本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿)
The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist.

8月、毎年夏の恒例になりつつあるバルト3国への旅のため、私はヨーロッパに戻っていた。今回は、旅の大部分をエストニアのタリンで過ごした。私はタリンの街が好きで、将来の投資先になりそうな所もいくつか訪問した。
自分のエストニアの会社の事務作業もいくつかこなした。でも、エストニアの「e-residency」のプログラムのおかげで、これらの事務はオンラインでもこなせるため、率直に言って、ほどんど作業は必要なかった。エストニアに出向く必要さえない。
ご存知ない方のために申し上げるなら、EU 域内で何かしらビジネスをする関心があるなら、エストニアの e-residency を検討することを強くお勧めする。ヨーロッパ以外の市民にとって、その恩恵は非常に大きい。私のような EU 市民でさえ、e-residency を取得し、その後、エストニアに会社を設立する理由を多く見つけた。私は当面の必要性より知的好奇心からこの冒険を始めたが、昨年、エストニアのスタートアップに初めて出資した時、e-residency を持つことで、全ての事務処理が劇的に促進されることがわかった。
バルトの虎
ヨーロッパが持つ問題解決の力やイノベーションについて考えるとき、エストニアのような小さな国を賞賛せずにはいられない。人口わずか130万人しかいないこのバルトの国には、ハイテクユニコーンが4社もある。人口が100倍以上の日本よりも多い。
エストニア生まれの Skype は最初の eBay の頃にスタートアップブームを起こし、のちに Microsoft が85億米ドルで買収。創業者らはそうして得た利益を母国に再投資した。それ以来、さらに3つのエストニア企業がユニコーンの基準とされる企業価値10億米ドルを上回った。Playtech(ギャンブルソフトウェア)、Taxify(配車)、TransferWise(送金)だ。
「Skype マフィア」ロールモデルの集積、エストニアの起業家 DNA、エストニアのデジタル政府インフラが、スタートアップに適した環境作りを促した。人口に占めるスタートアップ数で見れば、エストニアのそれはヨーロッパ平均の6倍、人口10万人に対しスタートアップの数は31社を超えている。
e-residency 登録者では日本人が最多だけれど……

昨年、エストニア領事館との面談で、e-residency には世界中から5万人が登録していて、信じるかどうかはさておき、日本からの登録が最多を占めていることを知った。
これは名誉なことなのだが、日本の e-residency 登録者は一度 e-residency のステイタスを手に入れてしまうと、その後何もしないという評価をエストニア政府内で買うに至っている。言い換えれば、エストニアへの投資、公共部門の活動へのオンライン参加、あるいは、個人用にエストニアで簡単な会社を作るなど、e-residency の精神を尊重する日本の e-residency 登録者はほとんどいない、ということだ。
この話を聞いたとき、急ぐ必要はなかったものの、私は自らエストニアに会社を設立することをその場で決め、日本のイメージを払拭しようと決意した。
エストニアで新会社を登録するのは極めて簡単だ。e-residency を入手したら、その後は新会社を作るまで1時間かからなかった。まさかではあるが、そのうちの45分間はスマートカードリーダーを認識するよう Windows OS をアップグレードに費やしたので、エストニアの事業作成手続には実質的に15分間しかかかっていない。この手続は遠隔でも実行できるが、エストニア現地の登録連絡先が必要になる(政府が運営するサービスプロバイダのマーケットプレイスを参照するか、紹介が必要なら私にメールしてもらってもいい)。
この投稿を書きつつ、私はエストニア政府から金をもらっている広告セールスマンが話しているように聞こえてしまう危険を禁じ得ないが、誓って、私は彼らから金をもらっていない。私の伝道は純粋に利他的だ。古い格言に例えるなら、「改心した人こそ最も熱心」ということだと思う。
まだためらっている? エストニアは、未分配利益に法人取得税を課さないことを知るべし。
Elagu Eesti!(エストニア語でエストニア万歳!)
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