開館3年、インスタ映え美術館に2億ドル評価ーー映え時代スタートアップ「Figure8」が4,000万ドル調達

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2019.8.31

ピックアップ: The Museum of Ice Cream Is Worth $200 Million Somehow, Please Help

ニュースサマリ:8月15日、2016年にニューヨークで創業した「Figure8」の運営するアイスクリーム美術館「Museum of Ice Cream」に2億ドルの市場価値が付いたと発表された。同日、Figure8はシリーズAにて4,000万ドルの資金調達を実施したことを発表。

アイスクリーム美術館は2016年にニューヨーク・マンハッタンで開館された。2017年にはロサンゼル、サンフランシスコ、マイアミにまで拡大を図った。入場料は全年齢38ドルとなっている。

コンセプトは非日常の中でクリエイティブな刺激を得られ、同世代の人たちと繋がれる空間創造。その場にいる人たちがインスタグラムに「#MuseumOfIceCream」のハッシュタグと共に写真投稿することで、ユーザー同士が繋がれるコネクション空間を再現した。

グローバル化やテクノロジーの進歩によって、都市部を中心に孤独を感じる人が急増している。こうした若者をターゲットに、デジタル世界と現実世界を交差させる空間を提供することで共感を生む場を作り出しているという。

Figure8は2020年までにアイスクリーム以外のコンセプトを用いた美術館の開業を目指しているとのこと。創業者であるMaryellis Bunn氏は現在27歳の女性起業家。2018年、ビジネス誌『Forbes』が選ぶ30歳以下の注目人に選出されている。

映え美術館のメディア戦略

話題のポイント:Museum of Ice Creamの提供価値はインスタ映えスポット。ミレニアル及びZ世代の若い女性に親しまれるSNS時代の体験型施設を提供しています。

反響は非常に大きく、マンハッタンに開館した際は5日間で30万枚、540万ドル相当のチケットを売りさばいたとのこと(当時は1枚18ドル)。38ドルへと大幅な値上げをした現在でもニューヨーク館のチケットは予約販売のみで売れ行きは好調な様子。加えてInstagramページには約40万フォロワーが、ハッシュタグ「#MuseumOfIceCream」には約20万件が投稿されています。

さて、Figure8の大型調達の背景には現代美術館のメディア化戦略が挙げられると考えられます。軸となるのは3つの要素。

まず最初に「世界共通言語」で攻めるコンテンツ選択が挙げられます。食は世界どの人にとっても受け入れやすいコンテンツ。人種のるつぼと呼ばれる米国で共感を生むには最適な領域です。事実、SNS動画メディア「Tastemade」や「Tasty」の台頭にもこうした背景が当てはまります。

なかでも米国でのアイスクリーム人気は日本と比べ物になりません。スーパーでは樽販売が当たり前ですし、たとえば日本では250円近くする高級なハーゲンダッツも100円台で買えます。

アイスが手頃な値段で売られているのは大量生産されている証拠と言えるでしょう。市場規模を比較すると日本の約3倍を誇る100億ドル。安価ですが大量消費が行われているため、現地に住めば実数値以上のアイスクリーム需要を感じるはずです。

全米展開のみならず、世界各国への進出を狙えるのが「食」コンテンツ。そのなかでも毎日の生活で当たり前に存在し、なおかつ女性からの人気が強く、可愛く発信できるものがアイスクリームであったわけです。

2つ目に挙げられるのが「ネイティブ広告」。ターゲットが明確化されており、興味・趣向がスイーツ好きの女性に限定されているアイスクリーム美術館では広告が非常に打ちやすい環境が出来上がっています。一方的なアプローチではなく、体験の中で自然と広告商品を認知・理解・体験してもらえる場になっている構図です。

たとえば来場客に配布されたチョコレートバーDove Chocolate」は配布月に9%の売上増となったと言います。他にもデートアプリ「Tinder」や「American Express」がスポンサーに入っています。

大手食品メーカーとのタイアップ広告には今後とも商機があるでしょう。アイスクリームに紐づくスイーツ商品を認知してもらうには打って付けの体験場所であることはDoveの事例からも実績が生まれています。

また、アイスクリーム美術館の派生として誕生したポップアップショップ「Pint Shop」では、大手小売企業「Target」がスポンサーとなっています。自社ブランドのアイスクリームを販売したり、デザインワークショップを体験できる店舗に新たな小売販売の光明を探しているとも言えそうです。こうした小売企業にとって、若い女性層と関わりを持ち、彼女たちの生活趣向を知るR&D拠点になっているとも考えられます。

3つ目は「体験の再現性」。全米で体験の質を落とさずに集客できる、ある種の「サステイナビリティー」がアイスクリーム美術館の競合優勢となっています。

たとえば、最近ではアイスクリーム美術館を真似た「ピザ美術館」が登場。建てつけたように書かれたピザを讃えるコンセプト文に対して、メディアがネガティブな評論をしてこき下ろしています。

こうしたコピー・キャットが登場するのは誰もが想定できたと言えるでしょう。それでもアイスクリーム美術館に客が絶えない理由は創業者の想いがしっかりと反映されているからであると感じます。「ビジネスではなく、これはパッション・プロジェクト」であると明言していることからも熱意が伝わります。

美大出身であり、かつ大手IT企業をクライアントに抱えるクリエイティブ広告戦略に通じた彼女のバックグラウンドも美術館スタートアップを支えている大きな要因。実際、冒頭で説明したコンセプト作りからコンテンツ選び、SNS向けの撮影から共有の導線作りまでの一貫性に美術館作りの質の高さを伺えるでしょう。こうした点が投資家の共感を生んだ点も否めないはずです。

SNSを通じた集客をしているとはいえ、インフルエンサーに100%依存するビジネスライクな施設ではなく、来場客が体験を共有して繋がれる場を追求した導線作りに創業者のコンセプト作りの並々ならぬ想いを感じます。

いわば「インフルエンサーになりきる場所」で終わるのではなく、あくまでも純粋にアイスクリームの魅力を体験できる場所として展開している点がFigure8の美術館ビジネスを支えていると感じます。

自撮り文化は世界中どこへ行っても行われており、現代の新たな文化にまで進化しました。こうした若者世代のトレンドを見逃さず、適切なコンテンツを最適な運用で再現。収益化を着実に行うことでスケールを図ろうとしているのがMuseum of Ice Cream。

オリジナリティが高く、かつ競合優勢の高い世界観を全米各地で再現できている点は非常に大きな価値です。世界中にフランチャイズ形式で展開することで「インスタ映え時代のディズニー」も夢ではないビジネスと言えるでしょう。

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