流通半減でも「転売ヤー」は撲滅ーー復活のチケスト、パ・リーグ3球団と提携して「公認リセールパートナー」に

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ニュースサマリ:チケットリセールの「チケットストリート」は8月29日、パ・リーグ3球団と提携して同球団の「公認リセールパートナー」になったことを公表している。提携したのは北海道日本ハムファイターズ、千葉ロッテマリーンズ、オリックス・バファローズの3球団。

スポンサーシップ契約の締結によるもので、これら3球団が主催する興行チケットの二次取引がチケットストリート内で可能になり、都合により行けなくなったチケットなどを他人と売買することができる。個人間のリセールサービスとして開始し、2020年から年間指定席を購入している法人も出品可能になる。

話題のポイント:チケットストリート(以下、チケスト)の久々の大型発表です。チケットのリセールについては、C2Cのバーティカル(特化型)で最も注目を集めながらここ数年不遇の時期が続いたテーマでもあります。いくつかの視点で今回のチケストの取り組みについて考察してみます。

  • チケキャン・ショックで見えなくなった「正しい二次流通」
  • 白黒はっきりした「チケット不正転売禁止法」
  • 流通は半減、でも違法な転売屋はいなくなった

チケキャン・ショックで見えなくなった「正しい二次流通」

前述の通り、チケットのリセールサービスはフリマアプリのバーティカル・カテゴリで最も有力視されたテーマでした。2012年から勃興したフリマアプリの数々は元々、mixiコミュニティの中でやりとりがあった個人間売買を参考にしたものが多く、チケットは中でも売ります・買いますを希望するユーザーが多かったのです。

ここに目をつけたのがチケットストリートとフンザ率いる「チケットキャンプ」の2社でした。

チケットストリートは元々個人のエンジニアが始めた小さなサービスを2011年8月に法人化したもので、2012年にインキュベイトファンド、2013年3月には三菱UFJキャピタルとみずほキャピタルに第三者割当増資を実施し、7500万円を調達。2014年には月間の流通額が1億円を超えるなど順調な成長を続けていました。

一方のチケットキャンプの公開は2013年4月末。創業2年で115億円という巨額の評価をつけてミクシィグループ入りした、伝説的なスタートアップです。売却後も約半年で月次流通総額を3倍の26.5億円にまで伸ばすなど驚異的な成長株として当時、注目の的となったのを記憶している人も多いと思います。チケストも同時期にeBayとグリーベンチャーズから3億円の出資を受けるなど、チケット二次流通はもう間違いのない市場と言われていました。

悪夢が起こったのは2017年末。チケットキャンプが一部転売屋の高額取引を助長したということで、家宅捜索が入った事件(最終的には不起訴処分)が発生した件です。ミクシィは捜索が入った翌日にチケットキャンプのサービスを停止、同社代表取締役も同日に辞任するという大変ショッキングな出来事でした。本稿ではここに多く触れませんが、この日を境に「チケットの個人間売買は不正」という、グレーな認識が広まることになります。

白黒はっきりした「チケット不正転売禁止法」

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チケット不正転売禁止法のマトリックス:資料提供/チケットストリート

そもそもチケットの不正転売とはどういうことを指すのでしょうか?

今もフリマアプリやオークションサイトではチケットの二次流通は発生していますし、当然ながらチケストもずっと運営を続けてきました。ポイントは「規制対象にあたるチケット」と「詐欺行為」の二点で、チケスト代表取締役の西山圭さんがマトリックスを使って説明をしてくれました。

まず最初に「規制対象にあたるチケット」についてですが、転機は2019年6月に施行された「チケット不正転売禁止法」です。名称から誤解されることが多いのですが、チケット転売全部を禁止したものではなく「不正な転売」を特定したものなんですね。マトリックスでもわかる通り、違法に当たるものは実はごく一部にしかすぎません。

具体的には「特定興行入場券」という、日時や座席の指定、購入者の氏名などが特定されているチケットを二次流通業者として興行主に事前同意得ず、勝手に売買(販売価格以上)してはいけないよ、というものです。元々はオリンピックチケットの不当高額転売を規制するのが経緯なのだそうですが、同時にこれまでグレーだったチケット二次流通の法的判断が明確になった、というわけです。

この法律の施行に伴って、興行の主催者には違法なチケットの流通がなくなるよう、リセール環境の整備など、チケットの適正な流通への努力が求められるようになります。今回のチケストの公認パートナーもこういった経緯から実現することになったのです。

流通は半減、でも違法な転売屋はいなくなった

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全てスッキリ解決したようにみえて、もうひとつ残っている問題があります。それが「詐欺行為」です。まさにチケキャン・ショックがそうであったように、世の中には転売の利ざやを稼ぐことを目的に、他人名義などでチケットを購入、高額で転売する人たちがいます。

ややこしいのですが、これは前述の「違法チケット」の件とは異なり、単に騙し取る「詐欺」という別の違法行為になります。これは一次流通のプレイガイド等からの購入部分が罪に問われる対象なので、リセールプラットフォーム側で検知することは難しいのですが、チケットの売買量や売買内容を細かくチェックしていくことで疑わしいユーザーを排除しているそうです。

実際、西山さんの話では問題を受け、こういった可能性のありそうな事業者について特定・監視を続けた結果、流通量としては半減したものの、現時点で99.6%の出品ユーザーは出品件数5件以下になったというお話でした。

可能性のある興行チケット流通の未来

2014年、私は西山さんに取材してこういう記事を書きました。

<参考記事>

西山さんはインターネットビジネスではよく知られたベテランのシリアルアントレプレナーです。フリマアプリが生まれた早い段階からこの市場に着目し、事業を積み上げてきました。チケットの転売は前述の詐欺行為だけでなく、反社会的勢力の問題など至る所に落とし穴があります。

慎重にビジネスを積み上げている様子を知っていただけに、ここ数年の不遇の時期というのはなかなか言葉で語れない部分があります。それだけに今回の大型提携というのは色々な意味で大変前向きな話題ではないかなと。

パ・リーグ3球団のチケットリセールの状況も売れ行き好調というお話で、元々大きな市場の可能性が指摘されていたチケット二次流通。「行きたいけど行けない」という、機会のマッチング市場に改めてかつての勢いが戻って欲しいと願うばかりです。

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