シンガポール拠点の国際送金スタートアップInstaReM、記録的な成長で今年の取扱額は50億米ドルに達する見込み——2022年のIPOも視野に

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国際決済企業 InstaReM は前年と比較して目覚ましい成長を記録した。同社の共同設立者兼 CEO の Prajit Nanu 氏によると、事業はうまくいっているとのことである。

シンガポールに本拠を置く InstaReM は2015年に事業を開始した。Nanu 氏によると、同社が昨年扱った取引額は10億~15億米ドルで、今年の取引額は50億米ドルに達する見込みだという。これは昨年と比較しておよそ5倍になる。

InstaReM CEO Prajit Nanu 氏
Photo credit: Instarem

一方、ロンドンに拠点を置く Transferwise も同様に国際決済業界に参入しており、2019年第1四半期の月間取引額は30億英国ポンド(約36億米ドル)で、第2四半期はそれが40億英国ポンド(48億米ドル)に達した。第2四半期の数字から推定すると、年間の取引額は576億米ドルに及ぶ。

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McKinsey によると、国際決済関連の全世界の収益は2017年時点で1,910億米ドルであった。これは国際的なフィンテックスタートアップには大きな可能性があることを示している。

InstaReM はアジアと北アメリカ、ヨーロッパの40か国以上でサービスを展開している。同社のプラットフォームでは、ユーザは55か国以上に送金することができる。

Global Founders Capital や Vertex Ventures(Temasek Holdings のベンチャーキャピタル部門)、Fullerton Financial Holdings が InstaReM の投資家として名を連ねている。創業以来の調達金額は5,950万米ドルにのぼる

InstaReM の成長には B2B のパートナーシップが大きく寄与している。

銀行ビジネスによってサービスを大きく拡大することができます。プラットフォームに銀行機能を組み込むと、月間取引額はあっという間に1,500万~2,000万米ドルになります。

Nanu 氏は言う。同氏によると、取引額は「そう遠くないうちに」1億米ドルに達するとのことである。

5月にタイの銀行グループ Kasikornbank と提携した InstaReM は、銀行利用者への国際決済サービスを強化している。Nanu 氏によると、今後2か月以内に別のパートナーシップも発表する予定だという。

銀行業務と国際送金の大手である MoneyGram や Western Union は、その不透明な手数料システムにも関わらず、これまで業界内で独占的な地位を確保してきた。しかし InstaReM や Transferwise、シンガポールに本拠を置く M-Daq、ロンドンに本拠を置く WorldRemit といったフィンテック系スタートアップがその牙城に迫ろうとしている。

国際送金の自由化

「instant remittance(即時送金)」を略して社名にした InstaReM は、透明性の高い価格システムと手数料なしの外国為替レートに誇りを持っている。つまり、同社は利ざやを上乗せせずに、銀行間外国為替レートで顧客にサービスを提供している(一般的な銀行はこのようなことはしない)。その代わりに名目上の取引手数料を請求している。

InstaReM の内部調査によると、その結果として競争力の高いレートになっているという。

Photo credit: Instarem

しかしなぜ送金サービスを選んだのだろうか?

利用者側のバックエンドインフラと銀行の取引は似ている部分が多いため、Nanu 氏は InstaReM のサービスをさらに拡大させることにした。個人や中小企業、そして金融機関までもが利用できる「グローバルな金融インフラプラットフォーム」に進化させることにしたのだと、同氏は言う。

送金、支出、そして受取

Nanu 氏によると、InstaReM の最大の強みは同社の幅広いソリューションとサービスにあるという。プラットフォームを利用するユーザは「送金、支出、受取」という3つの主要製品からメリットを得られる。

  • ユーザは InstaReM の送金プラットフォーム上で送金と受け取りができるため、個人と企業の間で国際送金や決済も行うことができる。
  • InstaReM を利用するクライアントも、カード発行サービス経由で支払いができるため、自社のスタッフや取引相手、そして顧客に支払いカードを利用してもらうことができる。
InstaReM のリトアニアオフィス
Photo credit: Instarem

InstaReM の送金プラットフォームにおける手数料は取引額の0.25%~1%となっており、ユーザの居住国と送金先によって手数料の割合は異なる。

Nanu 氏によると、同社の消費者向けビジネスへの顧客獲得に向けた支出は、企業向けビジネスと比べてかなり低いという。これは、消費者向け送金ビジネスについては、InstaReM はインドなど特に競争が激しい一部の市場にだけ注力しているためだ。

送金プロセスのなかで中間的や役割を果たす銀行員の大規模なネットワークを抱え、実店舗を持つ銀行とは異なり、InstaReM は顧客の銀行口座から直接お金を集め、それを好きな口座に送金することができる。これによってコストを低く抑えながら、ビジネスを継続させるのに十分な額の利益を上げることができると Nanu 氏は言う。

先月スタートした InstaReM のカード発行プラットフォームは、Visa のアジア太平洋地域の決済ネットワークを利用することで、企業が独自ブランドのクレジットカードを持てるようにしている。こうした企業は複数の現地ライセンスを持たなくてもパートナーにクレジットカードを提供したり、独自の決済インフラを開発することができる。

新たな市場でクレジットカードサービスを立ち上げるのは手間と時間がかかるため、この新たなプラットフォームは重要な意味を持つ。クレジットカードサービスを立ち上げるには、新しいライセンスを取得して決済カードを発行してくれる金融機関を見つける必要がある。Nanu 氏によると、企業が決済・送金サービスに関わろうとすると、シンガポールでは最大で9か月かかるという。

現在、InstaReM は同社の製品スイートを利用するスタートアップに対して月額99米ドル のアクセス手数料を請求している。ただし、追加のサービスを利用したい場合は、それに関連するコストが必要になる。例えば、同社のプラットフォームでカードを発行するたびに2米ドルかかる。

InstaReM は卸売銀行になるべく、自国でデジタル銀行のライセンスを取得する意向を公式に示している。

Nanu 氏によると、シンガポールには魅力的なデジタル登録プロセスを提供する、大手の地元銀行があるという。つまり、InstaReM にとっては個人向けの銀行業務市場で差別化できる余地が少ないのだ。

InstaReM が他社と違うのは、同社にはプラットフォームを中心としたアプローチがあり、それによって主要製品に加えてデジタル銀行の運営などの付加価値サービスを構築できるという。送金サービスだけに特化した競合他社とはこうした点が異なっている。

アジア太平洋地域の決済サービス規模は9,000億米ドル以上にのぼり、世界の決済サービスの収益の大半を占めている。そのシェアは50%に近づこうとしているのだ。

そこに InstaReM が活かせるチャンスもある。アジア、特にシンガポールやマレーシア、オーストラリア、香港が同社にとって重要な市場となっている。同社は今年、インドネシアと日本で新たなライセンスを取得する見込みだ。

2022年の IPO も射程圏内

InstaReM は当初の予定より1年遅れの2022年の IPO に向けて順調に歩を進めていると Nanu 氏は言う。

IPO のプロセスに入る前に複数年にわたって成長を続けることが非常に重要です。

同氏は説明する。また、上場前に年間収益目標の1,500万米ドルも達成したいと付け加えた。

InstaReM は2020年第3四半期までの黒字化を視野に入れている。

黒字化しようと思えばすぐにでもできます。しかし、今はグローバルビジネスの成長に集中しているところなのです。

現在、InstaReM はシリーズ D ラウンドを開始しており、今年末までには完了する見込みだ。

InstaReM は自社をインフラプラットフォームとして売り込んでいるため、投資家との関係性が重要になってくる。同社の現在の投資家の大半はアジアと東南アジアに注目しているが、Nanu 氏は InstaReM がグローバルに拡大するのをサポートしてくれる投資家を探しているという。

ラテンアメリカは特に興味深い市場だ。McKinsey のレポートによると、この地域の決済市場は今後5年間の平均年間成長率が8%と見込まれており、その成長率はアジア太平洋地域に次ぐものとなっている。他の決済関連企業もこの地域に注目しており、Transferwise は2016年からブラジルに進出している。

InstaReM は今年、ラテンアメリカにも地域本社を開設する計画がある。メキシコでのライセンス取得に向けてすでに動き始めており、ブラジルでもライセンスを取得する予定だ。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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