バイオテクノロジースタートアップのVerisim Life、新薬開発の動物実験回避に向けAI活用のシミュレーション技術を開発

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Image credit: Verisim Life

世界の創薬市場規模は少なく見積もっても350億米ドルもあり、2025年までには710億米ドルにまで達すると見込まれている。しかし、新薬の研究開発から市場投入までには時間と人手がかかる。

プロセスの大半は、薬の効果だけでなく安全性を確認するための綿密な検査に費やされる。また、猿やラット、マウス、犬、ウサギなどを使った動物実験が行われるというネガティブな側面もある。動物実験は創薬において重要な役割を果たすのはもちろんのことだが、人体への投与を伴う治験を行う前に実施することが法的に定められていることを知る人は多くない。しかし、動物実験は時間とコストがかかるにも関わらず、成功率が低い。動物実験が行われる新薬のうち、次の工程に進めるのは全体の10%未満だと言われている。

サンフランシスコに本拠を置くバイオテクノロジースタートアップの Verisim Life(Verisim)が、新薬の動物実験を回避するためにコンピューター上で動物実験のシミュレーションを実現しようとしているのはこうした事情によるものだ。これが実現すれば動物への残酷な行為がなくなるのはもちろんのこと、新薬開発プロセスの幅も広がり、より短い時間と少ない人手で新薬を市場に投入できるようになる。

Verisim は8月14日、Serra Ventures と OCA Ventures がリードする投資ラウンドで520万米ドルを調達したことを発表した。このラウンドには Intel Capital、Village Global、Susa Ventures、Stage Venture Partners、Loup Ventures、Twin が参加している。Verisim によると、今回調達した資金は、声明にもある通り「新薬開発でコンピューターモデリングを実現し、研究の成功率を高める」べく、学会や薬品業界とのパートナーシップの拡大に使われるとのことである。つまり、今回調達した資金は Verisim が概念実証段階から抜け出して、業界にテクノロジーを実際に投入するために使われることになる。

Genentech の臨床前研究ディレクター Eric Stefanich 氏は言う(Genentech は Verisim の初期テスト段階のバイオテクノロジーパートナー)。

新薬開発のコストと時間は何十年にもわたって増え続けています。モデリングとシミュレーションのアプローチには時間とコストを削減し、新薬開発の持続可能性も実現できる可能性があります。Verisim Life はより優れた薬の開発、疾患の予測、治療の効果がある患者の特定、そして患者に合わせてカスタマイズできる薬という理想を実現してくれる可能性があるのです。

これまでの経緯

Verisim は、獣医で比較腫瘍学とゲノム学の博士号を持つ Jo Varshney 博士によって2017年に設立された。機械学習とコンピューターシミュレーションの専門知識を持つ科学者とエンジニアのチームとともに、Varshney 氏は特定の病気に的を絞った、AI を活用したバイオシミュレーションモデルを開発して、薬が動物の生物学的システムにどのような影響を及ぼすかをリアルに再現しようとしている。これによって、製薬研究者は短い時間でより多くの新薬候補をテストできるようになり、人体を使った治験にまでたどり着く新薬もより高い効果を発揮できるようになる。

Verisim によると、同社は今後、人体のコンピューターシミュレーションも開発する計画があるという。

Varshney 氏は言う。

Verisim Life が製薬業界に新風を巻き起こすまで、薬を本当に必要とする患者にそれを届けることができずにいました。臨床前段階では、治験に移る前に新薬の成分が人体にとって安全で効果があるのかを確認するために動物実験が行われています。理由はいくつかありますが、動物実験は無意味で健全ではありません。理由の1つは時間とコストがかかり、研究開発の人員を無駄にしてしまうことです。2つ目は、薬物検査には試行錯誤を繰り返す側面があり、それが動物の虐待につながっていることです。そして3つ目は、人体の生理を理解するために動物を使っても効果は低く、失敗率も92%という高さになっていることです。他の動物と人間はまったく別ものなのです。

Image credit: Verisim Life

Zion Market Research によると、2018年の世界のバイオシミュレーション市場規模は低めに見積もっても17億米ドルになるという。しかも、2025年までにはこれが46億米ドルにまで達する可能性もある。さらに視野を広げて見てみると、特に AI を使ったバイオテクノロジー創薬や開発段階に多くの投資が集まっていることがわかる。

昨年には Alphabet のベンチャーキャピタル部門である GV が Owkin に投資している。Owkin はディープラーニングアルゴリズムを活用して、臨床研究者が予測モデルを開発し、創薬を効率よく進められるようにするためのプラットフォームだ。機械学習を活用して最先端の創薬エンジンを開発する Relay Therapeutics には、GV とソフトバンクが投資ラウンドで4億米ドルを投資している。他でも、スタンフォード大学の研究者たちが、薬の影響を予測する AI モデルを開発している。この AI モデルは複数の薬を同時に服用するケースをシミュレーションする場合に特に威力を発揮する。

製薬業界と学会は長年、コンピューターモデルを使って薬の毒性や飲み合わせを予測しようとしてきた。しかし、規制当局からはいつも動物実験を要求されてきた。正当な理由によって厳しい規制が敷かれてきたのだ。しかし、ビッグデータの分析と処理が飛躍的な進歩を遂げ、機械学習も進化したことで、効果を発揮する新薬を短時間で市場に投入できるバイオシミュレーションが重要な手段として見られるようになった。

Varshney 氏は言う。

私たちの機械学習アプローチでは、余計な実験をしたり動物を残酷な実験に巻き込むことなく、薬の効果をシミュレーションすることができます。また、現在は新薬のうち実際に市場に投入されるものの割合は8%となっていますが、もっと高い成功率を達成することもできます。より多くの人が本当に必要とする治療を受けられるようになるのです。私たちのパートナーは研究においてより短時間で結果を得ることができるようになります。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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