沖縄で「リゾート×テック」をテーマに見本市&スタートアップカンファレンスが開催——日本内外から130社・8,800人が集結

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沖縄県宜野湾市にある沖縄コンベンションセンターでは、2月5日と6日の2日間にわたり、ResorTech Okinawa(おきなわ国際見本市)Okinawa Startup Festa 2020 が開催された。沖縄での IT 企業やスタートアップに特化したイベントとしては過去最大のものだ。国内はもとより海外8カ国から130社が参加。スタートアップも沖縄県下や日本国内のみならず、隣接する台湾からも数社が招かれ、約30チームがブース出展やピッチ登壇を行った。イベント全体における2日間の入場者数は、事務局発表の速報値で8,800人。

沖縄県は観光業が盛んであり、県境が周辺諸国と直接隣接していることもあって、リゾートとテクノロジーを掛け合わせた ResorTech を経済振興策の一つに掲げている。労働力低下対策、デジタルマーケティング、キャッシュレスといったテクノロジーを既存産業の柱と掛け合わせることで、社会全体のデジタルトランスフォーメーションを図ろうとする狙いも伺える。沖縄県は ResorTech への取り組みを施策の基盤にすることを明らかにしており、スタートアップに対し通年で実証実験などの機会を提供していく考えだ。

LUUP の展示ブースを訪れた玉城デニー沖縄県知事。同社は、宜野湾市や名護市カヌチャベイリゾートで実証実験を行なっている。
Image credit: Masaru Ikeda

ResorTech Award

ResorTech Okinawa では、参加した企業やスタートアップの中から、有益性・市場性・将来性などからイノベーション度が高い技術、製品、サービスを選び表彰する ResorTech Award が授与された。

【総合グランプリ】newme(ニューミー) by ANA ホールディングス

瞬間移動をテーマに ANA ホールディングスが開発したテレイグジスタンスのためのアバター。BRIDGE でも一昨年の NoMaps で展示された同機を紹介したが、その後、「newme(ニューミー)」と名前が付けられ、全社的な取り組みとなった模様。移動手段の提供という形で離れた場所にいる人同士を繋ぐ企業ながら、従来と違う形で繋ぐ手段を提供するというディスラプティブな姿勢が評価された。ANA はアバタープラットフォーム「avatar-in」を今年4月にローンチ、newme を2020年夏までに1,000体普及することを目指す。

【イノベーション部門グランプリ】AIRCLE by Alpaca.Lab

琉球大学との共同研究により運転代行業界の最適化を図る Alpaca.Lab。運転代行は、車で来訪した飲食店で呼んでもらうことが多い。この際、飲食店は運転代行業者への電話に時間を取られ、ユーザは呼び出してから運転代行が到着するまでに時間を要ることが課題。Alpaca. Lab はこの課題を、飲食店と運転代行をつなぐアプリ「AIRCLE(エアクル)」で解決。GPS データを元に、最寄りの運転代行とマッチングされるので待ち時間も短縮される。「Okinawa Startup Program」第3期から輩出。

【海外部門グランプリ】VM-Fi by Maxon Creative(麦成文創)

VM-Fi は、小型の送信機を持つことで、インターネット接続を持たないスマートフォンに対しても、半径50メートルの範囲で音声を届けることができるアプリケーションだ。屋外で歩きながら使えるため、グループのツアーガイドへの利用が期待されている。静粛を求められる場所においても、ガイドはマイクを使って大音量で説明を伝える必要がない。レシーバーに相当するデバイスを容易しなくていいので、サービス提供コストも下げることができる。インターネット接続を必要としないので、海外からの訪問客であってもローミングは不要だ。Maxon Creative(麦成文創)では、沖縄の各所にこのサービスが普及させたいとしている。

JSSA アワード

5日と6日の2日間にわたり、沖縄や台湾のスタートアップ、沖縄科学技術大学院大学(OIST)からのスピンオフしたスタートアップなど約30チームがピッチ登壇した。翌日7日に那覇市内でのミートアップに合わせ沖縄入りしていた日本スタートアップ支援協会(JSSA)代表理事の岡隆宏氏、ベクトル専務執行役員 CSO の中島謙一郎氏が審査員を務め、優秀チームに、JSSA が次回、東京や大阪で開催するミートアップへのファイナリスト参加と、そのための旅費を提供される賞が授与された。ミートアップでの優勝者は、JSSA が運営するファンドから2,000万円の出資を受ける権利が得られる。

AWA PASS by OKT Communications

OKT Communications は、泡盛のサブスクリプションサービス「AWA PASS」を考案した。ユーザは AWA PASS に月額600円を支払うことで、AWA PASS 参加飲食店で泡盛2杯までを無料提供してもらうことができる。お店は多額の集客コストをかけずに、新規顧客の開拓や常連顧客の活性化が可能になる。AWA PASS 提携店の登録料は無料。将来は、サービスを全国地域や泡盛以外の種類などにも広げ、地産地消プログラム、新商品のマーケティング、インバウンド集客などでマネタイズを図る。

FASTPICK by U&I

スモールビジネスにありがちなドンブリ勘定にあると感じた上間弁当天ぷら店の2代目敏腕経営者としても知られる上間喜壽氏は、日々の経営からデータを集め、どうすればビジネスが改善するかを、本業と並行して U&I を設立。同社が今回紹介したのは、事前に注文・決済、簡単受け取りができるプラットフォーム「FASTPICK」。テイクアウトフードコートとして飲食店へモバイルオーダーのサービスを提供する。

パネルセッション

パネルセッションもいくつ開かれた。

スタートアップの創出にアカデミアがどう関われるかをテーマにしたパネルでは、馬田隆明氏(東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ FoundX ディレクター)、Lauren Ha 氏(沖縄科学技術大学院大学=OIST 技術開発イノベーションセンター 准副学長)、大角玉樹 氏(琉球大学国際地域創造学部 教授)が登壇。自身も琉球大学で「ベンチャー起業講座」のメイン講師を務める和波俊久氏(リーンスタートアップジャパン 代表社員)がモデレータを務めた。いずれも、アカデミアで起業家育成の第一線で活躍する人たちだ。

起業は教育で学べるのか、という問いに対し、和波氏は自身が経験した3回の起業体験のうち、唯一失敗した1回の経験が教育にアドバイスを求めたものだったとして疑問を呈した。Ha 氏は起業は学べるが、その起業を成功させるのは何より実際にやってみることだと話した。馬田氏は起業を学ぶことはできるが、起業家に求められるメンタリティなどは非認知性が高いことが判明しており、若いうちの方が習得しやすいため学び始めるタイミングが重要だと主張した。大角氏は、教育機関で学べるのは現時点で明らかになっている知識を元にしており、不確定な将来のことは教育ではカバーできないとした。

日本で活躍するエンジェル投資家が彼らの目線から、沖縄のスタートアップエコシステムの現状と可能性を話し合うセッションには、砂川大氏(スマートラウンド 代表取締役、連続起業家・エンジェル投資家)、田中邦裕氏(さくらインターネット CEO、エンジェル投資家)、小原聖誉氏(StartPoint 代表取締役、エンジェル投資家)、小川真司氏(琉球銀行 法人事業部地方創生グループ調査役)、兼村光氏(沖縄ITイノベーション戦略センター=ISCO ストラテジスト)が登壇。嶋根秀幸氏(ファウストビート 代表取締役)がモデレータを務めた。

沖縄におけるスタートアップはまだ少ないものの、2016年から開始された「Okinawa Startup Program(当初は、琉球銀行のみが主催者であったため「Ryugin Startup Program」)が一つのターニングポイントとなったことが説明された。日本では、東京以外の地方自治体では、福岡市、神戸市、大阪市などが地元のスタートアップエコシステムの創出に一定の成功を見せていることが共有された。東京はリゾートとは言い難く、リゾートという呼称に沖縄は国内で最もふさわしい地域であることから、ResorTech を中心としたスタートアップが多く生まれることに期待が込められた。

日本のスタートアップシーンで活躍する沖縄出身の起業家と、その起業家のスタートアップに出資した投資家を〝相思相愛のカップル〟に見立て、有名テレビ番組「新婚さんいらっしゃい!」仕立ての構成で展開された最後のセッション。古田奎輔氏(Payke 代表取締役 CEO)×林龍平氏(ドーガン・ベータ代表取締役パートナー)、澤岻優紀氏(OLTA 代表取締役 CEO)×天日郁也氏(ジャフコ シニアアソシエイト)、松本隆一氏(Cbcloud 代表取締役 CEO)×長野泰和氏(KVP 代表取締役社長 パートナー)の3組のカップルが登壇。

3人の起業家たちは、それぞれ自身が事業を立ち上げたきっかけを披露。古田氏は、沖縄が東京から離れている分、〝ある種の治外法権〟で東京流のルールや起業スタイルに囚われなくて良い点はメリットは大きいと強調。また、松本氏は沖縄独特の助け合い精神(ゆいまーる)から、切磋琢磨したり競合と戦ったりすることに慣れていない点は、起業においてはネガティブに働く側面があるかもしれないと説明。澤岻氏は、スタートアップは「新機会の追求型」と「生きるために起業する型」に大別されるが、沖縄には圧倒的に後者が多く、むしろ前者に属するスタートアップとなるダイヤの原石をどう見つけるかが課題、と話した。

主催者の声

左から:実行委員長の稲垣純一氏、事務局長の永井義人氏
Image credit: Masaru Ikeda

イベントの終盤、実行委員長を務めた稲垣純一氏(沖縄県情報産業協会会長代行)と、自身もスタートアップ経営者であり、事務局長を務めた永井義人氏(沖縄 ITイノベーション戦略センター(ISCO)専務理事)に、今回のイベントの開催までの経緯と振り返りを聞くことができた。

沖縄返還から48年。日本の他の地方自治体と同様、沖縄県も十年単位で振興開発計画を見直してきた。内地から離れている分、輸送コストがかかる商品やサービスでは競争力を発揮できないと判断、沖縄にはコールセンターをはじめとする情報産業の誘致がここ二十年ほどで進んだ。しかし、世界が前進する中、沖縄にも新たなコアになるコンテンツのあるビジネスの創生が求められるようになった。

昨年、入域観光客の数で、沖縄はハワイを超えた。依然として観光客一人当たりの消費額や滞在日数ではハワイに及ばないものの、観光業やリゾート産業と IT を掛け合わせることで新たな価値を創造できるのではないか、という仮説が ResorTech という言葉に込められた思いだ。そこにはアジアにおける物流ハブになりつつある沖縄が、ビジネスやスタートアップコミュニティのハブにもなりたい、という思惑が見え隠れする。

今まで使われていた同じ技術シーズが観光などで生かせれば、端末もコストダウンできるだろうし、業務効率もよくなる。そういったことに、皆に気づいてもらえるキッカケになれば・・・。

地理的な観点から大量生産などには不向きだが、観光業と情報通信産業は沖縄がもともと持っていたポテンシャルだけに重ね合わせやすい。そこには、次の20〜30年の可能性が見えてくると思う。(稲垣氏)

会場となった沖縄コンベンションセンター
Image credit: Masaru Ikeda

沖縄がスタートアップのハブとして成長するために必要なベンチャーエコシステムには、2つ足りないものがある。一つは地元大企業の支援。沖縄の大企業はスタートアップ支援は役所がやるものと考え、自分たちが直接応援するのを遠慮するきらいがある。そんな地元の有名企業には、スタートアップに対し、少額出資でもファーストユーザになるでもいいから、「信用のお裾分け」をしてほしいとお願いしている。

もう一つはテックブランドだ。エストニアならブロックチェーン、香港ならフィンテックなど、そのスタートアップハブを象徴するブランドイメージが存在する。沖縄にそれはまだ無いが、ResorTech がそんなキッカケの一つになれるのでないか。(永井氏)

沖縄県の ResorTech に関する活動が興味深いのは、年間を通してそのイニシアティブが展開されることだ。イベントとしては年に1〜2回程度の開催となるが、ISCO 主導のもと、沖縄県・企業・スタートアップを巻き込んだ PoC が県下の随所で展開されている。次回の ResorTech Okinawa は10月29日〜11月1日、今回と同じ沖縄コンベンションセンターでツーリズム EXPO ジャパンと同時開催される予定だ。

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