ニュースサマリ:戦略PRを手掛ける本田事務所と総合PR会社ベクトルグループ(東証:6058)は2月12日、共同でPR人材データベース事業を開始すると発表した。
名称は「SCALE Powered by PR(以下、SCALE)」。多面的にPR(パブリックリレーションズ)戦略を手掛けることのできる、主にフリーランスや副業の人材を育成し、必要な企業とマッチングするサービスを展開する。3月2日より企業向けに登録人材の紹介を開始するほか、登録者向けに育成を手掛けるスクール「SCALE アカデミー」の4月開講も計画している。開始時点でのPRパーソン登録者数は100名程度を予定。
なお、企業側の人材マッチングは成果報酬型になる予定だが、フリーランスや副業などに対応するため、詳しい契約形態(業務委託等)については今後詳細が公開される見通し。現時点での登録には人材、企業共にサイトの専用フォームから問い合わせが必要。スクールについては無償提供する。
話題のポイント:個人的にかなりアツい話題です。

戦略PRの本田哲也さんがスタートアップ(と中小企業)向けのPRパーソン育成・マッチング事業を開始されます。役割的には「本田事務所がソフト、ハードはベクトルという分担」(本田氏)ということで、合弁設立とかではなく現状ではあくまでプロジェクトの模様。本田さんについては書籍を読んでいただくのが手っ取り早いですが、“空気の変化”を生み出す、魔法使いみたいなPRパーソンです。
※ちなみに情報開示ですが、ベクトルグループはBRIDGEの運営会社、PR TIMESの主要株主でもあります。が、まあ、私の記事読んでる人であれば分かると思いますが、頼まれて書いてるわけではありません。本当にお伝えしたくて書いています。
さておき、大切なポイントはとにかくこれ、「PRパーソンのモノサシができた」ことです。
スタートアップにPRが必要な理由と課題
スタートアップになぜPRが重要なのか。この点についてはこれまでにも考察を重ねてきました。一言で言うなら「知らない会社には入りたくない」。スタートアップの勝負は「組織・人」に集約されるといって過言でない中、ここの説明コストを効率化すれば相当の利益になる、というシンプルな考え方です。
そこで出てくるのが「広報・PR」という手法です。しかし残念ながらここについては、開発やマーケなどと異なり、あまり言語化・フレームワーク化が進んでいません。私もここ1年近く、勉強会等を通じて数百人規模で経営者やPRパーソンたちと意見交換しましたが、認識のズレは相当あると感じています。
なぜか。広報・PRパーソンのレギュレーションが曖昧だからです。変な話ですが、私が名刺に「PR専門家」と書いてそれっぽい話をすれば、そういう仕事ができてしまうのです。そこで本田さんたちが取り組んだのが「SCALE PR CONPETENCY」、つまりPRパーソンに必要なモノサシを作った、というわけです。
PRパーソンに必要な技術ってなに?

PR先進国である欧米では、優れたPRパーソンの要件(コンピテンシー:行動特性)が決まっているそうです。日本でも広報人材のスクールや講座はありますが、多くはパブリシティなどの広報技術が中心で、こういったPRパーソンに必要な行動指針のようなものは存在していませんでした。具体的には図にあるマトリックスがそれです。
それぞれの詳細は割愛しますが、特にスタートアップPRに重要なのが「ナラティブ力」です。この件についてはこちらの記事に前後編で書きました。
<参考記事>
スタートアップ経営者における広報PRでよくある勘違いに、メディア露出と話題づくりが役割(テクニック)であって、それ以上でもそれ以下でもない、というものがあります。
違います。PRは明確に経営戦略です。例えばここ2年で成長しているスタートアップのひとつに「AI先生」で躍進したatama plusさんがあります。彼らのカルチャー戦略で重要な技術がまさに「PR」なのです。
<参考記事>
経営戦略上重要なPRパーソンをスコアリング(得意・不得意など)することができれば、企業とのミスマッチも減ります。このあたりについてはもっと書きたいのですが長くなるので、実際にスコアが動き出したときに考察してみたいと思います。

ちなみに「本田塾」とも言える育成スクールの講師陣にもスタートアップ、テクノロジー系ベンチャーにゆかりある顔ぶれが入っています。サイバーエージェントの上村嗣美さんは30名ほどだった同社の企業広報を経営陣といっしょに立ち上げてきた、CA広報の顔的存在です。本誌でも度々話題にするメルカリの矢嶋聡さんは、参加こそ上場前後ですが、同社のPRを組織的な仕組みに変えた立役者のひとりです。
<参考記事>
無償提供ですが、さすがにこれは企業広報やPR会社などで一定の経験を積んだ人たち向けのプロ養成スクールになりそうです(まだ内容がはっきりわかっていないのであくまで印象です)。
チラチラとみえる死角
と、ここまで期待値の高さを書きましたが、もちろん死角がないわけではありません。一番の懸念点は企業側がこの重要性に気がつくかどうか、です。
正直言います。本件自体の説明コストはめちゃ高いです。
くり返しになりますが、スタートアップ(や小さな企業)の広報・PRに対する期待の多くは「露出」です。しかし冒頭に書いたとおり、本来、スタートアップの経営者が目指すべきは「説明コストの削減」であって露出はその手段のひとつでしかありません。
この点について本田さんにお聞きしたところ、地味ではありますが、やはり啓蒙活動の積み重ねが必要との認識でした。ここの空気感を変えられるのか、日本を代表するPRパーソンとPRエージェンシーの力量に期待しています。
また、ビジネスモデルも気になる点があります。
広報PRの仕事は経営企画に近い場所で、特にスタートアップのような成長過程の企業でそこまでチームが大きくなるケースはあまりありません。つまり経験者数の不足は避けられないため、流動性についてはやや気になります。
また、コンサルティングに近い領域ですから、先日上場承認を受けたビザスクのような時間単位での提供モデルがあってもよさそうです。プロジェクト単位での依頼も可能ということですが、この点はスコアによるマッチング精度が鍵になるかな、と。
ということで本件については引き続き、サービスインなどのタイミングで情報(特にPRに関するノウハウ)をお伝えしたいと思います。
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