ロンドンで出会ったフード・ロスの解決策「OLIO」と感情(パッション)で成立する経済圏について

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Image Credit : Google Play OLIO

先日、英国ロンドンにてカウチ・サーフィンというサービスを用いてフランス人の男性の家に2日間泊まらせていただいた際、彼から「OLIO」と呼ばれるフード・シェアアプリを紹介してもらいました。

なんでもそのOLIOというアプリでは、ご近所の間で余った食品を無料でシェアし合うことができるといいます。彼はその日食べきれなかった洋菓子をアプリで出品し、無料でご近所さんに提供していました。

アプリの理念や機能を聞いて、すぐ記事にしてみようと思いました。というのも、近年日本は深刻なフード・ロス問題を抱えていることから、同アプリは先進的な取り組み事例として参考になると思ったからです。また、近年バズワード化している「シェアリング・エコノミー」とは、本来こういうサービスのことを指すのではないでしょうか。

OLIOでは出品ユーザーと食品を受け取るユーザーをマッチングさせ、完全無料でやり取りを行えます。アプリを開くと近所で出品されている食品が一覧でき、依頼したら近所の出品者の所へ取りにいくシステムです。

ここまで聞くと、OLIOというサービスがどのようにマネタイズしているのかが気になります。実はOLIOのコミュニティの中には、廃棄寸前の食品をパートナー企業(レストラン・パン屋・スーパー・カフェなど)に取りに行き、それをOLIOアプリに出品する「Food Waste Hero」という有志のボランティアチームがいます。OLIOの運営資金はこうしたパートナー企業の一部から徴収しています。

ここで次に気になるのはFood Waste Hero達と、パートナー企業のインセンティブでしょう。まずFood Waste Hero達のインセンティブは、取りに行った食品の10%をもらうことができる点です。簡単な例で言えば、パンを10個回収したらそのうち1つを貰うことができるということです。

そして手数料を支払う一部のパートナー企業のインセンティブは公表されていませんが、CSR(企業の社会的責任)意識の高さや、食品の廃棄コスト削減、廃棄量削減による政府からの報奨金・罰金回避といった、ブランド換算の側面が強い印象でした。

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Image Credit : OLIO

このような仕組みに支えられ、OLIOはローンチから4年で150万ユーザーを突破し、食品がシェアされた件数は270万件、Food Waste Herosの数は約4万人、展開エリアは49カ国に上っています。

初めて同アプリの用途を聞いた時に「シェア」とは本来こういうものではないか、と感動したのを覚えています。

UberやAirbnbなど、著名なシェアリング・エコノミーに分類されるサービスの多くは、プラットフォームのプロバイダーがフルタイムのドライバーや不動産といった「プロ」業者によってハックされ、遊休資産のシェアという概念とはかけ離れつつあります。

しかしOLIOの場合、余った食品は紛れもなく余剰資産であり、筆者に同アプリを教えてくれたホスト自身も「食べ物を捨てるのはもったいない・気分が乗らない」という感情の元に成り立つ経済圏です。資本を求めて取引が行われる自由市場とは、少し性質が違うかもしれません。

<参考記事>

もちろん、一方的に食品を求めるだけのユーザーも一定数いると考えられます。彼らをフリーライダーだと批判することはできるかもしれません。しかし彼らが食品廃棄の減少に貢献する一部の人間であることは事実であり、また、無料で食品を受け取る体験をしたユーザーの心内には、少なからず恩返しの感情が働くため、出品側に回りコミュニティへ対価を返そうとするユーザーも一定数いると考えられます。

以上、フード・ロス問題に関しては、慈善的な活動から培養肉・人工肉など先進的な解決策まで様々ありますが、本記事では「ローカル・コミュニティ内のシェア」によってその問題の解決に挑むイギリスの事例「OLIO」を紹介しました。本記事が国内のフード・ロス事業に関心のある起業家・投資家の参考になれば幸いです。

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