【2019年大型調達】注目の国内フィンテック・スタートアップ10選

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airport bank board business
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2019年の国内フィンテック動向を振り返ると、キャッシュレス戦争の勃発という印象が強く残っている方は多いと思います。メルペイの立ち上げや同サービスのQRコード決済におけるLINE Payとの提携、PayPayの大規模な還元セール、これら運営企業であるLINEとヤフーの経営統合と言ったニュースも記憶に新しいと思います。

しかしこうした動向の裏で、着々とサービス拡大を行い、大幅な資金調達を成功させた魅力的な国内フィンテック企業が複数存在しています。本記事では2019年に大規模な資金調達を成功させた国内の金融×テクノロジー企業を10つ紹介し、今年の国内市場を振りかえってみたいと思います。

1. Paidy(後払い決済)

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Image Credit : Paidy

今年フィンテック業界にとって最も大きなニュースの一つに、後払い決済「Paidy」による156億円の資金調達が挙げられます。理由は本調達の額が国内フィンテック・スタートアップの中で過去最高であるためです。

Paidyはカードなし・事前登録なしで使えるオンラインの後払い決済サービス。同サービスを決済方法として受け入れているECサイト・ショップを利用する際、ユーザーは自身のメールアドレスと電話番号を入力するだけで、支払いを翌月にまとめて行うことができます。

支払いは一ヶ月の購入分をまとめて、銀行振込かコンビニ店頭での支払い。その簡易性によってビジター顧客の購入率を上昇させています。今後もオンライン決済に注力し、加盟店の増加を図るとしています。先日、ついにAmazon JapanがPaidyの導入を開始しました。今後のさらなる躍進に期待が高まります。

調達額:156億円
調達日:11月1日
シリーズ:Cラウンド・エクステンション
投資家:第三者割り当て増資 = PayPal VenturesやSoros Capital Managementなど
、デットファイナンス = Goldman Sachs Japanやみずほ銀行など

<参考記事>
・2019/11/29:
スペースマーケットがPaidyと連携、クレカを持たないユーザーの翌月払いに対応
・2018/07/12:
カードレスオンライン決済のPaidy、シリーズCラウンドで5,500万ドルを調達——伊藤忠商事やゴールドマン・サックスが参加、対面決済に進出へ
・2017/07/16:
カードレスオンライン決済「Paidy」提供のExCo、三菱東京UFJ銀行と資本業務提携

2. PayPay(モバイル決済)

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Image Credit : PayPay

PayPay」はヤフーとソフトバンクの合弁会社として、2018年10月にサービスを開始しました。今年5月8日には、両企業の親会社ソフトバンク・グループにより460億円の追加出資が発表されました。

※大規模な金額であるにも関わらず、関係企業による出資であるため、スタートアップとして括ることは難しいですが、国内キャッシュレス・ブームを象徴する企業及びその調達ニュースだったため、本記事にリストしています。

@DIMEによれば、同サービスは2019年11月17日に登録ユーザー数が2000万人、加盟店数は170万カ所以上、サービス開始からの累計決済回数は3億回を突破しているとのこと。同様のモバイル決済競合のLINE PAYの登録者は約3000万人に上り、未だ1000万の差があることは事実ですが、サービス開始1年と考えると、そのスピード感の凄まじさが伺えます。

調達額:460億円
調達日:5月8日(※同日に決定、それ以降に実施)
投資家:ソフトバンク・グループ

<参考記事>
・11/07:インフキュリオンデジタル、2019年の決済カオスマップとQRコード決済やキャッシュレス決済に関する動向調査結果を公開

3. Kyash(カード決済)

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Image Credit : Kyash

送金・決済システムを開発する「Kyash」は、今年7月3日、シリーズ B ラウンドで約15億円の調達を実施しています。同時に、カード印刷や決済基盤を提供する凸版印刷、クレジットカード大手の三菱 UFJ ニコスと業務提携も発表しました。

そして同社の今年の躍進の中で最も特徴的だったのは、企業向けにオリジナルVISAカードの発行(イシュイング)・決済処理(プロセッシング)・運営管理(マネジメント)を代行する「Kyash Direct」を提供開始したことです。

同サービスは、国内においてはBaaS(Banking as a Service)モデルの先駆け的存在で、国内テック企業によるバンキング・サービス参入・運営を下支えする存在として、今後大きな重要性を持つと考えられます。今年10月4日には、経費精算アプリ「クラウド・キャスト」のプリペイド・カードローンチをサポートしています。

調達額:15億円
調達日:7月3日
シリーズ:Bラウンド
投資家:Goodwater Capital、三菱 UFJ キャピタルなど

<参考記事>
・2019/10/04:
経費精算アプリ開発のクラウドキャスト、カード即時発行スキーム「Kyash Direct」を使った経費精算用Visaプリペイドカードをローンチ
・2019/07/03:
Kyash、シリーズBラウンドで米Goodwater Capitalなどから約15億円を資金調達——累計調達額は約28億円に
・2019/04/25:
Kyash、企業が自社ブランドのVisaカードを即時発行できる「Kyash Direct」をローンチへ——Fintechファストトラックプログラムにも参加

4. CAMPFIRE(クラウド・ファンディング)

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Image Credit : CAMPFIRE

女優「のん」さんのテレビCMでも話題になったクラウド・ファンディング「CAMPFIRE」。今年5月に総額22億円の資金調達を完了し、同時に東南アジア地域でのサービスも開始しました。

さらに9月には融資型クラウド・ファンディングサービス「CAMPFIRE Owners」の提供を開始し、11月には「GoAngel(ゴーエンジェル)」を買収し株式型への参入も開始しています。大型調達で得た資金を土台に、積極的にテレビ広告や新サービスを開始。新市場への参入など、いくつもの挑戦が見られた2019年は同社にとって大きな変化の年だったのではないでしょうか。

また、同じく国内の競合クラウド・ファンディングサイトである「Ready For」は今年3月末に4.2億円の調達、そして「Makuake(マクアケ)」は今月東証マザーズ上場を実施しています。以上のニュースを含め考えると、今年はクラウド・ファンディング業界全体が大きく前進した年だったと言えます。

調達額:22億円
調達日:5月6日
シリーズ:Cラウンド
投資家:KDDI Open Innovation Fund、グローバル・ブレイン、伊藤忠商事など

<参考記事>
・2019/10/28:
CM効果でCAMPFIREの累計流通額が150億円突破、100億円突破から8カ月で達成
・2019/11/06:
CAMPFIREが株式型クラウドファンディングに参入ーー「GoAngel」を買収
・2019/05/06:
22億円調達のCAMPFIRE、クラウドファンディングを「超える」次の何かへ

5. 五常・アンド・カンパニー(途上国向けローン)

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Image Credit : 五常・アンド・カンパニー

10月17日、途上国向けのマイクロファイナンス事業を展開する「五常・アンド・カンパニー」は、シリーズCラウンドにて、総額42.2億円の資金調達を完了しました。

同社の展開するサービスは、インドやカンボジア、ミャンマー、スリランカなどの途上国地域におけるマイクロ・ファイナンス事業。各地域において、新会社の設立又は既存の事業者の買収を通し、持ち株会社としてグループ事業を統括し運営しています。

同社は途上国を対象にして事業を展開する企業であるため、日本国内のユーザーからの知名度は低い印象がありますが、「民間版の世界銀行」という壮大なビジョンを掲げ、2014年当初から質の高いマイクロ・クレジットサービスを提供し続けている国内有数のフィンテック・スタートアップの一つです。

調達額:42.2億円
調達日:10月17日
シリーズ:Cラウンド
投資家:第一生命保険株式会社、SBIインベストメント株式会社など

<参考記事>
・2019/10/17:
民間版の世界銀行を目指す五常・アンド・カンパニー、42.2億円のシリーズC資金調達を完了

6. WealthNavi(ロボアドバイザー資産運用)

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Image Credit : WealthNavi

ロボアドバイザー「WealthNavi」を提供するウェルスナビは11月7日、金融機関関連ファンドを中心とした投資家らから、総額約41億円の資金調達を実施しています。累計調達額は148億円と、国内のフィンテック・スタートアップの中では、頭一つ抜けている数字です。

同社が提供するのは、「長期・積立・分散」の資産運用を全自動で行うサービスで、2016年7月の正式リリースから約3年5カ月で申込件数24万口座、預かり資産1,900億円を達成しています。高度な金融知識や手間をかけずに国際分散投資が行える利便性や、ロボ・アドバイザーによるポートフォリオ作成などのツールが人気となっています。

調達額:41億円
調達日:11月7日
シリーズ:Dラウンド
投資家:みずほキャピタル、東京大学協創プラットフォーム開発、SMBCベンチャーキャピタルなど

<参考記事>
・2019/11/07:
No.1ロボアドバイザー「WealthNavi」を提供するウェルスナビが約41億円の資金を調達
・2017/05/02:
預かり資産100億円を9カ月で突破、WealthNaviの成長を牽引した要因とは

7.トラノコ(お釣り投資・資産運用)

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Image Credit : トラノコ

Wealthnavi以外にも、資産運用アプリとして大きな注目を集め、今年20億円規模の資金調達に成功したスタートアップがあります。それがおつり投資サービス「トラノコ」を展開するTORANOTEC。同社は1月31日、セブン銀行と資本提携を発表すると同時に、同銀行から20億円の調達を実施しました。

トラノコが提供するのは、クレジットカードやAmazon・楽天のECアカウントを登録しておくだけで、カード・電子マネー決済で生じたおつりを投資運用に回すことができ、ユーザーの資産運用をサポートするサービスです。スマホアプリから操作可能で、投資ファンドは安定・バランス・リターン重視の3つから選ぶことができます。

調達額:20億円
調達日:1月31日
投資家:セブン銀行

<参考記事>
・2019/12/11:
おつりで投資「トラノコ」、友達紹介プログラムを開始
・2019/01/31:
おつり投資アプリ「トラノコ」がセブン銀行から20億円を調達、事業拡大に向けて協業加速へ

8. OLTA(ファクタリング)

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Image Credit : OLTA

OLTA」が提供するサービスは、オンライン完結型のファクタリング(請求書買取)「クラウド・ファクタリング」。同社は今年6月に25億円を、そして11月末には追加で2億円の資金調達を実施しました。

同社のクラウドファクタリングは、企業の請求書を買い取ることで、短期の運転資金需要に応えるもの。約20万社のデータに基づくAI(スコアリングモデル)を開発したことで、従来必要だった面接や書類提出などの手間を効率化したのが特徴です。創業からわずか2年半という短期間で、既に150億円以上の申請総額を達成しています。

近年はクラウド・ファンディングなどのムーブメントを中心に、中小事業者でも比較的簡単に資金調達を行える環境が整いつつあります。OLTAのクラウド・ファクタリングも、同様のオルタナティブな資金調達方法の一つとして、特に製造・建設業界のサプライチェーンやIT・ソフトウェア領域において、今後重要なポジションを担っていくことが期待されています。

調達額:1度目:25億円、2度目:2億円
調達日:1度目:6月24日、2度目:11月27日
シリーズ:A
投資家:1度目:SBIインベストメント、ジャフコ、新生銀行など
2度目:日本郵政キャピタル

<参考記事>
・2019/12/05:
半年弱で50億円積み上げたOLTA、クラウドファクタリング「3兆円市場」目指してChatworkと連携
・2019/11/28:
「クラウドファクタリング」のOLTA、日本郵政キャピタルから2億円を資金調達
・2019/6/24:
創業2年で申込100億円超「クラウドファクタリング」の衝撃ーー請求買取のOLTAが25億円調達【創業者インタビュー】

9. DeCurret(暗号通貨)

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Image Credit : DeCurret

DeCurret(ディーカレット)」は、今年3月末に開業・仮想通貨交換業者の登録を行なった、デジタル通貨の交換プラットホームです。そして7月に、第三者割当増資にて合計34億円の資金調達を実施しました。

同社は、第一に既存の暗号通貨取引所のような現物・レバレッジ取引などのサービスを提供しています。そして第二に、大きな特徴として、暗号通貨を既存の電子マネーと交換するサービスの提供を行なっています。

現時点で、暗号通貨をau wallet・楽天Edy・nanacoなどの対象ブランドのポイントへと交換できるサービスを提供しており、将来的にはSuicaへのチャージなども実施する予定だとされています。同社のサービスは、現在投機的用途に限定されている暗号通貨に、外部サービスでの利用可能性を提供し、その価値を向上させる取り組みとして、大きな期待と注目が集まっています。

調達額:34億円
調達日:7月11日
投資家:株式会社インターネットイニシアティブ、KDDI株式会社、コナミホールディングス株式会社、住友生命保険相互会社など

<参考記事>
・2019/08/21:
デジタル通貨のメインバンクDeCurret(ディーカレット) 国内初、仮想通貨から複数の電子マネーへチャージ
・2019/07/11:
デジタル通貨のメインバンクDeCurret(ディーカレット) 総額34億円の第三者割当増資による資金調達を実施
・2019/03/25:
デジタル通貨のメインバンクDeCurret仮想通貨交換業者登録と開業に関するお知らせ

10. justInCase(インシュア・テック)

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Image Credit : justInCase

12月に入って、インシュア・テック企業である「justInCase(ジャスト・イン・ケース)」による10億円の資金調達が実施されました。「新スマホ保険」やシェアリングエコノミーの概念を保険に応用したP2Pモデルのサービス「わりかん保険」を提供します。

同社は顧客チャネルを持つ企業との提携により、B2B2Cモデルを駆使しサービスを拡大を図ります。なお、本調達資金は、大企業とのパートナーシップ強化のためのインフラ構築や人材採用の拡大、新規事業開発の加速を中心に使うとされています。

日本は国内の既存保険大手がデジタル化を内製する動きが強いこともあり、インシュアテックに分類されるスタートアップが比較的少ないとされています。その意味で、日本国内のインシュア・テックエコシステムの活性化のためにも、今後の同社の躍進には大きな注目が集まっています。

調達額:10億円
調達日:12月9日
シリーズ: Aラウンド
投資家:伊藤忠商事、グローバル・ブレイン、ディー・エヌ・エーなど

<参考記事>
・2019/12/09:
インシュアテックのjustInCase、シリーズAラウンドで約10億円を資金調達——B2B2Cでの顧客獲得を狙い、事業会社連携を強化
・2018/06/29:
インシュアテックのjustInCase、少額短期保険業者登録を受けローンチへ——500 Startups Japan、GCP、LINE Venturesらから1.5億円を調達

さて、以上10のテック企業らは、大型調達をしたという点で共通だとはいえ、企業の存続年数も調達ラウンドも異なります。

今年既に市場に大きな影響を及ぼし、確かな実績を残した企業、たとえばPaidyやPayPay、OLTAなどは、既に確立した成長モデルを軸にさらなる躍進が期待できます。

一方で、CAMPFIREやDeccuret(ディー・カレット)、Kyashなどのような、新サービス・ローンチに関連した大型調達を行なった企業らには、今後の成長やビジネスモデル確立に大きな期待が集まります。

今回紹介した10の企業は、決済(Payment)・融資(Loan)・資金調達(Funding)・資産運用(Wealth Managment)・暗号通貨(Cryptocurrency)・保険(InsurTech)と、現在のフィンテック市場に存在するほぼ全ての領域を網羅しています。

こうして振り返ると2019年は、各分野で様々なイノベーション・ビジネスの成長が生まれていることが分かり、改めてフィンテックの面白さや、国内フィンテックの躍進を再確認できるような年だったのではないでしょうか。来年以降の動向にも、とても期待が高まります。

※上記10の企業の選考基準に関して:リサーチ範囲内で作成した2019年資金調達額ランキング上位に位置し、最低でも10億円以上の資金調達を実施した企業の中から、フィンテックに分類されるビジネス・ジャンルをできる限りカバーするように作成してあります

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