テクノロジーとエンタメで大切な人に想いを届けたいーーU25起業家に聞く「起業・新基準」/チャット小説「Balloon」運営FOWD代表・久保田さん

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FOWD代表取締役、久保田涼矢さん

本稿は世界のスタートアップシーンを伝える起業家コミュニティFreaks.iD編集部との連動記事。若手起業家向けの勉強会、次回テーマは「スタートアップのための採用手法(仮)」。参加者の事前登録募集中

20代起業家を対象に、彼らが考える新しいスタートアップのあり方を聞き出すインタビューシリーズ、前回登場の女性向けインスタメディア「Sucle(シュクレ)」を運営するFinT代表取締役の大槻祐依さんに続くのはチャット小説アプリ「Balloon」が好調なFOWD代表取締役、久保田涼矢さんです。

今回もUpstart Ventures、上杉修平さんにインタビュワーとして参加してもらい、お話をうかがってきました(太字の質問は全て上杉氏。執筆・編集:平野武士)。

久保田涼矢さん:1995年生まれ。中学時代からサイト制作を経験し、高校卒業後には企業にてウェブマーケティング関連のコンサルティング事業を手がける。2015年からはコロプラの投資事業子会社「コロプラネクスト」にて数十社の投資を実施。インキュベーション施設の運営などを通じてスタートアップの事業成長を支援した。2017年にエンターテインメントを創造するFOWDを創業

FOWD
チャット小説アプリ「Balloon」

この連載ではU25中心の起業家に経営の思想などお聞きしているわけなんですが、久保田さんは実は私と同じく投資サイドだった方です。どうしてこのチャット小説のカテゴリを自身のスタートアップテーマに選んだんですか?

久保田:最初に補足しておきたいのですが、僕らは別に小説アプリを作りたいわけではなくて、新しいエンターテインメントの在り方や届け方をテクノロジーの力で解決していきたい会社なんですよね。自社たちが携われるIPを数多く保持するために、CGMという形式で進めていますが、ゴールは小説アプリの普及ではありません。

FOWDではもっと広いエンタメ領域を選んだ

久保田:「ALWAYS LIGHT FOR YOU-大切な人をいつも笑顔にしよう」が弊社の掲げるミッションです。エンターテインメントはなくても究極死ぬことはありません。ではなぜあるのか、なぜ求められるのか、僕は大切な誰かと思いを共有するための媒体だと考えています。

なるほど

久保田:僕たちはコンテンツを制作するユーザーを多く抱えていますし、タレントなどをプロデュースすることもあります。時には自分たちでコンテンツを制作するクリエイターという側面もあります。そうして制作する際、僕たちは必ず届けたい誰かがいて、その人に届き、笑顔にできることを一貫しようと思いミッションにしました。

人々に喜んでもらいたい、という部分に何か強いこだわりがあったんですか

久保田:いわゆる「evil」なお金の生み出し方をしようと思えばできてしまう業界じゃないですか。そういったことはしない、笑顔になるようなことをしようという意思表示なんですよね。

ではなぜそう思うのかというところですが、個人的な話になりますが、僕は両親とだいぶ疎遠でして、家族がいませんし家族と過ごした記憶も薄いです。働くモチベーションにも繋がっているのですが、大切な人に、僕の場合だと家族に想いを届けたいというのが根底の欲求です。

そうだったんですね

久保田:しかし、今のコンテンツ業界を前職ではCVCという観点から見る中で、日本のエンタメ業界のテクノロジーの後進具合を課題に感じました。

このままでは自分が年老いた時に、子供と、孫と例えば孫のパートナーと、そういったバックグラウンドの違う・遠い人とも楽しみを共有するためにはどうしたらいいかと考えたときに、テクノロジーの力が不可欠だと感じたんです。

日本の、将来的には世界のエンターテイメント業界をテクノロジーの力で発展させたい、というのが僕のモチベーションの源泉です。

そういうバックグラウンドがある人って強いです

久保田:「世界中を〜」や「ディスラプト!」というのはあまり言わないのですが、世界中のみんなが目の前の四畳半を幸せに感じられれば、結果として世界がハッピーになると考えています。

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話をBalloonに戻しますね。そうはいっても色々な仮説検証を投資サイドでみてきたわけじゃないですか。久保田さんがどういう経緯でエンタメ領域からこのチャット小説に至ったのか経緯を知りたいです

久保田:一般的に活字離れだ、若者は文字を読まない、と世の中で言われることが近年多かったですが、一若者として思うのは「果たしてそうだろうか?」と。

結構読んでますよね

久保田:Twitterって画像や動画も入れられますが、基本はテキストコミュニケーションです。みんな使いますよね。あと体感としてあったのは、カップルでも夫婦でもいいんですが、喧嘩したとして、長文のLINEってあるじゃないですか。

確かに

久保田:あの長文LINEって「私はあのときこうした」「あなたはああ言った」のような”伏線”が張り巡らされ、最後に「なのにあなたは浮気した!」みたいな伏線回収されていくんですよね。

めっちゃ作文能力あるやんって思っていて、Twitterの話を蒸し返してしまいますが、140字という制約で物語を作るのも、文芸誌で制限付きの作文は昔からありますが、同じものだなと。

ですので、僕の中の仮説では、「若者、小説読むし書くし(書けるし)、適切なUI/UXで提供されれば使うのでは?」ということでした。

納得感ありますね

久保田:少し前に記事にもなっていましたが、「小説家になろう」や「魔法のiらんど」「エブリスタ」といった小説投稿サイトはいまだにウェブメインにも関わらずとても大きなPVを誇ります。漫画アプリで人気の作品や、映画賞を取るような作品も、さかのぼって調べるとユーザー投稿作品だったりします。

小説投稿サイト自体は10〜20年前に、まだiモード時代に盛り上がった領域ですが、じゃあこの10年くらいにどうだったかというと、スマホシフトして各種サービスがブラッシュアップされていく中で波に乗り切れなかったと思っています。

なるほど

久保田:そこで入れ替わるように盛り上がったのが漫画アプリです。昨年、Amazia社とand factory社が上場しました。事業内容は割愛しますが、出版社はなぜ自社アプリを作れなかったのかと。ここは技術力の差なんですが、「小説投稿サイト」に10年アップデートがなく、結果みんな「若者は読まなくなった」と言っているだけではないかと仮説を立てました。

そこでどういう形式なら今の若者は読むのだろう、書くのだろうと考えた結果、チャット小説に辿り着いた、というわけです。今のところの振り返りとしては、自分の想定よりこの領域に追い風が吹いているなと思っています。

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久保田さんが事業を作る上で大切にしている方程式みたいなものってありますか

久保田:ビジネスは4つに分類できると思っていて、まず、モノ自体に価格がつきそれを販売するものです。例えばコーラ1本だったら大体100円〜150円くらいで、値付けの裏には色々あるのですが、この価格帯を大きく外れたらなかなか売れないと思います。メディアの広告枠も「xPVだといくら」と大体価格はつきます。

次にヒトに価格がつくもの。士業やコンサル、タレントもこれになります。同じ内容、同じ作業でも行うヒトによって価格が異なるビジネスです。

三つ目が効率化により価値を生み出すビジネス。ITが最もとくな部分で、手数料を得るものですね。マッチングビジネスもこれに当たると思っていて、人材紹介もこれです。

ただ、エンタメは上記に当てはまらないと思っていて、4つ目は人によって価格が異なるビジネスです。言い換えると、顧客の中に価格があるビジネスです。

具体的には

久保田:例えばあるタレントのグッズ(ex,Tシャツ)があったとして、ファンからすると「いくらでも買う!」という温度感の人もいれば、興味のない人は通常の相場価格より安くても買わないかもしれません。

ソシャゲもそうで、近年は無料のゲームが当たり前の中で、裏側でリリースまでに開発費は数億円かかっています。数億円かけて開発したゲームを無料で提供して、ユーザーの中にある期待値を超えれば初めて課金されます。

期待値を超える、というと

久保田:投げ銭ビジネスは正にここを切り出した秀逸なビジネスと思っていて、弾き語りなら、路上では通常音楽が聴けない中で、自分の期待値以上の弾き語りを耳にしたから投げ銭されるわけです。

確かにこれなら払っていいや、って思った人とそうでない人に対価の差がありますね。定価が決めにくい

久保田:Balloonの作品は基本的には無料で読めるのですが、ユーザーが「もっと読みたい!」となると収益が発生するように設計されています。ユーザーの持つ価格を超えるように、価値のあるものを提供する、というのを意識しています。もしくは、「この人の書いた作品ならどれだけでも読みたい」というようなスイートスポットを探すことです。

具体的に次の展開で考えてることってどういうストーリーなんですか

久保田:Balloonで生まれた作品のメディアミックスに注力していきます。リアルでのイベントや電子書籍の配信販売、グッズの販売に、TVとの連携も進んでいます。

また、アプリ自体も海外での配信も進んでいるので、海外でのコンテンツの配信販売も近く行うことですね。もう少し長いレンジだと、音声コンテンツの制作は進めていきます。3年目になったので、実績として見せていける部分を増やしていきたいです。

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久保田さんのお話って解像度がすごく高い印象があるんですが、メンターみたいな存在ってどなたかいらっしゃるんですか

久保田:創業時からの株主で、前職の上司でもある千葉功太郎さんです。単純な資金だけでなく、前職から数えて時間ももちろんですし、色々な意味で投資をいただいていて、僕が今ここにいるのも彼の存在がとても大きいです。

現在は株主として支援いただいています。千葉さんの場合は千葉さんからのアドバイスやサポートももちろんですが、千葉道場での先輩・同志と切磋琢磨もあります。

また、ジェネシアベンチャーズの田島(聡一)さんにも相談することが多いです。田島さんは「僕たちの価値ってなんでしたっけ」「僕たちがやりたいことってここですよね」と同じ方向を向いて、時には厳しく接していただけます。なかなか立場的にも怒ってもらえることって少ないので、すごく貴重なメンターであり、信頼するパートナーですね。

怒ってもらえるのは確かに貴重ですね(笑。同世代では

久保田:バベル(代表取締役の)杉山(大幹)くんやAppBrew(代表取締役の)深澤(雄太)くんですね。同級というのもありますが、2人とも尊敬する経営者です。少し歳上だとecboのコナンくん(代表取締役社長の工藤慎一さん)。千葉道場の同志で、家も会社も近く、フランクにいつも相談に乗ってもらっています。

話をFOWDに変えてお聞きします。この会社でみなさんが達成したい未来、ビジョンってどういうものなんですか

久保田:大きく2つの達成したい未来があります。1つは、自分たちの好きが反映されている作品(IP)が支持を集めだんだんと人気になっていく未来です。IPというとイメージつくにくいかもしれないですが、例えばLive配信サービスで人気になった女の子が雑誌モデルになって、イベントに出て、テレビに出て、メジャーになっていく。と言ったらイメージしやすいかもしれません。

YouTuberなどのインフルエンサーで定着した感あります

久保田:じゃあIPでどうかというと、チャット小説の中で人気だった作品がコミックや舞台や映像になり、だんだんとマスになっていく感じです。

2つめは、これは技術的にも、これから様々な会社と取り組んでくことなんですが、個別にアウトプットが変わるコンテンツをノベルでも、コミックでも、音楽でも、映像でも、様々な媒体で表現できる未来です。

同じストーリーをメディアに最適化して配信する、みたいな感じですか

久保田:例えば同じ20代男性でも、エンゲージメントの高い言葉低い言葉というのがあります。若い子ならメールという単語は使う頻度が少ないですし、メッセージングアプリを多種使う都心部の10代だと「LINEする」のようにアプリ名が動詞になることもあります。

つまり、物語を消費する人によって変化させることができれば、バックグラウンドの違う老若男女でもより深く楽しめるのではないかと思っています。

なるほど

久保田:字幕や吹き替えの映画も、様々な国籍の人が、自分の母語で聞くような技術・仕組みを広めていきたいし、その際受ける音声は人によっては暴力的に感じる言葉はオブラートになったりと、変化してもいいなと思います。実家から電話があるシーンで、自分の出身地の方言で話されたら没入感高まりますよね。

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最後に、投資サイドから起業家としてスタートアップしてみて、このエコシステムでまだ足りてないと感じることって何か気づきありましたか

久保田:問題はまだまだ多いと思いますが、個人的に関係があり、関わりが大きい点で言えばキャピタリストの不足と、そのバックグラウンドの偏りですね。

弊社の関係する領域だと、エンタメ系の会社で働いていたキャピタリストにはなかなか会うことはありません。ゲームプロデューサーやデザイナーからVCへというキャリアは聞かないなぁと思っています。他にも、アパレルからや、飲食から、など他業界でも少ない業界はあると思います。

これから目指す未来像に期待してます。チームもまだこれから拡大中なんですよね

久保田:コンテンツの業界って面白くて、例えば編集者ってヒット作を生み出すことで名が売れるんですね。これって年齢や経験ではなくて結果の世界でしかない。

しかも経験で売れる時代は終わったと思っています。逆にいうと、若手はすごくチャンスで、自分の感覚やセンスで戦えて勝てば名があがる。キングダムの世界じゃないですが、武功を上げ、名をあげたい人はぜひコンタクトしてきてもらいたいです。

長時間ありがとうございました!

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