EXITというドラマ、起業家と投資家はどこで衝突するのか

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全ての投資家にとって、M&AだろうがIPOだろうがEXIT(編集部注:保有株式の売却)を迎えるときは感慨深くなる瞬間です。特にシード・アーリーステージを主戦場とする投資家にとっては、M&Aでも約2〜4年、IPOの場合約7〜8年という歳月を共にした起業家との一つの区切りになる瞬間でもあるからです。一方で感慨深さとは別に、EXITの局面というのは、それまで同じ船に乗っていた起業家と投資家の利益にコンフリクトが生じる可能性がある場とも言えます。

先ずはIPOによるEXITのケースを見てみましょう。IPOの場合、基本的にHappyになるケースが多いのですが、典型的なコンフリクトしては2つのケースがあります。

IPOケース(1)公募価格が起業家と投資家で折り合わないケース

「上場できる時に上場する」という昔からの格言もあるように、起業家としては一旦は公募価格に関わらず上場したいという場合があります。

投資家としてはもう1年頑張ればもっと高い評価を得られるかもしれないので粘ったらいいのに、と思うこともあるのですが、最終的な意思決定は起業家に委ねられるのでこの場合はコンフリクトが生じます。もっとも、1年後に市況が変って上場そのものができなくなるケースも全然想定されるので、どちらが正しいということはないのですがとてもよくあるケースです。

とはいえ、投資家の中には、公募価格が折り合わないと優先株式の普通株式への転換に同意しないという方もいらっしゃるので、やはり、丁寧にコミュニケーションを取ることが必要になると思います(IPOでもM&AでもEXITの際には、全ての優先株を普通株に転換しなければいけません)。

IPOケース(2)公募時の売却数について折り合わないケース

こちらも結局は上記の公募価格に紐づくものですが、日本のIPOマーケットの場合、IPO時の初値から2週間くらいのレンジで高い株価がつくことが多いです。(初値天井って言葉もあるくらいですから、、)もちろん、優れた企業は長期的に高い株価を形成していくのですが、客観的な事実として、そうなっている企業の数は限定的だったりします。

その場合、投資家心理的には、初値から早いタイミングで売る方がリターンが増えるので、売出には極力応じたくない、一方、起業家側からすると資金調達も必要だが、全てを公募増資で行うと経営陣の持分比率の希薄化が大きくなってしまうので、既存投資家からの売出もある程度して欲しいという思惑があり、そこでもコンフリクトが生じます。

もちろん、上場時の流動性の確保や、VCのように“いつかは売る”、すなわち株価に影響を与える存在は売出時に極力減らしておいた方がいいという主幹事証券からの指導も入るので、最終的には双方にとっての妥協点を見出すことになるのですが。

一方、以前にも書きましたが、売出時に全てのVCが応じているケースもあります。これは、発行体側のCFOが頑張って、公募価格をそれなりに上げることに成功して、既存の投資家もまあ、納得のいく値段で売却できる環境を作っているケースです。それでも、上場してから、公募価格の2倍になっているケースなどもよくあり、やはり全部を売出に応じじる必要はなかったなぁ、、、というケースもあります。

逆に上場後すぐに下方修正で、大幅に株価が下落するケースもあったりするので、何が正しいのかは判断が難しいところではありますが。

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M&Aの場合に発生する4つのケーススタディ

次にM&Aのケースを見てみましょう。

一口にM&Aといっても、(1)投資家も含めてハッピーなケースと、(2)投資家は泣くけど起業家はハッピーなケース、(3)投資家はハッピーだが起業家が泣くケース、(4)投資家も起業家も泣くM&Aの4つのパターンがあります。1と4のケースは、良くも悪くもコンフリクトが起こりにくいです。1は当然ですが、4は明らかに“敗戦”なので諦めがつくからです。

コンフリクトが起こりやすいのは、2と3のケースです。この場合共通するのは、“微妙な金額”でのM&Aということに尽きます。

“投資家は泣くけど起業家はハッピーなケース”

例えば、直近のファイナンスが40億円のバリュエーションで3回の調達(ポストバリュエーションはそれぞれ5億、15億、45億とします)で累計10億円集めたとします。その時点での経営陣の持分比率は50%とします。ここに30億円での買収オファーがきたとします。前提として、起業家は経営株主として普通株で持っていて、投資家は全て種類株(残余財産分配権1倍の参加型)だっと仮定します。

起業家はそろそろ頃合いだなと思い、30億円という金額でも、オファーを受けるという選択肢を選んだ場合、優先株であるので全ての投資家に一定のリターンは出ます。(編集部注:優先株の場合、出資した額は分配権の倍率で優先的に分配される。さらに参加権で残った財産の分配にも参加できるため)

起業家にももちろんリターンが出ます。しかしながら、最後のラウンドで入った投資家のリターンはかなり限定的になります。それが投資後1年以内だったりすると、ファンドのLPから怒られる可能性すらあります。これが典型的に起こるコンフリクトの一例です。投資家の間でもそれなりに儲かる投資家とそうでない投資家が出るので、なかなか調整が難しくなります。とはいえ、最後は起業家の気持ち次第なので、投資家サイドも合理的な判断をせざる得なくなります。

起業家がやる気をなくなったらその時点でおしまいなので。

更に話をややこしくすると、最近多いのはVC持分だけ買い取って(それだけで50%の持分を得る前提)、経営株主である起業家の持分は引き続きステイというケースがあります。買収する側としては、起業家に更に頑張ってもらうためにもインセンティブとしてターゲットのKPIを達成したら、先の例でいくと2〜3年後に50億円の価値で残りの株を買い取るよみたいな契約をしておくような場合です。

これは買収する側としてはある意味当然のヘッジ手段だと思います。ところが、VC持分を買い取った後、半年もたたないうちに経営者持分を買い取るようなケースがあるのですが、これだと、単にVC持分だけ安く買い取って経営者持分は高く買い取るような恰好になってしまい、コンフリクトどころか大きな問題に発展する可能性もあります。こういうケースがが増えたりすると、VC側としては買収価格の妥当性を信じることができなくなり、M&AによるEXITに影響を及ぼす可能性があるのでできれば避けたいものですね。

“投資家はハッピーだが起業家が泣くケース”

投資家によっては投資契約書の中に、一般的なタームとは別の特約条項をつけているケースがあります。例えば、投資家が求めるIRRをクリアしていない場合、優先株式から普通株式に転換する比率を変えるというものです。優先株1株に対して普通株1.5株みたいなパターンです。すると先の例のような“微妙な金額”のM&Aの場合、その条項が発動する可能性が高く、結果として起業家の取り分が大きく減ってしまうことになります。

そうなるとコンフリクトどころではないですね。。

投資を受ける際は起業家の方も明るい未来を描いているので、そのような特約条項がついていてもあまり気にならないかもしれませんが、もし投資契約を締結する際にそのような特約条項がついていたら、よく考えた方がいいと思います。

長くなりましたが、投資家にとってEXITは最も大事なイベントの一つではあるのですが、長年連れ添った起業家との区切りのタイミングでもあり、コンフリクトが生じる場面でもあることがご理解頂けたと思います。少しでもそのようなコンフリクトを避けるのは、両者で力を合わせて“企業価値を上げること”に他なりません。

ということで、既存の投資先の起業家の皆さん、これから出会うであろう起業家の方々と共に真に価値のある企業を一緒に作っていけたらと思います。

<参考記事>

本稿は独立系ベンチャーキャピタル「STRIVE」共同代表パートナー、堤達生氏によるもの。起業家と投資家のみえにくい相反事例について詳しく、同氏に許諾をもらってnoteにて掲載された記事を転載させていただいた。Twitterアカウントは@tatsuken0205。スタートアップの資金調達、事業について相談したい場合の壁打ちにも応じているので、志ある方はこちらから連絡されたい

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