今、起こる「Airbnb of Storage」の衝撃

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ピックアップ:Utah’s Neighbor.com Raises $10M In A16z-Led Series A To Be The ‘Airbnb Of Storage’

ニュースサマリー:米ユタに本拠地を置く「Neighbor」は、シリーズAにて1000万ドルの資金調達を実施したと発表した。リード投資はAndressen Horowitz(以下a16z)が務めた。また、元Khosla VenturesパートナーNate Bosshard氏と、Uberのグローバルオペレーション担当であったRyan Graves氏も同ラウンドに参加している。

NeighborはP2P型のストレージマーケットプライスを展開するスタートアップ。ホストは利用していないガレージや駐車場などのスペースを掲載することで、ストレージ場所として貸し出すことが可能。同社によれば、一般的なセルフストレージより50%程低い価格帯で利用可能だという。

話題のポイント:a16zのパートナーであるJeff Jordan氏のNeighborに対して出資を決めた想いに興味深い点がいくつかありました。

同氏のブログ内では、NeighborをAirbnbやUberとP2Pエコノミー文脈で比較しています。また、過去に同様のサービスを試みたスタートアップも数多く存在したものの、ストレージのP2Pマーケットプレイスのタイミングが「今」であることを強調していました。

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Jordan氏の投資理念の中心には「businesses that provide economic empowerment as part of their business model. (経済の仕組みをガラッと変えて、エンパワーメントするきっかけを与えられる企業)」が据えられています。

過去のeBayやAirbnbがそれにあたると述べています。また、同モデルを実現するためには確かな時代背景のタイミングが求められているとし、今成長しているIT企業と同じコンセプトを持ったスタートアップは数多く存在していたことにも触れています。

さて、同氏はNeighborを「Airbnb for Storage」と表現しており、Airbnbと類似する性質を持っていると考えています。では、彼がAirbnbへ投資を決めた2011年、なぜそのタイミングが「今」と確信できたのでしょうか。

Airbnbへの投資を決めた際に執筆されたJordan氏の過去ブログを振り返ってみましょう。そこでは、Airbnbへの投資理由が以下のようにまとめられていました。

  • Marketplace models, connecting buyers and sellers(買い手と売り手を繋げることが出来るマーケットプレイスモデル)
  • Community-driven, populated with passionate users who evangelize the service(サービスのエバンジェリストが生まれてくるようなコミュニティードリブンなエコシステム)
  • Providing economic opportunity and empowerment to their sellers/hosts, enabling them to earn meaningful income(売り手/ホスト側が、実質ではなく意味のある収入が得られるエコシステム)
  • Platforms upon which their community of users continually expands into new verticals(プラットフォームのユーザーが継続的に拡大し続けるコミュニティーの仕組み)
  • Helping to make inefficient commerce efficient(非効率なマーケットに効率性をもたらす仕組み)

今でこそP2P型プラットフォームは一般的な用語ですが、上記はまさにP2Pエコシステムが軸となっていることが分かります。

以下はa16zがAirbnbに出資した際のコメントです。「Eコマースに新たなカテゴリーとして”スペース”を持ち込みマーケットプレイスを作り上げている」と表現されています。同時にアコモデーション(宿泊施設)の新しい概念をとなるだろうと話しています。

“We’re thrilled to have led this investment round in Airbnb. The company is defining a completely new category in e-commerce – a marketplace for all kinds of spaces, from homes and apartments to tree houses and yachts,” said Jeff Jordan, general partner, Andreessen Horowitz. “Airbnb’s explosive growth and passionate community of users reinforce the uniqueness of what they’re doing, and in the same way eBay redefined online shopping, Airbnb is redefining the way the world thinks about accommodations.”(a16zによるAirbnb出資に際するTechCrunchへの取材コメント

民泊という新たな宿泊施設が登場するまで「アコモデーション=ホテル」が成立していました。ただ、当時から旅人とローカル住居を結び無料で宿泊施設を提供する「Couchsurfing(カウチサーフィン)」はプラットフォームとして成立しており、民泊浸透の片鱗が徐々に見え始めていた段階だったといえます。

Airbnbのピッチ資料はとても有名ですが、そちらにもCouchsurfingは競合として記載されており、66万人のユーザー数とされています。また、ローカルの宿検索できるプラットフォームとしてCraiglsistも挙げられており、データによれば週に5万件の自宅貸し出し募集のリスティングがあると示されています。

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Airbnb Pitch Deck From 2008

こうした市場背景から、住宅の一部または全てをホテルのように貸し出す需要・供給は増え、「アコモデーション=ホテル」の固定概念が変わるきっかけとなりました。

上記の理由が 「民泊 × テクノロジー」のタイミングが「今」であると確信した根拠だったのではと考えます。ではなぜ、ストレージ × テクノロジーのタイミングがこれだけP2Pが発展した中で「今」なのでしょうか。

まず第一に、ストレージ市場全般が抱えている問題点に関しては以下のようにまとめられています。

  • 急速に発展を続けているが、供給量に限界があり価格破壊が起きづらい。
  • 供給量を増やすため、新しくストレージの場所の建設を目指すが、費用を抑えようとするとどうしても利便性に欠けた場所となる
  • 無人となるため完全な安全性を確保するのが難しい

P2P型ストレージマーケットプレイスであるNeighborであれば、これら諸問題に対して最適なソリューションをもたらすことができます。加えて、Airbnbが成功すると考えたプラットフォームにおけるコミュニティードリブンな性質を同社は充分に兼ね備えています。

下図はNeighborのウェブサイトに記された同社のミッションです。プラットフォームを受動的なものとして捉えておらず、「we bring people and neighborhoods closer together」にあるように、ユーザー参加型な設計をすることで新たなコミュニティー形成にも狙いがあることが受け取れます。

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今まで荷物を誰かの自宅スペースに預けるとなれば、既に交流のある知り合い宅が選択肢となりました。しかし、Neighborを利用することで、ローカル内で今までは交流を持つきっかけがなかった新たなコミュニティーと接点を持つことができます。

Airbnbにおけるホストとユーザーがそうであるように、同じ空間をシェアすることで一人一人に当事者意識が生まれます。これは、セルフストレージのように顧客とユーザー間では生まれない特殊な関係性で、単なるご近所つながりから一気に違った関係性へと導くこととなります。

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この関係性が成り立つと、プラットフォームに対する帰属意識が生まれ、そこから自然とサービスのエバンジェリストが生まれてきたことはAirbnbが証明してくれています。

AirbnbやNeighborでは、従来は考えられないような低価格でスペースをそれぞれの目的ごとに利用できるマーケットプレイスを作り、市場に価格破壊をもたらしました。さらに、ユーザーが主体となって新しいコミュニティーを作り上げていく流れもうまく構築しブランドの確立がなされました。この点をみると、やはりJordan氏が触れている「サービスのエバンジェリスト」が両者が急速に発展するキーとなっていると言えるでしょう。

Neighborはサービスが必要とされる背景とサービスのエバンジェリストが生まれるコミュニティードリブンな設計が初期段階から施されています。

他人の家に荷物を置くという概念もAirbnbが発展した今であれば容易に受け入れられるコンセプトです。もし仮に、彼らのサービスがAirbnb一般化以前に登場していたのなら状況は違っていたのかもしれませんが、既に時代はシェアリングエコノミーが当たり前となっているため、同社にとって挑戦するタイミングは今しかないといえるでしょう。

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Neighborは既に自社を「Airbnb of Storage」と自社サイトに打ち出し、Airbnbと同じ層を狙っていることに間違いはなさそうです。しかし、これは単に○○版Airbnbの延長線上というわけではなく、Airbnbが急速に発展したエコシステムをしっかりとハックし、ストレージ領域の変革に応用しているという意味合いが強いのだと感じています。

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