スティーブ・ブランク氏が語る、起業家のための生存戦略——新型コロナウイルスから事業を守るために今すぐやるべきこと【ゲスト寄稿】

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Steve Blank 氏はシリコンバレーで複数のテックスタートアップに従事。スタンフォード大学やコロンビア大学でアントレプレナーシップのシニアフェローを務める。著書に「The Four Steps to the Epiphany」(邦訳「アントレプレナーの教科書」)や「The Startup Owner’s Manual」(邦訳「スタートアップ・マニュアル」)など。

本稿は著者のブログで最初に掲載されたもので、転載にあたり、BRIDGE は SteveBlank.com から独自に許可を得た。

This story originally appeared on Steveblank.com. Copyright 2020


冬がやって来る。

このブログ投稿は、私の予想が全くもって間違っていてほしいと願う内容だ。

新型コロナウイルスが世界的大流行となる中、あなたがスタートアップやスモールビジネスを率いているのであれば、「プランBは何か?」と自問するべきだ。あなたの救命艇には何が入っている?

ここでは、大流行による不確実な状態を乗り切る方法について、いくつか考えを共有したい。

2015年10月、Startup Istanbul で講演する Steve Blank 氏。
Image credit: Masaru Ikeda

影響

社会的隔離や国家緊急事態の宣言は、人々を集める産業——会議、見本市、航空会社やクルーズ船、あらゆる種類の旅行、ホスピタリティ業界、スポーツイベント、劇場、映画、レストラン、学校——に即座に影響を与えた。大企業は従業員を自宅で働かせ、大規模な小売チェーンが店舗を閉鎖している。ギグエコノミーにおけるスモールビジネスやワーカーへの影響はニュースになっていないが、彼らにとっては状況がさらに悪い。彼らは現金の準備が少なく、突然の不況に対処できる許容が小さい。こういった閉鎖のすべての波及効果とフィードバックは、経済に大きな影響を与える。影響を受ける各産業は人々を失業させ、解雇された人々はプロダクトやサービスを購入しなくなるからだ。

他の産業においても、通常のビジネス状態ではなくなった。事実、パンデミックのために経済封鎖を行ったことは、これまでに一度もなかった。これからの数ヶ月、経済全体が荒廃する中で何百万人もの人々が仕事を失うかもしれない。1929年〜1939年の世界大恐慌以来、初めて目にする光景かもしれない。私はこの予想が間違いとなることを願っているが、今回のウイルスの社会的影響および経済効果は深刻なものになる可能性が高く、我々の買い物、旅、仕事の進め方を数年にわたり変化させるだろう。

スタートアップやスモールビジネスを経営しているなら、(家族の次に)従業員と顧客を安全に保つことが最優先だ。しかし、次に尋ねたくなる質問はこうだろう。「私の事業はどうなるのか?」

全てのスタートアップやスモールビジネスの CEO は、次のような疑問を持つ。

  • バーンレートとランウェイは?
  • 新しいビジネスモデルはどのようなものか?
  • これは3ヶ月の問題か、1年の問題か、それとも3年の問題か?
  • 投資家は何をするか?

バーンレートとランウェイ

最初の質問に答えるには、現在のバーンレート、つまり毎月どのくらいのキャッシュを使っているかを調べる。固定費(変えられないコスト、賃料など)はいくらか、変動費(給与、コンサルタント料、手数料、旅費、AWS / Azure 料金、消耗品など)はいくらか?

次に、毎月の実際の収益を見る。予測ではなく、毎月の実際の収益だ。アーリーステージの会社の場合、その数値はゼロである可能性がある。

毎月のグロスバーンレート(総バーンレート)を毎月の収益から引き算すれば、ネットバーンレート(実質バーンレート)を得られる。支出より多くのお金を稼いでいる場合、プラスのキャッシュフローがある。あなたがスタートアップであり、費用よりも収入が少ない場合、ネットバーンレートはマイナスとなり、それはあなたの会社が毎月失う(燃やす)金額を表す。今、会社の銀行口座をチェックしよう。あなたの会社が毎月その量のキャッシュを燃やして何ヶ月生き延びられるかを確認してほしい。これがあなたのランウェイ、つまり会社がキャッシュを使い果たすまでの時間だ。この数学は、通常時の市場で機能する話であるが…。

世界はさかさまになった

残念ながら、現在はもはや通常時の市場ではない。

  • 顧客、販売サイクル、そして最も重要なこととして、収益、バーンレート、ランウェイに関するすべての仮定はもはや正しくない。
  • あなたがスタートアップの場合、次のラウンドの資金を調達するまで、ランウェイの計算がおそらく続くだろう。次のラウンドがあると仮定する。それはもはや正しくないかもしれない。

現在のビジネスモデルはどのようなものか?

今日の世界は1ヶ月前と同じではなく、今から1ヶ月後にも悪化する可能性が高いため、今日のビジネスモデルが今月の初めと同じようなら、あなたは現実から目を逸らしていて、おそらく廃業することになる。

スタートアップの CEO の性格は楽観的であるべきだが、顧客と収益についての仮定をすばやくテストする必要がある。

  • B2B ビジネス……顧客の売上は落ちているか? 顧客は今後数週間、事業を閉鎖するか? 人を解雇するか? その場合、収益予測や販売サイクルの見積は無効になる。
  • B2C ビジネス……サービスを提供していた市場は、多面的市場(編注:民放にとっての視聴者と広告主の関係性のように、直接的にサービスを享受する側とお金を支払う側が異なる業態)ではなかったか? お金を払ってくれる人に対する仮定は、今でも正しいか? どうしてそう思うか?

新しい財務指標は何か? 売掛金、そして、資金が残っている日数は?

この新しい環境下で実際のバーンレートとランウェイを把握する必要がある。これは3ヶ月の問題か、1年の問題か、それとも3年の問題か?

次に深呼吸して、これは3ヶ月の問題か、1年の問題か、それとも3年の問題かを考えよう。企業の閉鎖は経済の一時的な停止になるのか、それともアメリカとヨーロッパを長期不況に追い込むのか?

わずか3ヶ月の問題である場合、(日ごとに発生する可能性は低い、給与・マーケティング費・出張費などの)変動費の即時凍結が有効だ。ただし、経済の影響が長く続く場合は、事業のリストラを開始する必要がある。救命艇戦略が必要だ。これは、会社存続のために何が最小限必要で、何を捨て去るべきかを把握するフェーズだ。

1年の問題なら、バーンレートにメスを入れること(すなわち、変動費を下げるため、レイオフと福利厚生を廃止する)。以前は固定費と思われていたもの(家賃、機器のリース支払など)を再交渉し、救命艇で生き残るのに必要なものだけに絞り込むことを意味する。

(CFO がとるべき行動のアドバイスはこちらから)

オンライン対面で販売している場合、(顧客がまだそこにいると仮定して)有利になる可能性がある。そうでなければ、販売戦略を変更しよう。

先月の時点でのプロダクトマーケットフィット(PMF)がどうであれ、それは今となってはもはや通用せず、新しい基準を満たすために変更する必要がある。これにより、新しいバリュープロポジション(提供価値)が見出せるか、競合を負かせられるか、あるいは、プロダクトを変更するか?

そして、それが3年の問題なら、生存に不可欠ではないものをすべて捨てる必要があるだけでなく、おそらく新しいビジネスモデルが必要になる。短期的には、ビジネスモデルの一部を新しい社会的隔離のルールに向けることができるかどうかを検討してほしい。プロダクトをオンラインで販売、配送、生産できるか? そのような形でプロダクトを供給した場合、メリットはあるか(Sequoia Capital のアドバイスを参照するとよいだろう)。そうでない場合、あなたのプロダクトやサービスを、他の人が不況を乗り切るための救命艇として位置づけることはできるか?

リーダーシップ——思いやりを持って計画し、伝え、行動する

販売収益の目標とプロダクトのスケジュールを修正し、新しいビジネスモデルと運用計画を作成し、投資家と従業員に明確に伝えよう。明確に理解できる達成可能な計画に人々を集中させよう。過去3回の不況を経験した立場から言わせてもらうなら、CEO 達が犯した最大の過ちは、経費を短期間で大幅に削減できなかったことだ。彼らは、そのままやり過ごせるのではないかとも取れる魔法のような考えで、レイオフを怠り費用削減を放置しプロジェクトを進めた。今すぐ行動する必要がある

レイオフを検討している大企業の場合、最初の選択肢は、(他の従業員より)賃金の高い幹部や従業員の給与を削減し、一方で余裕のない人々を雇用し続けることだ(救命艇に飛び込む前に、まず船上の全員を救おうとする CEO にはいいことがあるだろう)。人をレイオフする必要がある場合、思いやりをもって実行すること。辞めてもらう人には、追加で補償を出すべきだ。最悪、キャッシュが不足していると思われる場合でも、残金がゼロという状況はないだろう。適切な対応を行い、最低でも2週間以上の給与を全員に提供するのに十分な現金を用意すべきだ。

あなたの投資家

生存の重要な要素の1つは、資本へのアクセスだ。スタートアップやスモールビジネスの立場から、投資家が今回のパンデミックがビジネスモデルにどのように影響するかを自問していると考えるべきだ。そして、冷たくも厳しい真実は、不況下においては、VC が「救命艇で何を救うか」を考える準備運動を始めるということ。

彼らは、自らが持つ投資にトリアージ(優先順位付け)をする。まずは、バリュエーションの高いレイトステージの投資の流動性を心配する。こういったスタートアップは通常バーンレートが高く、投資した資金が崩れ落ちる可能性があるからだ。あなたやあなたのスタートアップは投資家にとってもはや優先事項ではなく、あなた方の関心はもはや同じ方向を向いていない(そうでないという VC は未熟で白々しい嘘をついているか、彼らの投資家(LP)の利益に役立とうとしていないか、のいずれかだ)。大規模な景気後退のたびに膨らんだバリュエーションが消え、それでも新しい小切手を書き続けている少数の VC だけが買い手市場であることに気付く(彼らは「ハゲタカキャピタリスト」という言葉で呼ばれる)。

投資家の中には、バリュエーションが上がり投資資金が豊富な活況のある市場しか経験したことがない人もいる。しかし白髪の投資家は、2000年と2008年の景気後退後に訪れた核の冬を思い出すことができ、アーリーステージのスタートアップを経営する CEO 達に、不況と景気回復の歴史循環について教訓を伝えることができる。1987年の不況の時にはまだ生まれていなかった人も、2000年の不況の時には10歳、この前の2008年の不況の時には18歳だ。そして、現在の状況とは異なることに留意してほしい。今起きていることは株式市場が弱気なわけではない。我々の経済の大部分は意図的なシャットダウンにより、数十万人もの命を救うために彼らの職を引き換えにしているため、それが弱気相場と不況っぽい状況を作り出しているのだ。

この前の2008年の大不況のデータでは、シードラウンドが早期に回復しているが、その後のステージの資金調達が空白となり、回復に何年もの時間を要した。(2008年不況前後の四半期毎 VC 投資を示す、以下の図を参照されたい。Tomasz Tunguz 氏の投稿から抜粋。)

(クリックして拡大)

今回、ベンチャービジネスの健全性は、ヘッジファンド、投資銀行、プライベートエクイティ、ソブリンウェルスファンド(政府系ファンド)、大規模なセカンダリマーケットグループ(既発行有価証券の取引市場)が何をするかに依存する可能性がある。彼らが後退すると、レイターステージのスタートアップ(シリーズ B や C ラウンドなど)にとって流動性危機(信用不安による取引の収縮)が起こるだろう。短期的にはすべてのスタートアップにとって、取引条件とバリュエーションが悪化し、出資を検討する投資家が減ることになる。

スタートアップ の CEO であるあなたは、バーンレートを根本的に削減せず、新しいビジネスモデルを思い付かないと、取締役らがあなたを責め立てるかどうか、あるいは、いろいろ考えずに現状維持すべきだと責め立てるかどうか、を知る必要がある。

後者の場合、取締役たちが間違いなら、彼らが会社の経営にどれほど責任を果たしているかを知りたい。VC にとっては、「次の調達ラウンドが必要になった時には、あなたの味方ですよ」と言うのは実に簡単だ。投資家達が「全速前進」の号令とあなたの銀行口座に入金する行動を一致させない限り、今は回復不可能なバーンレートに踏み込む時ではない。

長く寒い冬に備えよう。

しかし、冬が永遠に続くことはないということを忘れてはいけない。冬の時代においても、スマートな起業家と VC は、スタートアップの次の世代のために種を撒き続けるだろう。

学んだことのまとめ

  • 今起きていることは経済の意図的なシャットダウンである。数十万人もの命を救うために彼らの職を引き換えにしている。
  • 不況を引き起こす可能性が高い。
  • 新型コロナウイルスは、少なくとも1年間、高い可能性で3年間は、我々の買い物、旅、仕事の進め方を変化させるだろう。
  • 30日前と同じビジネスモデルを今日も使えるとは考えられない。
  • 3ヶ月、1年、3年にわたり景気後退が続く場合の計画を救命艇に入れよう。
  • 投資家は投資家の関心に沿って行動すると認識すべき。もはや、起業家であるあなたの関心と同じではない。
  • 今すぐ行動を。
  • でも思いやりを持って行動を。
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