ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は18日、同社初となるアクセラレーションプログラム「ENTX(エンタエックス)」のデモデイを開催した。ENTX では、SME の最大の強みである音楽やアーティストといった資産の活用を最前面には押し出しておらず、また募集テーマは「音楽」に限っていない。
9月2日に開始された第1期にはスタートアップ5チームが採択され、通算で6回にわたるメンタリングセッションが実施された。本稿では、第2期に採択された全5チームについて、デモデイでの登壇内容を中心にカバーする。
デモデイの審査員を務めたのは、
- SME 代表取締役社長 COO 村松俊亮氏
- SME 執行役員常務 石川恵子氏
- SME 執行役員専務 妹尾智氏
- 電通 CDC Future Business Tech Team 部長 事業開発ディレクター 中嶋文彦氏
- eiicon company 代表 中村亜由子氏
- Spiral Innovation Partners 代表パートナー 岡洋氏
各チームは、企画の魅力度(事業新規性、市場の魅力度、実現可能性の総合判断)、企画の爆発力(解決している課題の深さやインパクト、SME との相性、プログラムでの成長度合、経営者のカリスマ性)を勘案し審査員の評価を受けた。
【最優秀賞】BeatFit
副賞:賞金100万円
BeatFit(ビートフィット)は、ランニング、インドアバイク、筋力トレーニングなどの有酸素運動を中心としたエクササイズに特化して、オーディオコンテンツを提供する定額アプリ「BeatFit」を提供している。
使っている音源は洋楽のカバーやインストゥルメンタルに限られているため、ストリーミング/サブスク時代に新たなモデルを模索する SME と協業し、BeatFit への邦楽コンテンツの導入を試した。モニタユーザ6人に、音声なしでのジョギング、邦楽のみでのジョギング、邦楽+音声ありでのジョギングを試してもらったところ、邦楽+音声ありでのジョギングが最も良い反応が得られたという。
日本内外でフィットネスインフルエンサーが台頭する中で、BeatFit からも KOTONE、HARUKI、SATOKO といった有名トレーナーが現れており、BeatFit は Sony Music Artists に彼らのトレーナーのエージェント事業も提案した。
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【ベストグロース賞】dinii
副賞:賞金50万円
dinii(ダイニー)は、モバイルアプリを使って飲食店に事前予約をすることで、商品のピックアップをスムーズにするプラットフォーム。音楽アーティストのライブ会場での商品販売などでは長蛇の列が散見されるが、dinii はこのような問題を解決できないかと考えた。dinii は、スポーツリーグ、ライブ、イベントなどエンタメ分野との相性がいいという。
SME が公式エンタメパートナーを務める B リーグの川崎ブレイブサンダースの協力を得て、同チームの試合で dinii の PoC を実施した。観客席の背中に各席にユニークな QR コードを貼り付け、ユーザは dinii を使って席にいながら飲食物を注文できデリバリしてもらえる。注文率は1回以上が78.2%、2回以上が30.7%と高いものとなった。
ファンクラブやコンテンツ配信サービスとの連携を検討中。ユーザがどのイベントに行って、何を買ったかをトラッキングすることができ、その分析結果に応じて、さらなる体験を提案することができるので、高いクロスセルパフォーマンスを期待できる。今後も、Sony Music Solutions や、大型音楽ライブハウスを運営する Zepp Hall Network と PoC を継続するとしている。
AsetZ
建設現場アプリ「助太刀」出身のメンバーが今年8月に設立した AsetZ(アセッツ) は、今期の ENTX にアプライした段階では、知名度やユーザはおろかプロダクトさえも無かったという。そんな彼らがが挑んだのは、SME の人々が日々の業務で抱える課題だった。音楽アルバムの制作を支える A&R(アーティストアンドレパートリー)チームの業務は煩雑で、アルバム1枚の制作に360人以上が携わり、5,000通のメールと2,300個のファイルをやり取りしていることがわかったという。
A&R チームのコミュニケーション量は他部署を凌駕するもので、全社平均の6倍以上のメールをやり取りし、メールボックスの中から必要なメールを探すのに全社平均の3倍、1日あたり114分を使っていることが判明したという。AsetZ ではこういった業務における5つの課題に、それぞれに合ったソリューションを開発し検証するということを繰り返したそうだが、デモデイではそれらの課題の中でも「メールでやり取りしたファイルが見つからない問題」を解決することに焦点を当て披露した。
AsetZ が開発した仕組みでは、届いたメールやそれに添付されたファイル、メール内に含まれる共有リンクを取り込み、それらを検索できるようインデックス化。通常なら必要なファイルを含むメールを検索し、その中に添付されたファイルを開いて確認するという作業が発生するが、開発された仕組みでは、ユーザが思い出せる情報のみを手掛かりにファイルを直接検索できるようにした。SME 社内の検証参加者の90%が業務で使いたいと回答。β版として来週来春一般リリース予定。今後は、企業内の情報共有の仕組みの改善により、社員間の業務引継を促し休暇を取れやすくしたり、適材適所へのリソース適用を促進したりする仕組みを開発するとしている。
Parasol
マッチングアプリを中心とした出会いや婚活を支援する Parasol(パラソル)は、この分野に特化したメディア「マッチアップ」などを運営。従来なら結婚は職場にいる30人の中から相手を選んでいたが、現在は結婚の約1割がマッチングアプリを通じたものになる中、オンライン上の300万人の中から相手が選ぶこととなり、デートのハードルは上がっているという。Parasol では、11月9日にα版をリリースしたデートコンシェルジュサービス「Forky」で、マッチングアプリ利用者のデートを支援する。
ローンチ段階では1回のツイートで120名の男性がサインアップし、市場の需要が並々ならぬものであると説明。ユーザの中には、サービス利用から2週間で彼女ができたケースもあるという。実際に SME 社員にも使ってもらい、Forky が得意とするデートするお店の提案だけでなく、眉のカットや洋服のコーディネートの提案なども行い、好意的な感触が得られたという。なお、Forky はチャットボットではなく、裏側では人力で運用しているとのことだが、効率化できる部分は自動化していくとしている。
デート相談サービスから着手し、恋愛コンサルティングサービス、関連サービスへと幅を拡大、3年後に月照3億円を目指す。ネットに掲載されている情報のみならず、エンターテイメント企業である SME の強みを生かし、未掲載のイベント情報なども最良のタイミングで届けることで、ユーザ満足度も増すとした。音楽と恋愛体験は親和性が高いことから、SME との協業では、アーティスト情報とデートとのマッチングや、LINE MUSIC に SME アーティストの曲を集めたデートに合ったプレイリストの掲載などを提案した。
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picki
picki(ピッキー) は、インフルエンサーなどがファッションブランドを立ち上げ、それを販売することができるプラットフォームだ。インフルエンサー自身は、デザイナーや縫製業者ではないので自ら洋服やファッションアイテムを作り出すことはできない。ただ、インフルエンサーが持つ世界観に共鳴し、彼らが出す商品にファンが集まるという事象は、ここ数年で顕著になってきている。そこで1ブランド50着からの小ロット生産を可能にし、インフルエンサーが自ブランドを在庫リスク無しで立ち上げられる仕組みを構築した。
picki ではインフルエンサーの世界観を前面に出してブランド構築を支援してきたため、ブランドによっては奇抜過ぎて売れなかったり、インフルエンサーが持つ世界観や思想がファンに正しく届かないという課題があったという。picki は、SME がアーティストのブランドやイメージ構築をアーティストと伴走しながら実行している点に着目、同様にインフルエンサーと伴走しながらブランドやイメージ構築を支援する姿勢を積極化させた。音楽アーティストにとってファンと知り合う機会がライブであると位置づけ、これにヒントを得て、インフルエンサーとファンとの試着会なども展開したという。
pick では現在8つのブランドを展開しているが、Instagram を通じてつながるファンらが、どこに住んでいてどういう行動をしているかを分析している。再現性を持ってブランドを成功させる手法を編み出すためだ。SME との取り組みを通じて、picki はファッション雑誌「VOGUE」に取り上げられ、Zipper トップモデル、報道番組コメンテーター、ガールズバンドボーカルなど自らのファッションブランドを立ち上げたいという有名個人を発掘できたという。インフルエンサー100人と100ブランドの構築を目指す。
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