AIドクターは世界医療をどう変える?ーー医療システムをハックする「2つの戦略」【後半】

by ゲストライター ゲストライター on 2019.8.21

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ニュースサマリー:前半からの続き。人工知能を利用したAIドクターを提供する「Babylon Health」がシリーズCで5億5000万ドルの資金調達を完了した。本件に関連してAIドクターの潮流について考察をお届けする。

話題のポイント:CEOは「ヘルスケア領域では世界の様々な国のニーズに合わせ、ローカライズが必要だ」と言っています。同社が挑戦する「社会保険システム」「民間保険システム」は各国で患者のユーザビリティに多少違いはあれど、お金の流れが大体同じと言えます。

アジア・アメリカ市場での成功は世界へ裾野を広げることを容易にするのです。次に、イギリスで培ったAIドクターによる初期診察の技術を強みにどのような戦略でアジア・アメリカへ事業拡大するのかを考えていきます。

パートナーシップ

同社が挑戦する両市場に共通するのは、医療費の自己負担額がゼロになることが少ないことです。更に予約、訪問、診察、会計を考慮すると、患者は受診を負担と感じています。実際、医療費の自己負担額が無料のイギリスで、同社のアプリを利用した40%の患者が自己治療を選択しています。

一方、医療サービス業者側は「出来高払い」であるため診察報酬が高い内容を優先して行いたいと考えるのが本音ではないでしょうか。しかし緊急性以外の理由で優先順位を決めるのは難しいだろうと思います。

AIドクターによる初期診察は条件が整えば、患者の負担軽減と医療サービス業者の希望を両立できます。それはリアルクリニックとの連動です。ここでは対面での受診、処方箋の発行を行うクリニックをリアルクリニックと呼んでいます。

同社のサービスがバーチャルクリニックとすると、初期診察だけがバーチャルになるだけではリアルクリニックの利便性に勝てません。初期診察が二重になり、かえって負担になるケースもあるでしょう。

前述の通り同社はイギリスでNHSを巻き込むことで成長してきました。同様に違和感のない医療スキームを構築するためにリアルクリニックとの連携がトラクションを生むと考え、連携システムに大きな投資を実行することが予想されます。

連携システムの充実は医療サービス業者にとって患者単価を上げることに加えて、来院しない患者からの収入を生み出す可能性があるためインセンティブが小さくありません。

リアルクリニックには連携する理由があり、同社者には準備をする資金と実績があるのです。

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医者の雇用による低価格化

アメリカにはすでに競合になるTeladoc、Health Tapなどの大手が存在します。遠隔治療サービスに位置づけられ、オンライン診察や基本的な医薬品の処方を24時間受けられます。同社は既存の大手に対抗する戦略を持っています。それが医師を専属雇用し、効率的に対応をすることで価格を抑える仕組みです。

Teladocを例にすると、2016年時点で登録医師を約3100名を抱えて2000万人を超える会員に対応をしています。これに対して同社は利用者430万人に対し、1日あたり4000件の医療診断を約100人の医師で対応しているといいます。価格はTeladocが468ドル/年なのに対して、同社は89.99ポンド/年で大きな差があります。

まだアメリカでのサービスが始まっていないため価格の差が縮まる可能性はありますが、十分なアドバンテージになることが予想できます。アメリカ市場では低価格化戦略が大きなインパクトになるでしょう。その背景を少し紹介します。

アメリカのヘルスケア領域では経済性が要求されます。質の高い医療には高い対価を支払うという考え方から医療費が高く、その保険料の負担を企業が担うことが多いからです。医療に資源の効率分配が実現していることは医療技術の進歩に貢献します。しかしこれがさらなる医療費の高騰を生んでいます。

企業には高騰する医療費が死活問題となるため、価格に一層敏感になっているのです。この状況を変えるために、雇用者の保険料負担額が大きい保険プランに移行する企業、また保険を提供しない企業が増えています。これはオバマケアが生まれた経緯でもあります。

上記の背景から、低価格化の戦略はアメリカ市場で必須要素であると言えます。同様の理由からアジアよりも先行してアメリカ市場を開拓していくのかもしれません。それほど市場の要求にマッチしているのです。

ここまで、「お金の流れ」の観点から同社が世界を取りに来た考える理由とグローバル戦略を考察してきました。特に2つの戦略は一見当たり前のように感じるかもしれません。

しかし、イギリスで培った強みがなければ実現は難しいものです。

ここに同社が世界で利用されるサービスを作り上げるのが時間の問題だろうと考える理由があります。(執筆:佐々木峻

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