宅「内」配達に家事手伝い、第3の小売市場「In-home Commerce」を狙えーー“信頼のデザイン”で成り立つ新市場の勝ち筋とは

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ピックアップ: Target expands same-day shipping option in the latest move in the delivery wars with Walmart and Amazon

ニュースサマリ:6月13日、米国大手小売企業「Target」が全米47州で当日配達サービスの提供開始を発表した。一回の配達注文当たり9.99ドルを支払うことでサービスを利用できる。

同社は2017年に5.5億ドルで買収した会員制の当日配達サービス「Shipt」のオペレーションを基に本サービスを展開したとのこと。既存のShipt会員は年会費99ドルでTargetの当日配達サービスを受けられる。

競合のAmazonはPrime会員向けに当日配達サービスをすでに展開済み。Walmartも2019年末までに1,900店舗で同サービス展開を目指している。Targetはこうした競合各社の動きへ追随を見せている。

話題のポイント:考察パートでは当日配達事業の先にある新市場に関して、思考を少し飛躍させてみようと思います。

今回の当日配達サービス立ち上げを機に、米国大手小売3社「Amazon」「Walmart」「Target」が同事業に本格参入する運びになりました。当日配達サービス展開にはオンデマンド物流プラットフォーム構築が必須。そのため各社配達系スタートアップ買収をテコにオペレーションを完備させた段階にきたと言えるでしょう。

EC市場の成長と共に、消費者からオンラインで注文した商品をいち早く配達して欲しいという需要が増えています。大手企業各社が当日配達サービスの拡大を急ぐのはその証左。そしてこうした需要の先に見えるのが本題である「In-home Commerce」です。

In-home Commerceの代表例が2017年にAmazonが開始した「Amazon Key」です。同サービスは顧客が不在時でも玄関ドアを解錠して自宅内に配達物を届けるサービスです。つい先日、Walmartも顧客宅の冷蔵庫へ生鮮食料品を直接配達する「In-home Delivery」事業を開始しました。Targetが後に続くことは想像に難くありません。

<参考記事>

ECに注目が集まっている小売市場では商品を顧客の手元に最適かつ最短手法で届ける「ラストマイル」問題の解決が急がれています。この解決手法として当日配達やオンデマンド配達、店舗で事前予約した商品を受け取るピックアップ業態が発達しました。

しかし物流網を整えても不在問題の解決無しでは、冒頭で紹介したいち早く商品を届けて欲しい消費者ニーズを満たすことができません。

顧客にとって自宅にいなければ商品を受け取れないサービスはストレスであり、自宅外アクティビティができなくなる機会損失を生む原因にもなってしまいます。そこで大手各社が不在宅配サービス提供を開始。おのずとIn-home Commerce市場へ乗り込むことになったのです。

ここでECからIn-home Commerceへの流れの話を整理します。

大手小売事業者は「店舗」と「EC」を軸に販売・配達チャネルを拡大させてきました。しかし消費者へ確実に商品を届けるため、「Amazon Key」や「In-home Delivery」のような不在宅配サービス提供が不可欠になります。注文者が自宅におらずともいち早く商品を配達して欲しいというニーズ対応が必要になってきたのです。

あともう一点、欧米では顧客が不在の場合、自宅前に配達物を置きっ放しにしますが誰もが盗める状態で道端や庭に放置されているため、正しい状態とは言えませんでした。そこで“In-home(自宅内)”に焦点が集まっているわけです。

顧客宅の玄関ドアを飛び越え生活空間に直接事業者が介入する点を踏まえ、時折「ラストメーター」とも表現されます。時代は「ラストマイル」から「ラストメーター」へと移り変わっているとも言えるのです。

In-home Commerceを考える上で重要な点が顧客との信頼です。

すでに不在宅配という形でIn-home Commerce市場への参入を果たしたAmazonとWalmartは、自社ブランド力によって消費者の心理的ハードルを超えました。

どんな方でも知らない人が自宅に入ってくる点に生理的な嫌悪感を持つはずです。しかし有名企業のサービスであれば多少の妥協もできると感じ、顧客はサービスを利用しています。ある種の”妥協”を起点とした信頼で結ばれているのが現在の欧米小売企業と顧客の関係性なのです。

とはいえ脆い信頼性の上で展開できるのはせいぜい自宅内への配達という限定された業態のみです。より強固な信頼がなければ事業拡大は狙えません。

そこで大手企業では入り込めない顧客との信頼をサービス主眼に置いたのが「HelloAlfred」です。同社は2014年にニューヨークで創業したIn-home Commerceスタートアップ。累計調達額は5,250万ドル。

HelloAlfredは提携アパートメント住民向けに家事手伝いサービスを展開しています。顧客は鍵をHelloAlfred側に渡して、サービス時間を指定するだけ。オフィスへ出社している時間帯や自宅で別作業をしている間に皿洗いや洗濯、食料品の買い出しから冷蔵庫補充まで代行してくれます。

同社は顧客からの信頼獲得のために各建物毎に専属マネージャー達を配置しています。必ず同じ担当者が派遣されるので気の知れた人達がサービス提供する図式になっているわけです。

全くの無名で始まったHelloAlfredですが、顧客とサービス提供者(マネージャー)との長期間に渡る関係構築から信頼を築くことができました。加えて「顧客の信頼を増やすのか、それとも減らすのか」という価値基準をアプリデザインからコミュニティ形成に至るまで、あらゆる意思決定及びサービスデザインの基軸にしています。

大手小売事業者が強力なテクノロジーを武器に仕掛けてきたとしても、決して乗り越えられない「信頼」を競合優勢性に持つのがHelloAlfredなのです。

スタートアップ業界はソフトウェア製品を好み、人的リソースをサービス拡大の要にせざるを得ないアイデアを嫌う傾向にあります。しかしHelloAlfredの事例を参考にすると、世間とは全く逆張りにビジョンを描き、人と人との「信頼」を長期間のコミットで勝ち取るビジネスモデルが上手く働いていることがわかります。これがIn-home Commerceの肝となるのです。

今では家事手伝いだけでなくフィットネストレナーやベビーシッター派遣など多分野に進出。顧客が自宅で受けられる各種サービスを一元管理し、AIを駆使してオペレーションを最適化させたオペレーションシステム「Powered by Alfred」を立ち上げました。

“ホームサービス版Amazon”の市場ポジションを確立し、米国In-home Commerce市場を独占しつつあります。

AmazonもPrime会員向けに家事手伝いサービスを提供していますし、優れたAI技術を保有しますが顧客との対人信頼を築けていません。この点、HelloAlfredは高い競合優勢性を保てているのです。

さて、日本市場に目を向けると高齢者向けの訪問サービスなどは実に的を捉えていると言えます。

筆者の見解として、日本には高齢者市場を中心に欧米以上にIn-home Commerceの潜在ニーズがくすぶっていると感じます。事業者が気付いていないだけで訪問サービスのオペレーションを小売市場に応用すれば巨大な商機が見えてくる可能性があると考えます。

ここまで述べてきたように、消費者は自宅にいる・いないに関わらずサービスを享受したいという意識を高めつつあります。配達事業に限って言えば、各社が当日配達から不在宅配サービスまで手を伸ばしているのがその証拠です。

一方、知らない人が自宅に入ってくる消費者の不安意識が発生するのも否めません。そこで信頼構築が重要になってくるのです。高い信頼性を紡ぐことができれば配達事業から横展開もできますし、あらゆるサービスを提供するきっかけにもなります。

ホームサービス版Amazonの市場ポジションは未だに日本では空白のまま。日本でいう所謂“おもてなし文化”を基盤に、誰がこの座を握るのかには大いに興味を惹かれます。

Image Credit: Kevin DooleyoswaldoTim ReckmannTerry Johnston

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