懸念広がる「スタートアップの資金繰り」ーー外為法関連法令の改正にVCら有志が声明を発表

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国内の独立系ベンチャーキャピタルを中心とする有志は8月29日、「外為法に関する規制強化に対する表明」を公表した。5月に発表された「外為法に基づく対内直接投資(外国投資家による非上場株式の取得)に関する告示」に関するもので、8月31日から外国投資家が対内直接投資を行う場合、これまでよりも広い範囲で当局に対して事前の届出を行う必要が発生する。

声明を出したのは今月発足した勉強会「Startup Investor Track(以下、SIT)」に参加する一部有志ら数社。SITはスタートアップを支援する投資家らがノウハウ共有など目的に設立した任意のコミュニティ団体。独立系のベンチャーキャピタル28社および10名の個人投資家が初期メンバーとして参加している。

今回の改正で事前届を要する業種が拡大したことで、これまで対象ではなかったスタートアップ企業が届出の範囲となる可能性が持ち上がっている。改正内容では事前届を受理した日から原則30日間は投資実行が禁止されることになるため、資金繰りに猶予のない企業の死活問題に発展する可能性が指摘されている。

同声明では告示の運用上の工夫等によって、これまで通りの迅速な投資が継続できるよう期待を表明している。

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<公表声明全文>

外為法に関する規制強化に対する表明

令和元年5月27日に、外為法に基づく対内直接投資(外国投資家による非上場株式の取得)に関する告示が発表されました。令和元年8月1日から適用されている改正告示には、経過措置が設けられていますが、令和元年8月31日以降に外国投資家が対内直接投資を行う場合、外国投資家は、これまでよりも広い範囲で当局に対して事前の届出を行う必要があります。

事前届出が必要となる特定の業種については、我が国の安全保障の観点から、これまでにも何度か規制対象が拡大されてきましたが、今般の改正告示により、国内の大半のベンチャー企業が関わっている、ソフトウェア開発やインターネットを用いた事業が、事前届出の対象業種に含まれることになりました。

なお、外国投資家の定義には、日本の上場企業が日本法に基づいて組成したファンドだが、当該上場企業の外国人株主比率が50%を超えるものが含まれ、日本のベンチャーキャピタルの多くが、外国投資家に何等か関係する状況になっています。

従来から、外為法は、外国投資家が対内直接投資を行うに際し、当該投資が特定の業種に係る場合に、当局に対する事前の届出を要求しており、我が国の安全保障はじめ重要な国益の維持発展に寄与してきていたと承知しております。

今般の外為法に関する改正告示につきましては、その趣旨として、以下の内容が掲げられています。

「近年、サイバーセキュリティーの確保の重要性が高まっていることなどを踏まえ、安全保障上重要な技術の流出や、我が国の防衛生産・技術基盤の棄損など、我が国の安全保障に重大な影響を及ぼす事態を生じることを適切に防止する観点」

我々は、ベンチャー企業への投資や育成に関わる立場として、我が国の安全保障等への重大な影響を防止するとの法令改正の趣旨に、大いに賛同しております。

他方、我々が支援しているベンチャー企業の大半は、我が国にイノベーションを起こし、我が国経済の将来を活性化し、国益を最大化させるとの大志を抱きながら、運転資金が途切れ、事業を閉鎖せざるを得ないリスクを常に抱えています。そのため、ベンチャー企業に対する資金提供者から迅速な投資意思決定を引き出し、運転資金を確保することが死活的に重要となっています。

我々ベンチャー投資に携わる者どもとしても、こうした適時的確な投資を行うことが、日本の国益の増進に適うものと確信し、活動を進めてきております。

しかしながら、今般の外為法に関する改正告示に基づいて事前届を要する業種が拡大したことにより、これまで事前届を要さず適時迅速な投資ができていたベンチャー企業に対しても、事前届が必要となり、期間短縮への配慮があるとは承知しつつも事前届の受理日から原則30日間は投資実行が禁止されることとなりました。

これにより、未来のイノベーションをけん引し、日本の国益を増進する主体の一つとなりうる有望なベンチャー企業が、適時迅速な資金調達ができなくなり、倒産の憂き目にあうケースが出てくる可能性が懸念されています。

実際に、我々ベンチャーキャピタルや個人投資家として、法令諸規則にしたがい8月以前から準備を進めてきたものの、実際の投資の機会が間近に迫った中で対応を行おうとすると、どうしても申請後から承諾受領までの期間が迅速性を損うことが、現実に起こりうるとの認識を強くしつつあります。

我々ベンチャー投資に関わる者どもとしては、今般の外為法に関する改正告示の趣旨に完全に立脚しながらも、同時にイノベーション促進による社会課題解決や経済の活性化といった国益の増進が図られるよう、改正告示の運用上の工夫等がなされることにより、適時かつ迅速な国内ベンチャー企業への投資が引き続き実現されるよう、強く期待しております。

先日開催したSITにおいても、本件議論がなされ、その際に、上記懸念と期待が示されたことを踏まえて、今回有志により本件表明をするに至ったものでございます。

国内独立系ベンチャーキャピタル・エンジェル投資家から構成されるStartup Investor Track(SIT)有志

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