ベトナムで急成長中のWisepass、あらゆるライフスタイルに合わせたサブスクリプションサービスを提供

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サブスクリプションは持論のようなものだ。最近では誰でも1つ、もしくは5つほど持っている。Deloitte の報告によれば、2018年末時点で成人の50%はオンラインのみのメディアのサブスクリプションを少なくとも2つ利用しており、2020年までにその数は倍になると予想されている。

このトレンドはデジタルメディアだけではない。Forbes によれば、アメリカではオンラインショッピングの買い物客の15%は、化粧品や食料品の詰め合わせからポップカルチャーの雑貨や日本のカワイイ小物まで、幅広い実物の商品を定期的に受け取るために少なくとも1つのサブスクリプションに登録している。

だが、もし昼食からお酒まですべてをカバーする包括的なサブスクリプションがあるとしたら?

その2つはベトナムに拠点を置くスタートアップ Wisepass がサブスクリプション利用者に提供している商品のうちの2つにすぎない。月に32米ドルという安さで、食事や酒類だけではなく、コーヒーや映画のチケット、他にも多くのものがサブスクリプションで手に入るのだ。

ユーザは提携加盟店に行き、カウンターで QR コードをスキャンし、有効な商品を選択してその場で受け取るだけでいい。現時点で Wisepass はホーチミンシティ、ハノイ、バンコク、マニラの4都市300か所以上で利用が可能だ。

しかしながら、1日に受け取ることができる商品の数には限りがある。Wisepass のメンバーシップにはさまざまな価格帯とそれに応じた特典がある。最低価格の月に75万ベトナムドン(約3,500円)では、サブスクリプション利用者はコーヒー、映画のチケット、VIPな食事、コワーキングスペースへのアクセスといった「スタンダードアイテム」を1日に1つ受け取ることができる。

月に1,500万ベトナムドン(約69,000円)の高価格帯のプレミアムメンバーシップでは、1日に2つの「スタンダードアイテム」か、1日に1つの「プレミアムアイテム」を受け取ることができる。プレミアムアイテムの例としては、高級酒や高級料理といったものが挙げられる。

そして、月に4,000米ドルという最高級プランもあり、そこでは25年もののウイスキーのような、さらに高級な商品を受け取ることができる。

始まりの話

Wisepass のアイデアが始まったのは2016年8月、同社のCEO兼共同設立者 Tran Lam 氏がホーチミンシティの地元のバーで飲んでいた時だった。Tran 氏は回想する。

ウイスキーのボトルを頼んだのですが、200米ドル以上だったのを覚えています。それは無茶なので、代わりにビールを注文しました。

その後、私は Jack Daniels を販売している友達を呼び、彼が売っている Jack Daniels を私が全部買ってバーに送ると言いました。私たちはいくつかのバーやレストランと契約を結びました。お客が来たら QR コードをスキャンし、Jack Daniels のボトルを無料で得ることができると、彼らに話しました。

客足が増え、また客は一杯だけでは終わらないために、バーやレストランはこのアイデアに乗り気だった。

顧客にとっては、月ごとのメンバーシップに登録して毎晩無料で Jack Daniels が飲めるというのは大きな魅力だった。ウイスキーから始まり、その後 Wisepass はウォッカ、ジン、ラム、そしてワインと、あらゆる夜遊びの必需品を提供し始めた。実際、そもそも Wisepass は一時期は夜遊びのアプリで、「今夜はどうする?」という宣伝文句を掲げていた。

しかしながら、酒類の提供だけでは十分ではなかった。世界的な酒類市場は巨大であっても、ベトナムの当該市場はまだ発展途上だ。そのため、同社はサブスクリプション利用者にどういったサービスを求めているのかを尋ねた。

その結果、現在 Wisepass は無料の食事、映画のチケット、コーヒー、葉巻、さらには高級別荘への宿泊まで提供している。

Image credit: Wisepass

サブスクリプション利用者にとっては、Wisepass の潜在的なメリットは明らかだ。金額相応の価値を別にしても、Wisepass のサブスクリプションには新たな提供品が継続的に追加されるため、新たに行きたいと思う場所や欲しいと思うものを見つけることに関して、潜在的な利便性が高い。しかし飲食業界の方はどうだろう? 同社のサービスから何を得ているのだろうか?

Tran 氏の説明によれば、Wisepass は2つのビジネスモデルを実行している。酒類に関しては、Wisepass は仲介業者として Jack Daniels、Absolut Vodka、Chivas Regal のようなブランドをバーやクラブ、レストランに届けている。それ以外の、映画のチケットや食事のようなものに関しては、Wisepass は消費された商品の全額を支払っている。

ですので、弊社は割引アプリだとは考えていません。(Tran 氏)

同氏は指摘する。粗利益の観点からは、サブスクリプションのメンバーシップから上がる利益の40~60%となっている。

ヒートアップする競争

利益の面では、Wisepass は2017年から2018年にかけて前年比500%の増加を報告しており、そのうちの20~25%が同期間内の販売とマーケティングに含まれるとしている。

2019年は、同社は再び3桁の成長率に達しそうな順調なペースで進んでいる。

受け取ることができる商品に関しては、Wisepassは現在のところ1ヶ月に2,000件となっているが、Tran 氏は2019年末までに1ヶ月2万件に届く見込みだとしている。

しかしながら、Tran 氏は年間解約率についての話は拒否した。

Wisepass にすでにお金をつぎ込んでいる投資家に向けた内容なので、その情報を明かすことはできません。それに最近はあまり解約には焦点を当てておらず、新しい金融モデルを用いて商品の数に注力しています。

2017年、Wisepass はシードラウンドで Expara Ventures と VIISA を含む投資家から40万米ドルを調達した。

同社には競合がいる。現在市場で最も近い位置にいるのは、アメリカと香港でサービス展開している Hooch であると Tran 氏は述べている。Wisepass と同様に、Hooch はサブスクリプションをベースとしたアプリで、毎日無料でカクテルがもらえるというものだ。シンガポールを拠点とするChugも似ていて、週ごとまたは月ごとのサブスクリプションで利用者に無料ドリンクが与えられる「ナイトライフ・ドリンク・パス」を提供している。

Wisepass の強みは同社が構築してきたサプライチェーンのネットワークにあると Tran 氏は考えている。Absolut、Gibson’s、Beefeater、Chivas Regal、Ballantine’s のような有名なお酒のブランド以外にも、Starbucks、California Fitness & Yoga、CGV Cinemas のようなブランドともパートナーシップを結んでいる。こういったパートナーシップを結ぶことで、新しいスタートアップが一から同じことを始めるのが困難になっていると同氏は述べている。

新しいスタートアップがこういったネットワークを同じような規模で築き上げることは、不可能ではありませんが、非常に困難です。

もちろん、こういったコネクションを持つ複合企業が Wisepass の模倣をしようとするかもしれないという可能性はあるが、それはあらゆるスタートアップが直面する問題だ。

初めのつまずき

無料の食事や飲み物に基づいたスタートアップは成功すると考えがちだが、常にそうであるわけではない。事実、Tran 氏が明かすように、Wisepass の最初期のバージョンは主にビジネスユーザに注力したものだった。

一例として Coca-Cola を見てみよう。Tran 氏はこう説明する。Lazada や Tiki のような e コマースのプラットフォームはユーザに関する多くのデータ(誰が何をどこで買い、いくら使っているか)を持っているが、Coca-Cola のような企業はさまざまなチャネルを通じて世界中に製品を広めているので、常にそのような余裕があるわけではないという。

そこで Coca-Cola のようなブランドが、顧客が受け取る商品を通じて投資に対するリターンをオフラインで追跡できるようにし、それによってリソースをどこにつぎ込めばよいのかを明確にする役に立つ、というのが Wisepass の当初の考えだった。

Image credit: Wisepass

机上の計算ではすべてが上手くいくはずだった。パートナーブランドのみに限ればだが。Tran 氏は回想する。

最初の2年間はひどい失敗でした。エンドユーザのことを忘れた美麗なコンセプトに魅了されていたためです。

追跡されるためにアプリをダウンロードする人が、一体どこにいるでしょうか?エンドユーザにはまったく意味がないものだったのです。セールス要因の方法論などエンドユーザは気にしません。彼らが気にするのは、アプリから何を得ることができるのかということだけです。

今日の Wisepass は、チームが基本に立ち返り、消費者側から全体のエクスペリエンスをリデザインした結果である。

将来の計画に関しては、Wisepass はこの先の18ヶ月でマレーシア、インドネシア、そしてシンガポールの市場に進出するつもりであるとTran 氏は明らかにした。またヘルスケア(例えば整体や歯科検診など)、航空チケット、そして地上の交通機関についても検討している。資金調達の面では、Wisepass は100万米ドルのシリーズ A ラウンドをクローズしている最中だ。

究極的には、Wisepass はアクセシビリティアプリだ。ユーザと、ユーザが最も欲しいと思うものを結びつけるのだ。

今後数ヶ月で利益を出せるようになります。

弊社の仕事は、ユーザの旅路のすべてを Wisepass でカバーすることです。そうすれば10億ドルや1兆ドルのビジネスに成長できると思っています。(Tran 氏)

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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