なぜInstagramの従業員第1号はコミュニティマネージャーだったのか?

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ピックアップ: How Kevin Systrom Created Instagram

Instagramの従業員第1号がエンジニアではなく、コミュニティマネージャーであった話は界隈では有名な話です。従来、シリコンバレーのテック企業はエンジニアを積極的に初期から雇い、製品開発を進める傾向にあると思われますが、Instagramはユーザーコミュニティを初期から重視しました。それはなぜでしょう?

ピックアップ記事内にて、創業者のKevin Systrom氏は「コミュニティは最大の資産であり、彼らが抱える問題リストTop10を把握できていないのであれば、自分たちに何らかの問題がある」と言及するほど創業初期からユーザー視点を最重要視していました。あらゆる意思決定を下すために当初からユーザーコミュニティを理解する必要があったのです。

もう少しInstagramのコミュニティマネージャー採用理由を深掘るため、サービス誕生の変遷を説明しながらその理由を紐解いていきたいと思います。

“居場所”を味方にして得た50万ドル

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2009年、Systrom氏は後にFacebookに買収された旅行情報サイト「Nextstop.com」のプロダクトマネージャーとして働いていました。ちゃんとしたプログラミングの勉強をしたことがなかったため、仕事帰りの夜中と週末にコーディングをして基礎を学びます。

同年末頃、位置情報アプリ「Foursquare」が大ヒットの兆しを見せはじめたことから、FoursquareとZyngaがリリースしたゲーム「Mafia Wars」を組み合わせたサービスアイデアを考案。HTML5で早速プロトタイプを作り、友人に見せ続けます。フィードバックをもらいつつ残ったアプリ機能が「写真投稿」「チェックイン」「友人と出かけるとポイントを稼げる」の3つ。ちなみにこの時点での製品名は「Burbn」。

ここでシリコンバレーの「運」にSystrom氏は救われます。ebayに買収された商品レコメンド技術「Hunch」のカクテルパーティーで著名VC「Baseline Ventures」と「Andreessen Horowitz」と出会います。そして後のコーヒーミーティングで50万ドルの投資を獲得。

資金調達後にNextstopを退職し、起業家としての道を歩みはじめたのが2010年3月。プロトタイプ発明から半年弱の出来事です。まさに最近日本で出版された著書『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』で指摘されている、「運」を自らの居る環境によってたぐり寄せたのがSystrom氏でした。

正しい問いを見つける

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資金調達直後に共同創業者となるMike Krieger氏を迎えます。スタンフォード大学のプログラムで班分けペアーを組んだことをきっかけに誘った若干25歳のエンジニアでした。Systrom氏は同氏のことを、非常に温厚で自己犠牲をいとわず、UXデザインの視点も持った人材であると称しています。共同創業者二人で製品開発に必要なエンジニアリングとデザインのスキルを補い合える質の高いコンビネーションだったといえるでしょう。

創業者が揃ってからすぐに大きな意思決定の時期を迎えます。Burbnの機能に満足がいかなかったことから、一度製品をスラクップにして0からアプリを再開発する戦略的決定を下したのです。しかし1つだけ残した機能がありました。それが「写真」。

写真にサービス機能を絞った理由は下記3つ挙げられます。Burbn開発で得た知見をもとに当時のスマホユーザーが抱える問題をあぶりだしたのです。

  1. 当時のスマホはデジタルカメラより劣る画質
  2. アップロード時間が長い
  3. ユーザーはSNSに撮影した写真を共有したい

Burbnのコア機能であるチェックインと比べて、写真投稿がしばしば使われていることが分かり、以上3つの課題仮説を立てます。

1つ目の課題を解決するためにまずは11種類のフィルターを公開。自由にユーザーが写真をお洒落にアレンジできる解決策を編み出します。2つ目の課題に対してはハック的な手法で対応。ユーザーが写真をアップロードするまでに相当な時間を要したため、ユーザーが位置情報や写真の説明文を入力している間にアップロードを完成させる手順でユーザーに不快感を極力与えさせない工夫を施しました。

コミュニティを最重要理念に掲げる

group of people enjoying music concert
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ユーザーが求める機能を実装できてから、製品名をBurbnから“instant”と“telegram”をかけわせた「Instagram」へと変更。ユーザー同士が写真を共有してコメントできるMVPを作り上げます。

AppStoreにリリースされたInstagramには合計8週間ほどしか開発工数がかけられていないといいます。すでに完成していた機能を削るだけのことなので、この短さにはあまり驚かないかもしれませんが、この賭けが成功してリリース直後数時間で1万ユーザー獲得、初日だけで2.5万ユーザー獲得に至ります。

改めて話を戻します。ここまで急成長できた理由にはコミュニティを創業初期から重要視していた点が挙げられるでしょう。Instagramは当初から「instameet」と呼ばれるミートアップを開くほどコミュニティを重視していました。

まだ製品がBurbnの頃、2010年3月に最初に雇用したのがコミュニティマネージャーのJosh Riedel氏でした。元々はSystrom氏と同じNextstopで働いていたコミュニティマネージャーです。

彼が雇われた理由には2通りの答えがあります。1つはチームリソースの問題。当時はSystrom氏とKrieger氏が手動でユーザー名を登録していたため、エンジニアリングチームが常に管理画面をいじる必要があったのです。ユーザーと直接対話する機会を失わないために雇ったのがRiedel氏と伝えられています。

そしてもう1つの理由がコミュニティ戦略。大きく分けると下記3つに表すことができます。

  1. ブランドアンバサダー獲得
  2. Ahaモーメントの創出
  3. ネットワークエフェクト構築

初期コミュニティマネージャーの役割

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順に説明していきます。まずはアンバサダー獲得に関して。創業者のSystrom氏はとにかくコアユーザーとなってくれそうな人に当たりながらアンバサダーとなってもらえるように口説いていたと言われています。これはプロダクトを急成長するために必要な仕込みであったと考えられます。

アンバサダー獲得には1つの心得が必要でした。それは非常に粗い製品であっても、最低限検証したい機能を備えたプロトタイプであれば良しとみなし、とにかくユーザーの声を聴き続けたのです。

アンバサダー戦略はInstagramへと変貌を遂げた際に真価を発揮します。各SNSへ画像シェアしたいニーズを持つユーザーにとって、Instagram内だけで完結する体験では満足しません。外部SNSで得られる他ユーザーからのリアクションも必要になります。そこでInstagram以外の既存SNSアカウントを持つアンバサダー同士が繋がることで、ユーザー体験がInstagramの外にまで拡張されます。たとえば新規InstagramユーザーがTwitterへ写真投稿した際、すぐにTwitter上でもリアクションをもらえる導線を用意したのです。

こういったユーザーの声を聴き続ける活動には共同創業者2人だけでは限界があるため、コミュニティマネージャーを雇った理由にもなっています。

2つ目はAhaモーメントに関して。これはバイラルループと大きく関わってきます。Instagramの初期80番台のユーザーによれば、初めて写真を投稿した直後に3名からコメントが返ってきたといいます。そしてコメントをくれたユーザーの写真投稿を閲覧・リアクションを返すループが完成。

たった100名にも満たないテスト版であるにも関わらず、すでに小さくとも強固なバイラルが誕生していた点は、ユーザーが即座に製品価値を理解へと繋がります。

写真を投稿した直後に見知らぬ人からリアクションが来るAhaモーメントの仕組みを初期から確立させた点は秀逸です。こうしたAhaモーメントは「Moment of Truth」とも呼ばれます。

たとえばAirbnbはユーザーがホスト宅の玄関を開けた瞬間に「Moment of Truth」を設定。ウェブサイトで見た写真と、実際に見るホスト宅の雰囲気が目の前で同期される瞬間。この瞬間にユーザーの期待値を越えることができれば、ユーザーを長くプロダクトの虜にできますし、サービス提供価値を理解したコアユーザーになる可能性が非常に高くなります。

InstagramはこのMoment of Truthの設定を「写真投稿直後のリアクション」に置いていたと思われます。この点、前述したアンバサダーが一役買います。コアユーザーである彼らが積極的にリアクションを返すことで、初期ユーザーを自然とバイラルループへと巻き込ませる仕組みを完成させていたのです。

コミュニティマネージャーはMoment of Truthをユーザーに浸透させ、非連続的な急成長スピード感でユーザー数を爆発的に伸ばすためにシリコンバレーを駆け回ったと思われます。単にランダムに声をかけてユーザーを囲うのではなく、Ahaモーメントを感じさせるという自分たちの期待する結果を念頭に働いていたはずでしょう。

最後のネットワークエフェクトはこうした努力の上でもたらされる結果論であるといえます。熱量を持ったユーザーが集まるP2Pネットワークが構築されれば、App Store上で高い評価を付けてくれる可能性が上がります。こうしてリリース直後からTop10に居座り続けて成長をし続けました。加えて、ネットワークを爆発的に成長させるインフルエンサー獲得もInstagramリリース前に着手していた点が製品開発の基礎となっています。

アンフェア・アドバンテージ + 期待行動目標

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ここまでInstagram創成期におけるコミュニティマネージャーの役割や雇用理由を考察してきました。話を一度まとめまると要点は3つに集約します。

  • コミュニティ形成はアンバサダー獲得が肝
  • 新規ユーザーにAhaモーメントを提供する人材がアンバサダー
  • Instagram内から外部SNS投稿に至るまでのバイラル体験を強化

当初からコミュニティを成長軸に考えていたInstagramにとっては共同創業者がエンジニアであった以上、コミュニティ担当を最初に迎え入れるのは必然であったかと思われます。

最後に説明しておかなくてはいならないのはRiedel氏が持っていたアドバンテージに関して。

Riedel氏はNextstopで働いている間に培ったユーザー候補ネットワークを持っていました。同氏の持つネットワークは他の人にはなかった「不公平なアドバンテージ(Unfair Advantage)」と呼べるでしょう。この強みを明確な目的設定(ユーザーに求める期待行動)で最大限レバレッジさせることで爆発的な成長を遂げ、現在のInstagramがあると思われます。また、数百万ユーザーを抱えても10名前後の従業員しか雇わなかったInstagramの厳格な採用基準も非連続的な成長に貢献したでしょう。

さて、巷では製品開発を高速でできるエンジニア人材が創業者になるべきであると言われていますが、逆に言えば早くからコミュニティ形成ができなければ2C製品は成長が成り立たないという教訓にもなるかもしれません。もちろん必ずしも全ての製品に当てはまるわけではありませんが。

老若男女が使う写真投稿プラットフォーム「Instagram」の製品初期の背景を紐解くことで、次なる大ヒットSNSを誕生させる黄金律が見つかるかもしれません。より詳しい創業話を知りたい場合はこちらの記事や、スタンフォード大学での講演動画をご覧ください。

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