需要予測で物流の過剰在庫を解消せよーービジネス効率化の旗手たち/ニューレボ代表取締役・長浜氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している。今回インタビューに答えてくれた長浜氏は6月14日のミートアップにも登壇予定

前回からの続き。本稿では、エンタープライズSaaSやインダストリークラウドに注目したサービスを展開するスタートアップにインタビューし、どのような生産性向上の取り組みがあるのか、その課題も含めてお伝えしています。

本稿ではスマホをベースとしたバーコード読み取りで、検品や物流管理が行えるソフトウェア「ロジクラ」を開発するニューレボ代表取締役でCEOの長浜佑樹氏にお話を伺いました(太字の質問は全て筆者)。(取材・編集:増渕大志

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ニューレボが解決していること:無料で使える在庫管理ソフト「ロジクラ」を活用し、物流業界における過剰在庫に対するソリューションを提供している。また、今後はAIによる需要予測や動産担保融資による在庫の現金化、在庫売買のマーケットプレイスなど「ロジクラ」をベースにビッグデータの活用施策を提供予定

この連載では「ビジネス効率化の旗手たち」として、効率化を図っているクラウドサービスを取材しています。手掛けられているサービスは、物流業界における「過剰在庫」へのソリューションということですが、具体的なサービス内容について教えていただけますか

長浜:無料で基本機能が利用できることをコンセプトに、在庫管理ソフト「ロジクラ」を提供しています。商品の入荷、在庫、受注から出荷までの物流管理をSaaSの形で利用することが可能です。

スマホのカメラからバーコード読み取りによる、入出荷処理や在庫確認が可能な点や、プラットフォームを利用し、複数ユーザーや複数拠点における在庫管理が可能なことが特徴になっています。長期的にはビッグデータを蓄積し「AIによる需要予測」を通した事業者コスト削減、過剰在庫の削減に挑んでいきます。

物流市場でなぜ、過剰在庫が発生するのでしょうか

長浜:現場で過剰在庫が発生する理由はシンプルに「需要の予測が出来ていないから」です。現在庫数が把握できていないことによる、過発注や配送リードタイムを考慮したオーバーストックが大きな背景になっていますね。単に発注担当者の感や経験に頼った発注フロー、競合の進出によるマーケットの変化など、様々な背景があるのも事実です。

日本国内における過剰在庫に関する市場規模はどのぐらいあるのでしょうか

長浜:まず、日本国内の流通販売額(卸売・小売の合計年間販売額)は約455兆円と世界的に見てもかなり大きいです。ただ、それに比例するように「過剰在庫」市場も拡大を続け、経済産業省の調べでは2017年において約54兆円といわれています。

当たり前ですが、在庫過多の状態が続くと、会社のキャッシュフローを圧迫し資金繰りの悪化を招きます。私たちニューレボは、そのような大きな社会問題の解決を目指しています。

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需要予測ができないことで過剰在庫が発生する、ということでしたが、この課題がこれまで解決されなかった理由はどこにありますか

長浜:物流市場において「バーコード」はデータを正規化させ、物流管理をするためのインフラ的役目を果たしています。このバーコードは数字のデータしか保有してませんが、それを商品情報と結びつけることで商品の管理をすることが可能です。

ただこのバーコード、読み取るためのハンディーターミナル赤外線端末の導入コストは非常に高く、一般的に1台40万円ほどのコストがかかるとされています。そのため、物量が安定しない状況で導入を進めることが容易ではありません。つまり、バーコードの有効活用が出来ていない、というより有効活用を進める段階にも立てない状況下だったというのが現実でした。

なるほど、それでスマホでバーコードを利用できるようにしたんですね

長浜:そうです。まず、その観点で事業者の初期投資におけるコストを大幅に削減することに成功できたと感じています。入出荷検品のみならず、出荷指示もできます。

フリーミアムのビジネスモデルを選択した理由は

長浜:今後3つのデータ活用事業を進めるにあたり、在庫・販売データを大量に蓄積するという観点からフリーミアムモデルを採用しました。実はこの事業領域でフリーミアムを採用しているサービスは少ないんです。

2018年11月の無料版リリース以降、毎月700社の新規アカウント獲得ペースで累計5000社の法人事業者に利用して頂いています。このことからも、顧客の潜在ニーズを大きく引き出せたと感じています。今後は様々な通販システムやOMS(受注管理システム)との連携機能など、市場の需要に応じて有料版の導入を検討中です。

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では、具体的にどのようにして過剰在庫の問題を解決していくのでしょうか

長浜:ロジクラで蓄積したデータを活用し、以下3つの事業領域に進出を考えています。

1) AIによる需要予測(適正在庫量の算出)
2) 動産担保融資による在庫の現金化(在庫の換金化)
3) 在庫売買のプラットフォーム(在庫の流動性)

「AIによる需要予測」は、過剰在庫に対する直接的ソリューションです。これまで現場の勘や経験に頼ってきたことで、引き起こされた過発注をAIによる需要予測により限りなく0に近づけていきます。

AIで需要予測できてしまえば、今回の問題は解決に向かいそうな気がしますが

長浜:その通りです。小売大手企業で、過去の販売データを時系列分析し人間よりも精度の高い需要予測を行なっている企業はすでに存在します。ただ弊社では、これをパッケージとして提供し全ての企業がAIの恩恵を受けられるようにするという考え方です。需要予測が大衆化される世界観を作り上げることを目指しています。

他に挙げている2つは

長浜:しかしそれでも過剰在庫は発生します。そこで「動産担保融資」は需要予想の上で生じる、過剰在庫の「出口シナリオ」の一つとして在庫を換金化できる環境を想定したものです。さらに「過剰在庫のマーケットプレイス」は、それら在庫に流動性を持たせるための仕組みとして、B2Bの形で在庫売買プラットフォーム構築を考えています。

在庫予測してそれでも余ったものについて企業間でマッチングして売買するマーケットプレイス的なものはイメージつきやすいのですが「動産担保融資」とは具体的にどのようなものですか

長浜:これまで企業が融資を受ける際の価値評価としては不動産担保がメインでした。しかし近年諸外国では、新しい企業評価の一つとして在庫などの動産担保が注目され始めています。これもIT化による、販売ビッグデータが蓄積されてきた事による、市場の移り変わりであると捉えています。

なるほど、全て在庫データで可視化されているので、資産として評価しやすい

長浜:はい、今後当社では、在庫(棚卸し)データに加えて登録商品が実際にいくらで、どの程度売れているのかの販売データを加えることにより「在庫評価」を行うエコシステムを作り上げています。これまでは、実際に人間が現場に赴き行なっていたプロセスを、ITとビッグデータ活用することで、スピード感並びに信頼価値の向上を目指していきます。

在庫売買のプラットフォームも理想的ですが、既存の流通エコシステムでも在庫処分などの仕組みがあるのではないでしょうか。ロジクラが手がけることによるメリットは

長浜:現状、事業者が在庫を多く抱えてしまった場合、セールを行い定価より大幅に値下げをし過剰在庫を処理するフローが一般的とされています。それでも余った商品は二次流通に流させる、または破棄をするしかないというのがリアルな実情です。

当社では、日ごろから物流管理として利用して頂く「ロジクラ」に、そのままB2Bマーケットプレイスを構築することで、シームレスに在庫流動性を作り上げることが出来るのではと考えています。

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データを一元管理しているのでやりやすい

長浜:加えて、在庫売買にはもう一つ大きなハードルが存在しています。商品マスタの整備と呼ばれ、いわゆる「商品情報を1つ1つ作成する」という作業です。EC事業者など商品マスタを整備(商品名や商品画像など)しなければならない事業者にとってはそれほどハードルでもないですが、商品マスタが整備されていない事業者にとっては在庫売買を行う前段階で大きな整備コストがかかります。当社はこの領域を在庫データと商品データのビッグデータ活用により進めることを考えています。

最後に、今後の物流市場のアップデートへ向けた期待があれば

長浜:「AIによる需要予想」というと、販売データを大量に持っているAmazonや楽天、Yahoo!ショッピングがやれば良いのではないか、と考える方が多いかもしれませんがそれは違うんです。

Amazonも楽天も、小売も卸も、全てのデータを把握することで物流における「AIによる需要予想」は可能だと考えています。販売チャンネルに依存する販売データではなく、バイアスを取り除いたデータが物流には集まり、そのビッグデータこそが物流市場に眠っている現状活用されていない「情報」だと信じています。

将来的には、社会全体で10%の過剰在庫削減を目指していきます。過剰在庫を削減し、企業のキャッシュフローを向上させ、中小企業が持続的に生存・成長していける社会的土台を作り上げること、これが私たち事業の社会的意義だと思っています。

ありがとうございました!(取材・編集:増渕大志

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