタル責任者)に就任。スタートアップとの関係を強化していくことが明らかになった。

au フィナンシャルホールディングスは今後、どのような世界観でエコシステムの形成を実現させようとしているのか。まずは、業界を取り巻く環境を確認するところから話を進めたい。

通信会社から金融サービス会社へ

一日の中でユーザの可処分時間を自社系サービスに集めようとする動きは、昨日や今日始まったものではない。最近ではやや勢いを失速してしまったが、韓国の Yello(옐로)はゲーム以外のあらゆる分野でそれを実現するためスタートアップを積極的に買収、アジア各国に進出を果たした(顧客獲得コストが高いとの理由から、日本市場には進出していない)。

中国では、Alibaba(阿里巴巴)や Tencent(騰訊)のもとに、決済をはじめ、さまざまな日常生活を支援するサービスが集められるようになっている(BAT の中では、B=Baidu の存在感が薄いかもしれない)。東南アジアでは、Grab や Go-Jek などが「スーパーアプリ」と呼ばれるように、配車アプリの域を出て、便利なサービスを自社アプリ下に統合すべく、そういったスタートアップの買収に躍起だ。

東南アジアにおけるスーパーアプリの代表格、Grab と Go-Jek
Image credit: Grab/Go-Jek

国内に目を転じると、この種の動きを明確な言葉で伝えるのが最も早かったのは、楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が提唱していた「楽天経済圏」だろう。この流れは現在、ヤフー陣営による「PayPay」、メルカリの「メルペイ」、LINE の「LINE Pay」など、二次元バーコード決済の熾烈な争いに受け継がれたと言っても過言ではない。決済の機能を決済だけに終わらせないよう、各社は自社エコシステムにラインアップを増やすべく、サービスの社内開発やスタートアップ買収に精を出している。

何はともあれ、今まで経済の中心にいたのは銀行を核とする旧財閥系の金融グループだった。しかし、彼らに課されたさまざまな制約や市場変化から、銀行、特にリテールバンクはその役割を変えつつある。顧客と対面する店頭に相当する機能は、前述したスーパーアプリの類に明け渡してしまうことになるかもしれない。銀行はそういったスーパーアプリの背後に存在し、自らのアプリやインターフェイスよりも、API を通じてサードパーティー経由で機能を提供するケースが増えていく可能性が高い。

銀行の新たな形を標榜する代表的存在、ドイツ発のネオバンク「N26」
Image Credit: Paul Sawers / VentureBeat

元々は SIM カードの契約や回線契約という形で顧客ベースを押さえていた通信会社にとって、このパラダイムシフトに参戦するメリットは大きい。パソコンであれモバイルであれ、インターネットに繋いでいる以上、どこかの通信会社と直接的または間接的に契約しているからだ。日本では、通信会社は実質的に三大勢力に整理されるが、そのいずれもがサービスのオープン化を通じて、自社の既存顧客以外からの呼び込みに力を入れ始めているのは、これから繰り広げられる争いの前哨戦とも見れる(d 払いがドコモユーザ以外でも使えるように、au ID が今夏、KDDI ユーザ以外に開放されることが明らかになっている)。

スタートアップにとって、au フィナンシャルホールディングスの誕生が意味するもの

KDDI がスタートアップと関わる上で重要な役割を果たしてきたのは、インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」と、グローバル・ブレインと共に運用する「KDDI Open Innovation Program(KOIF)」の存在だろう。

KDDI ∞ Labo については既報の通り、2年間のブランクを経て、KDDI の社内やグループ会社だけでなく、協創パートナーと言われる企業群やサポーターとの協業マッチングの場へと完全に生まれ変わった。これは通信会社という層の厚い事業でこそなせる技なのだろうが、彼らの顧客は非常に多岐にわたるため、顧客にオープンイノベーションの機会を提供することは、間接的に自社の利益に資するわけである。

Image credit: KDDI / au Financial Holdings

一方、KOIF の方はどうか。昨年4月に設立された KOIF 3号は200億円規模で、KDDI 以外に主要な LP がいないことを考えると、実質的には KDDI の CVC 機能と言っていい(投資判断は、運営者であるグローバル・ブレインが行っている)。KOIF 3号には仮想的に、AI、IoT、データマーケティングの投資枠が設定されていて、それぞれの分野を取りまとめる KDDI グループの事業会社(ARISE analytics、ソラコム、Supership)がベンチャー発掘と事業共創のミッションを負っている。

au フィナンシャルホールディングスの誕生により、ここに新たに FinTech ベンチャーへの事業機会が生まれた格好だ。AI、IoT、データマーケティングと並んで、FinTech が KDDI の推し進める四つ目の柱を担うことになる。あくまで事業分野別に設定された投資枠は仮想的なものであるため、200億円のうち、いくらを FinTech 投資に向けるかは明確には決まっていない。投資判断の実務(デューデリジェンスなど)はグローバル・ブレインが負うが、ディールソースや協業推進は藤井氏が旗振り役となっている。

Image credit: KDDI / au Financial Holdings

KOIF 3号から FinTech 枠の出資第一弾となったのが、今年3月、クラウドファンディングの CAMPFIRE に対して実施した出資案件だ。出資に至った背景については、KDDI ∞ Labo 長の中馬和彦氏が eiicon のインタビューで詳細を語っている。

また、KDDI は傘下にあった既存の金融事業会社との資本関係も強化しつつある。今年に入って、三菱 UFJ 銀行との JV である「じぶん銀行」の出資比率を63.78%に増やし、カブドットコム証券への出資比率も完全子会社を通じて49.00%まで引き上げた引き上げる見込みだ。一昨年にはライフネット生命への出資比率も拡大させており、金融サービス充実への道程を粛々と歩んでいるという印象を受ける。こういった傘下金融事業会社と、出資する FinTech スタートアップとの事業共創も大いに増やしていきたい、と藤井氏は抱負を語ってくれた。

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