忍び寄る「第2のリーマン・ショック」、防ぐ決め手は“NLP”

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Image Credit:Eigen Technologies

ピックアップ:Eigen Technologies raises $37m (£29m) in Series B funding round to accelerate market expansion

ニュースサマリ:自然言語処理(NLP)を用いたドキュメント分析サービスを展開する「Eigen Technologies」は11月14日、シリーズBで3,700万ドルの資金調達したことを発表した。本ラウンドはLakestarとDawn Capitalが共同でリードし、TemasekとGoldman Sachs Growth Equityが参加した。累計調達額は5,500万ドルに達した。本調達資金はR&Dへのさらなる投資や、欧米での市場展開を加速するために使われる。

同社のNLP技術は、契約書などの複雑な内容の文書からインサイトを抽出することを可能にする。金融安定理事会(FSB)が認定した世界的な銀行「G-SIB」の25%以上で利用されており、シリーズA以降、経常収益が6倍に増えるなど確実な成長を遂げている。

話題のポイント:英国に本拠点を持つEigen Technologiesは、現在ヨーロッパで高く評価されているAI文脈で急成長をしてきたフィンテック・スタートアップです。実際、2019年に入ってから「FinTech50 2019」「Financial Times Intelligent Business Awards」「CogX 2019 Innovation Awards」など数々の賞を獲得しています。

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Image Credit:Eigen Technologies

今回取り上げるEigen Technologiesの特徴は、「第2のリーマン・ショック」の発生を予防に繋がるサービス展開をしている点です。そこでまずは2008年に起きたリーマン・ショックの経緯から説明を始めたいと思います。

2008年、投資銀行リーマン・ブラザースの経営破綻したことをきっかけに起きた金融危機がリーマン・ショックです。信用力の乏しい低所得者向けに高い金利で貸し付けた住宅ローン「サブプライム・ローン」の債権を、住宅ローン会社から投資会社が買って証券を発行。発行した証券を担保に新たに証券化をして金融機関やヘッジファンドに大量に売っていました。

しかし、元々信用力が低い人に向けた貸し付けだったため、不良債権となる案件が大量に発生。これによって担保にしていた住宅の差押えや売却が大量に発生し、市場価格が下落。次々とヘッジファンドが破綻する中、銀行が資金回収を実施して資金流動性と信用を失ったことで経済の悪循環が世界中に波及しました。なかでもサブプライム・ローンを大量に購入していて経営破綻したのがリーマン・ブラザーズです。負債総額約64兆円のアメリカ史上最大の企業倒産になりました。

映画『ザ・ビッグ・ショート』(邦題:世紀の空売り)では、ヘッジファンドマネージャーである主人公マイケル・バリーが担保付債務を調べてサブプライム・ローンという爆弾の存在に気付くシーンが描かれています。ここで描かれてる通り、金融危機の本質的なリスクは十分に予想が可能でした。ところが、当時は市場関係者が必要な情報にアクセスして追跡する手段を用いていませんでした。取引文書の量を考えれば当然のことだと思います。

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Image Credit:Eigen Technologies

さて、リーマン・ショック以降、米国規制当局は銀行に潜むリスクを正確に把握しようと試みてきましたが、現在扱えるのは企業が持つデータのうち20%の構造化された定量的なデータのみです。各契約に潜むリスクは80%にあたる非構造化データに潜んでいます。このままでは「第2のリーマン・ショック」の発生リスクがくずぶったままです。

そこで注目されているのがNLP(自然言語処理)です。複雑な金融商品に関連した契約文書から各種データを抽出できます。そして従来、非構造化データとして放置されてきたコンテンツを分析して資産化することに成功し、金融機関は抽出データを分析して意思決定に利用できるようになりました。

つまりNLPによってローン担保証券の透明性を大幅に高めることができるようになったのです。金融危機の原因リスクについていち早く、かつ正しく認識できるようになったことを意味します。そして、こうしたNLP技術に長けているEigen Technologiesに注目が集まっています。

最大50ほどのドキュメントを学習させるだけで競合他社と同等以上の精度を出す技術を武器として、法的デューデリジェンスや契約のレビュー、運用自動化とレポート、LIBORの特定、電子メールの選別と処理などのタスクを高速でおこないます。競合となるIBM、Kira、Sealなどの機械学習プロバイダーを抑えてゴールドマンサックス、ING、A&O、Hiscoxなどの大手と契約していることから技術力の高さが伺い知れます。

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Image Credit:Eigen Technologies

現在、米国には「レバレッジド・ローン」と呼ばれる信用の低い企業に対して、高金利ではあるものの緩い規制で貸し出される金融商品が問題として浮上しています。これは証券取引委員会を経由しない特徴があるため、規制当局が銀行の引受け基準や未払い額に注意深く監視しなくていはいけない状況が続いています。また、「担保付きローン債務」として有価証券になり、金融商品として扱われている点も含めてリーマン・ショックと酷似するため再来になるのではないかという意見が挙がっています。

そこで今回の調達資金を元に米国進出を本格化するEigen Technologiesに対して期待が集まっています。「第2のリーマン・ショック」を防ぐソリューション提供できれば、まだ黎明期と言えるNLPの象徴的な成功モデルになるはずです。

AI技術の中でも、NLPが資本市場を変革する大きな可能性を秘めていることは明らかです。筆者は定性データの処理能力が向上させ、非構造化データに新たな“価値”を付ける手法が一般化されることが、AIによる本当の変革なのだと信じています。

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