不透明な延長保証サービスを改革せよーー格安保証を提供するUpsieが目論む「金融商品のD2C化」とは

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ピックアップ: Upsie nabs $5M to build a direct-to-consumer warranty service

ニュースサマリー : 5月29日、家電・家具などの保証サービスを提供する「Upsie」が500万ドルの資金調達を発表。今回のシリーズAラウンドを経て、累計調達額は820万ドルに至った。

保証書の年間市場は400億ドル。その中でもUpsieが切り込むのは延長保証の業界だ。

従来、一般的な90日間のメーカー保証が切れたのち、小売店側から延長保証サービスが有料で提供される。小売側は保険会社と提携し、不透明な保証内容に基づき高額な料金を請求しているのが実態だという。

巨大市場を支える仕組みは顧客へ多額の請求をする一方、少額の保証金しか返さない利益の独占にあるのだ。この一方的な搾取問題を解決するのがUpsieである。

Upsieは自社で厳選した保険会社と組み、平均して市場比較で70%ほど安価に保証サービスを提供。顧客はUpiseが取り扱う商品を購入後、60日以内に同社を通じて保証パッケージを購入する必要がある。保証書の管理から請求まで全てをオンラインで完結できるUXもサービスの大きな特徴。

創業者が大手小売店のコンサルタントとして働いていた際、請求想定額の9倍もの額を徴収できるようにサービス料金を組んでいたことを知りUpsieの立ち上げに至ったという。

話題のポイント : 本記事のポイントとなるのは「金融商品のD2C化」と言えるでしょう。

利益搾取の構造を壊しフラットな業態に、顧客に安心してサービスを購入してもらうため低額サービス提供かつ収益構造を開示させる考え方を「金融商品のD2C化」と呼んでいます。このポイントを説明するために2社のスタートアップを紹介させてください。

まずは家財保険を扱う「Lemonade」。AIチャットボットを通じて手軽に申し込める保険サービスを提供しています。最大の特徴は行動経済学の理論をビジネスモデルに適用している点です。

従来、保険会社は保証プール金の残高がそのまま利益に直結するため、顧客への請求返還を抑えようと必死になる心理が働いていました。顧客側からするとお金を支払っているのにサービスが十分に提供されないジレンマに陥ります。シーソーゲームの縮図である「公共財ゲーム」の仕組みができてしまっていたのです。

そこでLemonadeは収益軸を保険料から一律20%しか取らないことで、プール金の残高を最大化させようとする保険会社のインセンティブを壊しました。

加えて顧客に興味のあるチャリティー団体を選択させ、同じ関心のある会員同士でグループを作らせます。同グループ内の会員がもし、1年間保険を請求しなかった場合、翌年の保険料を割引し、さらにそのチャリティー団体に対して寄付する座組みを作りました。これによってユーザーの道徳的な心理をうまく使い、不当な保険請求を防ぐ効果を生み出しているとされています。

Upsieの収益モデルは公表されていませんが、おそらくLemonade同様に保証金から一律の割合しか収益化しない仕組みを導入していると考えられます。たとえば単価の高い大型家電から多額の保証料金を徴収する一方、修理費用をしぶるような仕組みを壊しているはずです。

残高が収益に繋がる構図がなくなったため、本来あるべき低額で従来通りの保証内容をカバーしたサービスを提供できるようになったのです。

もう1社はミレニアル世代を中心に人気を誇るアパレルブランド「Everlane」。D2Cトレンドの最先鋒である同社は企画・製造・販売までを1社で完結させる工程を作りました。

各工程で利ざやを取る大手アパレル企業とは違い、製造工程を一本化することで安価に商品を提供できます。また、これまでタブーとされていた販売価格の内訳を開示することで企業の透明性をアピール。他社からすれば、いかに消費者に高く商品を売りつけてしまうかがわかってしまうため、こうした透明性のアプローチは競合優位性の高いマーケティング戦略となりました。

今となってはアパレル市場を中心に「Warby Parker」「Reformation」「Casper」などのD2C企業が台頭。サプライチェーンの効率化によって低価格を実現させるだけでなく、価格の透明性を訴求することによって顧客の安心感を引き出すことが常套マーケティング手段となりつつあります。

アパレル市場で広がった消費者心理を保証市場に持ち込んだのがUpsieと言えるでしょう。これまで業界関係者にしか知られていなかった料金内訳の不都合を開示し顧客獲得に励んでいます。

このように、金融商材の業態を根本から変える「Lemonade」、消費者マインドを掴んだ「Everlane」の2社のアプローチを巧みに保証市場へ応用したのがUpsieであると分析できます。

日本でも依然として消費者には収益構造がひた隠しにされた業界が多数あるはずです。Upsie同様の手法でディスラプト(破壊)を目指すと新たなビジネスモデルが生まれるかもしれません。

Image Credit: Jack Sem

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