生まれ変わったApple「Maps」の勝算は“プライバシーにあり”

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Photo by Armand Valendez from Pexels

ピックアップ:Apple Maps Got a Major Makeover

ニュースサマリ:1月30日、Appleが自社地図アプリ「Maps」を大幅アップデートした。

アップデート内容は、アプリ基盤である地図データをライセンス契約からApple製のデータに切り替えたというもの。一見わかりにくいアップデートではあるが、地図データをリアルタイムに更新し続け、Appleが求める正確性を維持するのに大きく貢献する。

さらに、昨年9月にiOS13でリリースされたお気に入りリストが作成できるコレクション機能、より進化したリアルタイム交通情報およびナビゲーション機能、地域限定だったGoogleストリートビューのような「Look Around」機能が追加された。現在、Apple製地図データは米国版のみ完成しており、ヨーロッパ版の完成は2020年の後半になる予定だ。

話題のポイント:今回のリリースは「Maps」のアップデートではありますが、地図を一から作り直しているため「生まれ変わり」と言えるでしょう。

2012年以降のMapsといえば、使いやすさ以前に、あまりにも地図情報が不正確だと有名でした。都市を間違えたり、町全体を自然公園と表示したり、酷いものでは農場を空港と表示していたりと、地図アプリとしてこれほど重大な欠陥はありません。

そのため、iPhoneのデフォルト地図アプリであるにも関わらず、Google Mapsの競合と認識している人は多くなかったと思います。

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Image Credit:The Amazing iOS 6 Maps (左図 Google Mapsで見たオレゴン州ポートランド、右図 Mapsで見た見たオレゴン州ポートランド)

もちろん年々改善が行われ、米国では目立った欠陥はなくなりました。欠陥を生み出した原因に立ち返ると、TomTom、OpenStreetMap、Weather Channelらとのライセンス契約に依存しすぎていた点があります。Appleのビジョンに基づいた機能とUXを実現するには不都合なことが多く、プロダクトの質を下げてしまっていた可能性があったのです

そこで自社製地図データをベースにして、足りないところを補う目的でライセンス契約とユーザー提供のデータを組み合わせることで、地図アプリの拡張をコントローラブルに変更しました。ちなみにGoogleも同様の方法で地図データを構築しています。

今回のニュースでは、2018年秋の北カリフォルニアを皮切りに、徐々に地図を切り替えていき米国全体を網羅したバージョンを発表しました。Mapsの初リリースから8年、ようやくスタート地点に立ったと言えます。

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Video Credit:Apple

今後、昨年のApple主催「WWDC 2019」で発表されていた「Look Around」などの新機能を使用できる地域が拡大していきます。機能面でGoogle Mapsと比較しても大きく違うのはAR機能、テーマ毎にオリジナルな地図を作れるマイプレイス機能ぐらいであり、コアな機能に差はなくなります。ただし、アルゴリズムで優位性を持つGoogle Mapsを凌駕したとは言えません。「限りなく近付いた」というのが妥当でしょう。

しかし、AppleのMapsにもGoogle Mapsに勝る強みがあります。それがプライバシー管理です。

地図アプリを展開するには「位置情報」が付き物ですが、GPSの精度が上がるにつれてより厳格な取り扱いが企業に求められてきます。Googleアカウントには、仮に本名や住所、クレジットカード情報などの機密性が高い情報を登録していなくても、趣味・嗜好データが詰まっています。いってみれば、Googleアカウントはデジタルの人格です。このデジタル人格と位置情報が紐付けされ、一企業が独占的に持っている状況を嫌う人は多いはずです。

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Image Credit:Apple「WWDC 2019」

ユーザーにとってGoogleアカウントと地図アプリが紐付いているメリットは大きくありません。あるとしたら、指定位置から自分にあった飲食店を優先して表示してくれたり、Google Maps上でタイムラインを見れる程度です。この点、Appleはプライバシー管理の仕組みで信用を勝ち取る意向を示しています。

具体的には、ユーザIDと位置情報を紐付けることはなく、Appleが位置情報のデータを所持することはしません。つまり、Apple端末に登録されている情報と位置情報が一致することはありません。

もちろん、プライバシー管理を厳格にする代わりに利便性が落ちては本末転倒です。そのため、今まで通りサードパーティーへ位置情報を共有できます。ただし一度許可したら継続して権限が渡させる仕組みではなく、位置情報が渡したいタイミング毎にユーザーが許可する仕様に変更されます。

Appleと同じ姿勢をGoogleが示す可能性は低いと予想できます。それはお互いのビジネスモデルの違いに起因しており、Googleは広告を売りたいのでユーザーがどんな人がどこにいるかが知りたいのに対して、Appleはデバイスを売りたいのでユーザーがどんな人でどこにいるかは気になりません

従来、地図アプリは便利であるもののGoogle Maps以外の選択肢がないため、自分自身のプライバシーを犠牲にしてでも使用する人が多かったと思います。同程度の価値があるMapsの存在は、プライバシーに敏感な人へ深く刺さる可能性が高いでしょう。

WWDC 2019でも語尾を強めて主張したプライバシーポリシー。それがまさにAppleの勝算になるのではないでしょうか。

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