創業期に「従業員」は採用しなくていい

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創業期の起業家のみなさん、組織戦略やチームづくりに頭を悩ませていませんか?

「組織戦略に絶対的な自信がある」「自分なら最強のチームがつくれる」という方はおそらく稀でしょうし、チームビルディングやマネジメント経験の少ない若手起業家のみなさんなどは特に先行き不安なこともあるのではないでしょうか?

創業すぐ、友人や知人など、継続的な関係性を経て、信頼できるからこそ選んだ初期メンバーだけの数人のチームなら、不安を感じることも少ないかもしれません。また、そうしたメンバーのリファラル(紹介)で採用がうまくいっていれば、もう少しチームが大きくなっても問題は起こりづらいかもしれません。

一般的にはリファラル採用は、属性の近いメンバーが集まり、コンフリクトの起こりづらい組織づくりに有効だと言われています。スタートアップはそうした関係性のあるメンバーで始まることが多いと思います。友人と共同創業、前職の同じ事業部の仲間が経営メンバー、といった感じです。

そのため、創業期には組織の課題というものにそれほどマインドシェアを割く必要がないケースもありますが、一方で、私たちが見ている限りでは、組織の課題というものは、3人でも5人でも、上記のようなリファラル採用が成立している組織でも起こり得ます。

例えば、重要なことから日々の細かなことまでどうも意思決定の軸がずれる、コミュニケーション量の不足でお互いの行動が見えづらくなり疑心暗鬼になる、そして情報共有の質が落ちてくる、ルールを制定したりツールを導入しようとしたときに反発が起こる、陰でネガティブな話題をまき散らされる、いったことです。

組織の課題というものは、顕在化してきて初めて対策をとるというケースがほとんどです。しかし、それでは手遅れということもありますし(数名の組織なんて簡単に壊れてしまいます)、必要以上に問題解決にマインドシェアを割くことになってしまうこともあります。なので、組織戦略とまではいかなくとも、まずは組織づくりの入り口を意識することから始めましょう。

創業期のスタートアップの採用や組織づくりの成功事例に関する情報はいろいろあるものの、その全てが必ずしも自分(あなた)にとって再現性のあるものとは限りません。一方で、回避すべきポイントを押さえておき、ある程度「同じ轍を踏まない」ということをするのは可能だと思います。

そのために、特に採用時に意識しておくべき“回避”のヒントを3つお伝えしたいと思います。

スキルフィットだけで採用しない

なぜ採用をするのか?と言われれば、企業価値向上のためでしょう。スタートアップにおける企業価値向上とは、PMF(プロダクトマーケットフィット)を早め、売上を立てること。そのためにはざっくりと、ビジネスサイドのメンバーと開発のメンバーが必要、といったことになります。

要するに、採用したい人に求める成果は比較的はっきりしているので、「成果を出せそう」というスキルや経験からの予測を判断基準に採用することになります。しかしながら、スキルだけを求めてしまうと、その人は成果だけに固執し、経営やチームづくりについては考えてくれなかったり、周りにも同じことを求めたりするかもしれません。

成果を出すために手段を選ばない人もいるでしょう。そうなると、重要な意思決定の局面で軸がずれることが起こり得ます。そういった人の見極めには、一緒に3カ月働いてみる、戦略について議論してみる、といった採用の前段階を踏むことをおすすめします。

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目的と手段を混同している人を採用しない

最近はミーハーな気持ちでスタートアップに目を向けている人も多く、目的と手段を混同している人を散見するようになりました。そういった人を見極めるためには、「未来の話」をたくさん聞き出しましょう。「人生を賭けてどんなことを成し遂げたいと思っていますか?」「あなたの“自己実現”とはどんなことですか?」などです。

その回答が「会社を上場させたい」「CFOになりたい」などだったとしたら、それは手段を目的化している可能性があります。「成長したい」という回答も同様です。自己実現やビジョンなど、抽象的な話に終始するとしても、お互いにそれに共感できるのかはとても重要です。まずは「見ている山のてっぺん=ビジョン」をすり合わせるのです。これをカルチャーフィットと表現することもできます。登り方=戦略は、ビジョンさえすり合っていれば、その後いくらでも議論することができます。

“従業員目線”の人を採用しない

カルチャーフィットしているメンバーだけを集めていれば、チームカルチャーという点で著しく差異が生まれたり、コンフリクトが起こったりするケースはあまりないかもしれませんが、個としての目線(立場)の違いによりそれが起こるケースはあり得ます。目線の違いとは何かといえば、「経営目線」か「従業員目線」かということです。

経営目線の人が見ているのは「会社やチームの未来」です。一方で、従業員目線の人が見ているのは「自分の未来」です。前者は主語が「自分たち」、後者は主語が「自分」という違いもあるかもしれません。なので、最初から「雇われる自分/雇われている自分」という目線が強い人は、採用しない方が賢明かもしれません。

「企業価値を上げるためにどうする?」という議論に、「自分はこうしたい/自分はこうしたくない」というコメントをしてくる可能性があるからです。そのマインドを変えるのは相当に難しいので、創業期は特に「自分たちはこうあるべきだ/チームとしてこうありたい」という目線の人を選ぶようにしましょう。見極めには、「チームで問題が起こりました。こんなときどうしますか?」といったケーススタディ的な質問や議論が役立ちます。

いかがでしょうか。

目の前の採用候補者が、あなたの目にとても魅力的に映ったとしても、上記3点について、ぜひ一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。それらが問題ないと判断できるようであれば、目の前のその人は、あなたのチームを成功に導くキーマンになってくれるでしょう。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのアソシエイト、一戸将未氏によるもの。Twitterアカウントは@ichinohe_GV。特に、初めての起業や若手の起業家の方への具体的なアドバイスを実施している。1月28日には、同社GPで東南アジア投資責任者の鈴木隆宏氏によるメンタリングデーも開催予定。くわしくはこちらから。

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