
中国で P2P レンディングに対する締め付けが長期化し同業界が勢いを失うに従い、中国の多くのフィンテックおよび P2P レンディングプラットフォームはより寛大な東南アジアの市場を目指している。
過去1年間を通じて、中国のリスキーな金融慣行に対する取り締まりは P2P レンディングプラットフォームの半分以上を消し去った。1年前に記録された約1,900社から、5月時点で900社のみが生き残った。
生き残ったプラットフォームの多くは厳しさを増している監視に従うよりも、損切りをして業界から手を引くことを決めている。しかしながら、次の儲けを求めてインド、インドネシア、ベトナムを含む近隣の市場へ足を踏み入れることにしたものもいる。
東南アジアはクレジットを求める消費者が多く、一般的にローンへの限られたアクセスや明確性を欠く規制の結果としてサービスを受けられずにいる。こういった条件は同地域でビジネスをしようと考えている中国企業に、チャンスと試練の両方をもたらしている。
中国の P2P レンディングに対する規制は非常に厳しくなっています。
上海を拠点とするシンクタンク Den Digitala Draken のフィンテックコンサルティングパートナー Johan Uddman 氏は TechNode にこう語った。中国の P2P レンディングプラットフォームにとっては、成長が始まったばかりの市場に目をつけ、そこに技術やノウハウ、そして資本を持ち込むことが理に適っている。
国外への拡大

Image credit: iDong
6月上旬、インドの新聞 Economic Times は同国の急成長中のオンラインレンディング分野、中でも P2P レンディング分野に対して、中国の WeShare(掌衆)、9F Group(玖富)、CashBUS(現金巴士)を含むフィンテック企業が投資機会を探っていると報じた。
インド市場は中国と同様にクレジットを強く求めていると述べるのは、デリーを拠点とする P2P レンディングプラットフォーム Lendbox の共同設立者兼 COO の Bhuvan Rustagi 氏だ。また同国には活用されていない大きな個人投資家層があり、レンディング業者はここから資金をプールすることができるかもしれない。
Rustagi 氏はこう言う。
これは大規模で成長率の高い市場を扱った経験のある中国のプレイヤーなら誰でも、活用することができるチャンスです。
東南アジアにおける P2P レンディングの高まりは、2011年から中国で起きたことと同じ盛り上がりを思わせるものである。急成長する経済とテックに慣れ親しんだユーザベースの急拡大が組み合わさると、そういう市場ではフィンテックの受け入れに加速がつく。
一方で、正式な金融サービスへのアクセスの欠如により、カジュアルで気軽なレンディングプラットフォームが必要とされる。
Ernst & Young の Global Fintech Adoption Index によると、2019年にインドはフィンテックの採用において中国と並び、世界平均の64%を超えて87%に達している。この報告の知見は世界中のデジタル面でアクティブなユーザや企業のフィンテックのユーザが関わる調査に基づいたものである。
中国企業の中にはインドのレンディングプラットフォームに対する投資や、自社プラットフォームの立ち上げに興味を示しつつも、市場がまだ若いため現状ではまだ動かないことにしたところもあり、そういった企業は業界の規制がもっと明確になるのを待っていると Rustagi 氏は言う。
今のところ中国企業は自社プラットフォームの立ち上げよりも買収を通じてインド市場に参入している。しかしながら、中国企業とインドのレンディング業者との間では投資、ジョイントベンチャー、買収機会についてのコミュニケーションが増えてきていることに注目していると Rustagi 氏は述べている。
インドのような初期段階にある市場は、中国の P2P レンディング業者にとってはチャンスに満ちた安全な場所に見えるかもしれないが、インド市場は障害で満ちている可能性もある。
同国の P2P レンディングの規制は中国に比べて「事後的というよりも事前的」なものであると Rustagi 氏は言う。同国の中央銀行である Reserve Bank of India(インド準備銀行)は関係者からのフィードバックをまあまあ受け入れるが、P2P レンディングに対してはより保守的なアプローチをとっていると同氏は加えた。
またその他の問題もある。例えば、インドの消費者の大半は中国と同様、十分なクレジット情報を持っていない。そのため市場に新規参入するプレイヤーは、借主のリスク評価を行うために「通常とは違った方法」を考案しなければならないだろうと Rustagi 氏は言う。
インドで起きていることは、他の東南アジア諸国でも起きている。インドネシアでは中国のレンディングプラットフォームの数が著しく増加しており、規制当局が警鐘を鳴らしている。
P2P レンディングプラットフォーム KoinWorks の CEO 兼共同設立者 Benedicto Haryono 氏は、中国企業が採用しているビジネス慣行の多くは「モラルハザード」と見なされていると言う。
例えば、中国フィンテック企業がデータマイニングやデータ収集に使用する手法の一部は、インドネシアでは違法とされる。最近実施された多くの規制はこれに対応するためのもので、同国のレンディング業界のビジネス慣習を正そうとするものだと Haryono 氏は述べた。
Nikkei Asian Review によると、昨年インドネシアの金融サービス庁(OJK)は違法な P2P レンディングサービスが運営する約500のウェブサイトやモバイルアプリケーションに対しブロックや警告を行った。OJK はプラットフォームに関して数千件の苦情を受けていると伝えられている。債権回収時の脅迫や性的嫌がらせといったものから、データのプライバシー侵害やローン支払い記録の不備といったものが、苦情には含まれていた。
インドネシア当局は、中国を含む国外の違法プレイヤーはコントロールが困難であると述べている。
このように大きく、活用されていない市場は、手早く儲けようと望む多くのプレイヤーを引き付けると Haryono 氏は言う。しかしながら、その多くは資金不足であり、参入は思ったほど簡単ではないとすぐに悟ることになる。Alibaba(阿里巴巴)が支援するフィンテック企業 Akulaku のような、資金が豊富な一部のアーリープレイヤーは市場で成功していると同氏は述べた。
インドネシアでは、マーケットプレイスレンディング運営を立ち上げている中国フィンテック企業の多くが、レンディングプラットフォームがローンを他の金融機関や個人投資家に割引きで売るのではなく、自身の帳簿に残しておくバランスシートレンディングモデルを採用していると Haryono 氏は述べた。
規制当局は P2P プラットフォームを運営している者よりも、金融リスクを背負い公的な資金を利用していないレンダーに寛大さを見せる。
トラブルの兆候?

インドやインドネシアと同様に、ベトナムのオンラインレンディング分野も勢いづいている。ベトナム政府は今年、P2P レンディング合法化の決定に関して熟考してきた。3月に政府は、P2P レンディングへの規制の枠組みを作る前に、同分野のパイロットプログラムを間もなく許可すると発表した。
シンガポールやインドネシアを含む国々からの国際的なプレイヤーの流入がベトナム市場に殺到し始めていると、アジアに注力するコンサルティング企業 YCP Solidiance のパートナー Michael Sieburg 氏は言う。ただ、中国プレイヤーからのこの市場への興味は、特に中国で多くのプラットフォーム運営者を消し去った締め付けの後では際立っている。
中国の公的な金融ニュースである証券時報が4月に発表した報告は、中国の厳格な規制環境によって多くのオンラインレンディング業者、キャッシュローン、詐欺的な金融サービス業者がベトナムに向かっているということを仄めかしている。
現存する P2P レンディングサービスの中で、ベトナムの40の既存プラットフォームのうち、そのおよそ4分の1は中国から来たものだ。
同国の経済は今年6.7%前後の成長を見込まれており、これは東南アジアでも最速の成長率である。収入レベルの上昇が消費に勢いをつけ、それによってP2Pレンディングや消費者金融の需要が促進されていると Sieburg 氏は述べている。また P2P レンディングは中小企業に対する追加的な資金源の提供もしている。
規制の枠組みはまだ発展途上であるため、当然リスクはある。だからこそ政府は規制を強化し、市場を成長させつつリスクを軽減しようとしているのだと Sieburg 氏は述べている。
市場のプレイヤーと政府の規制当局の両者は、ベトナムの規制の抜け穴を利用しようとするプレイヤーを警戒し注意を払うようになるでしょう。特に、著しくリスキーで詐欺的な慣行を最近経験した市場からのプレイヤーであればなおさらです。
Sieburg 氏は、これが既存のビジネスにインパクトを与え、新規市場参入の可能性を制限するものになるかもしれないと述べた。
中国の P2P レンディング市場は、政府が締め付けを始めるまで、長年の間ほぼ規制なく成長してきた。その結果、同分野は詐欺的な行為に悩まされていた。
ここ数年の間に中国の P2P レンディング市場が経験してきたことは、おそらくベトナムやその他の新興市場に対しても教訓となるだろうとSieburg氏は言う。
政府は詐欺的な行為が市場にインパクトを与えることを防ぐために、事後的にではなく事前的に監視を強めようとするでしょう。
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