シンガポールのVouch、東南アジアの観光チャットボット市場制覇を目指す

by Tech in Asia Tech in Asia on 2019.7.23

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Joseph Ling 氏は表面的にはシンガポール政府から奨学金を得た一般的な人物に見える。

彼は SPRING Singapore(シンガポール規格生産性革新庁)の奨学金 Executive Development Scholarship を受けて、優秀な成績でシンガポール国立大学を卒業した。その後、奨学金の規定に従い2年間を SPRING Singapore で過ごし、そして自らの会社を始めるためにそこを離れた。

Vouch
Image credit: Vouch

人生を通じて成功を収めてきた Ling 氏は、Vouch のローンチで初めてつまづき、挫折を味わうことになった。

彼はこう回想する。

当初はターゲットマーケティングにビッグデータを使いたいと考えていました。政府から5万シンガポールドル(3万7,000米ドル)の補助金を得て、4か月で市場を獲得する予定でした。

その目標はあまりに理想的だった。Vouch の資金は底をつき、Ling 氏は会社を閉じてチームを解雇しなければならなくなった。Ling 氏はこの失敗を「起業初心者の愚かさ」のためだとしている。

Ling 氏は最初からやり直し、何か新しいことをやってみようと決めた。チャットボットである。Ling 氏はこう述べる。

特にフィリピンのようなところでは、多くの人が Facebook や Instagram で物を売っています。人々は「いくらですか?」というような質問を、値段がそこに書いてあるのにもかかわらず、繰り返し尋ねていることに私は気づきました。

Ling 氏は自費で5万米ドルをこのプロジェクトに投じ、開発者を雇用した。セラーの Facebook ページに統合され、何が売られているのかを理解し、「この商品はまだありますか?」とか「この商品はいくらですか?」といったよくある質問に答えるようなアプリを彼らは設計した。

このアプリはオンラインセラーの間でヒットし、1か月後には純粋に口コミだけを通じて800の業者が登録したが、セラーの売り上げを伸ばすことはできなかった。

買い手はやはり人間らしさを求めていたのですが、当時はそれが分かっていませんでした。

Ling 氏はそう思い返す。

その時、妻は第3子を妊娠していました。残っていた個人的な蓄えは3,000シンガポールドル(2,200米ドル)でしたので、非常にストレスフルな時期でした。

幸いにも Vouch は好機をつかんだ。Lee Kuan Yew School of Public Policy や Cathay Organization のような組織が、チャットボットの潜在的な用途について Ling 氏にアプローチしてきたのだ。

ホスピタリティ産業への移行

Vouch にとっての本当のターニングポイントは2017年、Tourism Innovation Challenge for Hotels でピッチを行った時だった。

Singapore Tourism Board(シンガポール政府観光局)が実施するこのプログラムは、シンガポールのホテル業界において生産性とカスタマーエクスペリエンスを高めるテクノロジーを見出そうとするものだ。選出されたプロジェクトは資格取得費用の70%までの資金、ならびに業界内のパートナーシップへのアクセスが得られる。

政府の保証も助けになる。その後、Hyatt グループ傘下の高級ホテル Andaz Singapore も、ホテルに滞在するゲスト用のチャットボットシステムを求めて Vouch にアプローチしてきた。これによって、ゲストエクスペリエンス全体を高めるようデザインされたチャットボットシステム、ConcierGo のローンチへとつながることとなったのだ。

同社はゲストのオンボーディングエクスペリエンスに注意を払った。Ling 氏と彼のチームはゲストの視点から経験するためにホテルの部屋を訪れ、ユーザが Facebook Messenger を通じてチャットボットともっと交流できるようにタグをつけた。

ConcierGo によって Andaz はゲストの問い合わせにより速く応答することができるようになり、またホテルのコールセンターの作業量も削減された。

Ling 氏はこう述べる。

ホテル業界において弊社のチャットボットは投資利益率が非常に高いということが分かりました。弊社はオンラインの問い合わせの90%に自動で答えることができ、仕事量においてフロントは40%、コールセンターは30%削減することができました。

Ling 氏と彼のチームは、Andaz のゲストが結婚式の予約や会議のパッケージといった特定のサービスについても尋ねているということに気づいた。そのためデジタルコンシェルジュの能力を拡張することになった。

3か月間で5組の見込み客があり、そのうち3組は実際に結婚式の予約が入りました。Andaz で結婚式を挙げるということですので、つまり10万米ドル以上ということです。(Ling 氏)

このポテンシャルを目にした同社は、ホテルだけではなくもっと広範囲なホスピタリティ業界に注力することを決めた。

Andaz Singapore のチャットボットは成功を示して見せ、3か月の間に2,100人以上の人々とのやり取り、3万1,000件以上のメッセージを処理した。このチャットボットはさらに特定の季節の催し、例えば同国のナショナルデーパレード(独立記念日の祝賀行事)に関して「ナショナルデーパレードの花火を部屋から見ることができますか?」というような質問にも答えることができた。

この結果によって Vouch はシンガポール政府観光局の信頼を勝ち取り、同社がホテル用のデジタルコンシェルジュを製作するというプロジェクトの許可を取り付けた。

それ以来、Capri Changi City Point や Capri China Square を含む他のホスピタリティブランドも Vouch と提携している。同社はインドネシアのビンタン島トレジャーベイにあるThe Anmonにも最近ローンチし、間もなくそこで事業を拡大する予定だ。

Vouch は投資家も獲得しており、2018年のシードラウンドでは15万米ドルを調達した。

競合には、Marina Bay Sands にソーシャルメディアチャットボットを開発している AiChat や、東京を拠点とする Bebot などが挙げられる。また、昨年後半シンガポールにオフィスを開きアジア太平洋地域全体への拡大を目指す Instaroom、ならびに最近 Tech in Asia の初開催となったピッチナイトで優勝した Winimy といった企業も存在している。

ホスピタリティチャットボット界隈は「勝者が全てを手に入れる」といった市場ではないが、それはつまり多くのプレイヤーの参入余地があるということだ。また地位を守る能力についても疑問がある。きちんとしたチャットボットエクスペリエンスを作り上げる技術障壁は、おそらくあまり高くはないだろう。

市場の制覇に向けた計画

それに対抗するため、Vouch の次の動きはシンガポールのホスピタリティ業界から観光分野へと拡大することである。Ling 氏は言う。

弊社にはさらに大きな機会があると気づきました。観光分野全体を制してみるというのはどうでしょう。ホスピタリティ業界のみに留まる理由はありません。

ホテル業界における長期的な販売サイクル、特に7,300米ドルを超える購入は、収益のボトルネックになるとする同氏の所見に基づき、同社はホテル用の低コストなチャットボットの開発も行っている。

彼はこう述べる。

弊社がやろうとしていることの1つは、購入上限額が低いホテルにフィットし、似たレベルの機能を提供する低コスト製品を作ることです。簡単に言うと、弊社が活動する市場、つまり主な顧客はすでにホテルではなく、一般的な旅行客であるということです。それこそが弊社が考えているビジネスモデルなのです。

製品の作成コストを下げるために、同社はカスタマイズ性が低いチャットボットを、ホテルではなく Vouch の独自ブランドの下で展開することを考えている。

今のところ Vouch は資金を調達していない。Ling 氏によると同社は現在自立しているそうだが、予定されている低コスト製品が検証されれば、間もなく資金調達を行うだろう。

シンガポール政府観光局の Attractions Innovation Challenge の下で Vouch は今年末までに、Singapore Zoo、Night Safari、Jurong Bird Park、そして River Safari のアトラクションを管理する組織 Wildlife Reserves Singapore および National Gallery に向けたデジタルコンシェルジュをローンチする予定。

また同局は今年末までに動き始める計画で、シンガポールを訪れる全ての観光客向けのデジタルコンシェルジュ構築に Vouch を指名した。

もしこれらのプロジェクトが上手くいけば、Vouch はシンガポールの観光客チャットボット市場を制覇することができるかもしれない。

以下が Vouch の考えるビジョンだ。同国を訪れる観光客は Facebook Messenger 上で Singapore Tourism Concierge のチャットボットと話をし、シンガポールで一番人気の場所へ行く自分専用の旅行日程を作ってもらうことができる。また同じチャットボットで航空券の予約や、Vouch と提携しているホテルの予約もできる。

シンガポールに到着後、観光客は同デジタルコンシェルジュにホテルへの行き方を聞くことができるし、レンタカーを予約することもできる。そして、例えば Andaz のようなホテルに到着すると、ConcierGo がチェックインやその他のホテル関連のこと、特別な要望やルームサービス、部屋の清掃についての手続きも代わりに行ってくれる。

観光客が Singapore Zoo へ行きたいと思ったならば、動物園のデジタルコンシェルジュが ConcierGo とリンクし、食事の好みや身体障碍者用施設、到着時間、滞在時間といった訪問客の特別なリクエストを受け取って、動物園がその人用のスケジュールを組み上げることができる。

これら全てが自分だけの旅行体験を作り上げる。Vouch はどこででも使えるチャットボットで日々の問い合わせに対応しながらフレンドリーなツアーガイドの役も務め、この旅行体験の中心にありたいと望んでいる。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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