次の「10年パラダイムシフト」を探る旅、投資家たちが語るスタートアップ・2030(3:多様性とポスト資本主義)

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(前回からのつづき)次のパラダイムシフトはどこに起こるのか。

個人と体験の時代、社会はデジタル化がさらに進み、各業界でトランスフォーメーションが発生する。人工知能が単純作業を代替し、効率化された時代において人は「人生の時間の使い方」を新たに考えることになる。では、引き続き次のパラダイムシフトを探る旅に出たいと思う。

少子高齢化とダイバーシティ

パーソル総合研究所と中央大学が公表した調査「労働市場の未来推計2030」によれば、高い確率で日本はこの10年、減少する人口との戦いを繰り広げることになる。この中で私たちが認識を新たにすべきキーワードが「多様性」だ。性別、国籍、年齢、個性。あらゆる多様性に対して偏見を最小限にし、そのギャップをテクノロジーで解決する。

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パーソル総合研究所と中央大学「労働市場の未来推計2030」

特に元気なシニア層の活躍はもう待ったなしの状態だ。伊藤忠テクノロジーベンチャーズの戸祭陽介氏は少子高齢化先進国としての取り組みの必要性を指摘する。

これまで高齢者向けのITサービスは(1)シニアのIT化が進まない、(2)サービス運営者の年齢が若くシニア市場を理解していない、という理由から発展していないと推察しています。一方、これらの問題は時間の経過とともに解消され、高齢化先進国である日本独自のサービスが展開されると予想しています。今後、これらのビジネスが海外に進出し、日本の新たな強みになるのではないでしょうか。

一方、少子化対策としての外国人移民や、国際的に安価な技術者を求めた海外企業の進出等により、オリンピック以降、日本在住の外国人は増加すると予想しています。新大久保のような街がたくさんできるイメージですね。その生活をサポートするためのインフラとして、外国人に特化したサービスの増加も予想されます【少子高齢化先進国として、シニアIT化と在日外国人向けのサービスの発展】

東京オリンピックがやってくるのもよいきっかけだ。2020年は海外からの来客ももちろん、特にパラリンピックに代表される、「障がい」を人の「個性」として考える時間は増えることになるだろう。今の社会的な認知と、実際の彼・彼女たちの状況をしっかりと理解すれば、そこに生まれているギャップはチャンスになりうる。朝日メディアラボベンチャーズの白石健太郎氏もまた、この多様性に注目すべきとしていた。

世界の支援テクノロジー市場には2024年までに260億ドル規模になる(Coherent Market Insights)という予測があり、国内でも障害者テクノロジーの分野に参入するスタートアップが増えてくると考えています。

もちろん課題もあります。高性能な車椅子や補聴器などを目にすることはありますが、価格帯がネックとなって普及率が上がっていません。一方、導入が比較的簡単な無料アプリであっても、途中から有料化になってしまうなどの問題があり、ユーザーが離脱してしまう問題も起きています。

そんな中、世界中の視覚障害者のボランティアとロービジョンの方を結びつけて、毎日の作業を支援するアプリ「Be My Eyes」というデンマークのサービスがあります。このアプリが秀逸なのはコスト負担をユーザーに負わせるのではなく、ユーザーがMicrosoftやGoogleなどの大企業に支援を求めることで継続利用できる仕組みとなっている点です。

今後このようなコスト負担をユーザーに求めない新たな形のサービスが増えてくるのではないでしょうか。日本ではまだまだ普及に時間がかかりそうですが、この領域では元セカイカメラの開発者である井口尊仁氏が開発している無料音声SNSアプリ「Dabel」を個人的に注目しています【The Rise of startups for Disabled people(障害者向けスタートアップの躍進)】

年齢も多様化が進む。特にスタートアップする年齢はここ数年でも若年化が進んでおり、幅広い人たちがチャレンジする世の中になりつつあると思う。自身も20代で独立系ベンチャーキャピタルを立ち上げたTHE SEEDの廣澤太紀氏は、実感を持ってこれを感じている一人だろう。

優秀な高校生の進路選択において、日本の大学だけでなく海外の有名大学を目指すというケースが加速していると感じています。日本国内だけでなく、若くして海外での生活を経験した優秀な日本人が急増すると思います。また、デバイスや通信環境の変化が起こると考えています。

スマートフォンの普及のように、カメラなどのセンサーが増加し、視覚情報などのデータ化や共有はより進むのではないでしょうか。この10年間で、デバイスなどの変化によるC向けプロダクト参入チャンスと、海外経験をもった若手がより多く登場し、創業期から「グローバルC向けプロダクト」を作る若手起業家たちがより活躍すると思います【「グローバルC向けプロダクト」を作る若手起業家の増加】

多様性は何も人だけに限った視点ではない。日本はやや東京に一極集中しすぎた感がある。この反動からか、これまでにも地方から声を上げようという動きはあった。これからの10年はそれが更に加速するのではないだろうか。福岡拠点のベンチャーキャピタル、F Venturesの両角将太氏はその波が「モビリティ」から始まると予想する。

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福岡で実証実験を続けるモビリティサービス

自動運転や空飛ぶクルマの普及により、ヒトの移動、モノの移動においてパラダイムシフトが起きると予想します。自動運転技術のオープンソース化も可能性があると思っていて、例えば「mobby」のような電動キックボードや「メルチャリ」のようなシェアリングサイクルを放置していても、自動で回収してくれるモビリティ事業等をスタートアップが展開できるようになってくると思います。また、モビリティのパラダイムシフトに伴い、東京一極集中だった社会も変わり、地方都市のあり方も変わってくるはずです。

まず、ヒトの移動に革新が起きると、移動することと住むことの境目がなくなり融合していくと思います。東京に住居を構えなくても各都市にいながら交流人口が増加するでしょう。また、スマートシティ化が進み、生体認証などによりあらゆる個人の行動データが取得可能になります。

キャッシュレスもより高いレベルで実現され、モビリティ×ARによる広告配信によって、買い物もよりシームレスになるでしょう。暗号通貨による決済も当たり前になり、グローバルな送金もしやすくなります。一方、モノの移動に革新が起きると、自動運転やドローン配送などにより新たな物流網が構築され、都心にいなくても快適なコマース体験が実現されると思います。さらには、災害時の物資搬送や医療なども迅速に届けられるようになりそうです【モビリティによるパラダイムシフトで東京一極集中から地方分散社会へ

ポスト資本主義の輪郭

日本でも徐々に進むあらゆるモノのデータ化、ブロックチェーンによる資産の自律管理、個人と多様性の時代。モノが貨幣を経ないでモノと交換ができる、その世界観はフリマアプリで実現された。ゆるやかに輪郭がぼやけつつある経済はどうなるのか。グロービス・キャピタル・パートナーズの今野穣氏もキャッシュレス確立をきっかけに、人々のカネの考え方や動きに変化があらわれるとした。

貨幣のデジタル化という意味での「狭義のキャッシュレス」が2020年代前半のうちに確立します。現状の「銀行口座」がどういった位置付けに進化・転換するのかマイルストーンとなるのではないでしょうか。それに付随して信用スコアなどデータと貨幣の融合が図られることになるでしょう。また、ESGやSDGsなどの流れ、二次流通やシェア経済の進展に伴い、実体経済のスピードを大きく超過する過度な金融経済に揺り戻しが起きる。言い換えれば、時としてキャッシュを介さない、既存の金融経済の外側での経済活動が生まれてくると思います。

金融経済の外側での動きは前述の通り、個人間売買のプラットフォームでもう始まっている。このパラダイムの中において重要になるのはやはりデータだ。今野氏はこう続ける。

AIの社会実装という不可逆な流れの中で、キャッシュ(現金)よりもデータの重要性が増す。データそのものが経済活動における最も価値のある資産となり得るし、データそのものの価値交換も行われていくと思われます。また、仮想通貨を含めた多様な個別経済圏の確立も予想しています。デジタライズされた既存通貨や仮想通貨の普及に伴い、かつ場合によっては貨幣を介さない形で、新たにコミュニティ毎の独自経済圏が発展していくのではないでしょうか。同時に非労働時間の可処分時間に増加による、コミュニティ活動自体が活発になることも予想しています【多角的「キャッシュレス」時代の到来】

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想像の遥か上をいくFacebook仮想通貨「Libra」のスゴさを解説するーーいきなり米国議員から開発停止要求も

こうしたデータによる「金融の拡張」は資本の考え方にも影響を及ぼす。ジェネシア・ベンチャーズの田島聡一氏はそれによって、スタートアップする事業の範囲が社会的な活動にまで広がる可能性を指摘した。

2030年に向けた時代の大きな変化の一つは、いわゆるスタートアップと社会起業家がより一段とシームレスになっていくことだと考えています。このように考える背景としては、環境破壊の進行やSDGsに対する意識の高まりなどによって、スタートアップにはその事業内容により大きな社会的インパクトが求められ、社会起業家にはより強いビジネスモデルが求められるようになる(社会起業家にも事業としての持続性が求められるようになる)からです。

スタートアップと社会起業家がよりシームレスになる。この変化に合わせて、資金調達手段が更に多様化すると考えています。現在は、従来からの資金調達手段であったエクイティファイナンス、デッドファイナンス以外に(株式投資型を含む)クラウドファンディングがようやく普及してきましたが、SIB(Social Impact Bond)のような仕組みが進化し、民間にまで拡がるのではと考えています。社会的インパクトを推し進める起業家の後押しがより一層進むのではないでしょうか【スタートアップと社会起業家がよりシームレスになり、資金調達手段がより多様化する】

朝日メディアラボベンチャーズの山田正美氏も、金融システムがアップデートされ、通貨や貨幣に変化が起こるとした。ただ、この変化は国境を曖昧にするという点で「Libra」のように脅威とされることもある。

ブロックチェーンを活用して、既存の金融システムをアップデートするような国をまたいで利用されるサービスの可能性に注目しています。通貨や決済という概念が、物理的なモノや行為と紐付かなくても、信用やスコアリングといった形で可視化されるようになります。2020年代は、新しい信用と金融の時代が来ると考えています。そういう意味で、facebookの「Libra」のチャレンジには注目しています。

まだ見ぬ新しいテクノロジーが世界を席巻するというよりは、2010年代に研究が進んだAI・ブロックチェーン・AR/VRといったテクノロジーが、次の10年に本格的に花を咲かせると考えています。AIは現在のインターネットのようにあたりまえになり、多くのことは自動化されていきます。5Gやデバイスの進化がAR/VRの本格普及を後押しして、スマホのスクリーンに加えて、新しいUXが発明され、その上でコンテンツやサービスを展開する新しいプレイヤーが現れると思います【2020年代は、新しい信用と金融の時代】

では次回は最終回、シンギュラリティの到来について語ってくれた投資家の言葉でこの探るたびの締めくくりとしたい。(次につづく)

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