人工知能がスポーツトレーナーになる「Sportip」、筑波大発スタートアップにDEEPCOREらが出資

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左:Sportip 高久侑也氏、中央左:Deportare Partners 為末大氏、中央右:マネックスベンチャーズ 和田誠一郎氏、右:DEEPCORE 渡邊拓氏
Image Credit:Sportip

ニュースサマリ:整体師・トレーナー向けAI解析アプリ「Sportip Pro」を提供する「Sportip」は6月25日、マネックスベンチャーズ、DEEPCORE、Deportare Partnersを引受先とする第三者割当増資を実施したことを発表した。調達金額は数千万円としている。

Sportipは、整体・接骨院やフィットネスクラブ、理学療法士などを対象としたスポーツアシスタントAI事業として「Sportip Pro」を6月より展開している。今回の資金調達をもとに、個人に合わせた適切な指導を届けるサービスとしてSportip Proの開発強化を実施する。

話題のポイント:様々なスポーツで、年々アマチュアのレベルが上がっていると感じます。2000年代、高校生で150km/hを超える速球を投げられる投手が話題にならなかったことはありませんでした。しかし現在は、日本で話題になるのは160km/hを超える投手で、メジャーリーグのトップは平均球速が160km/hを超える時代です。

プロになってから10km/h以上の球速アップは稀であるため、小・中・高・大学の期間に食事のバランス、筋力トレーニング、身体を使い方といった情報が容易に入手できるようになった結果、ボトムアップが図られて突出する選手のレベルが上がったのが要因ではないでしょうか。

しかし、そういった情報はあくまで平均値です。全スポーツ選手の身体組成が均一であるならば問題はありませんが、定量的に見れる情報(身長、体重、筋肉量など)から、定量的には把握しづらい骨格や癖に至るまで、個人でベストエフォートは変わります。自分に合わない情報に踊らされ、身体を壊してしまうケースも生んでしまう怖さもあるのです。

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Image Credit:Sportip

これは「お金持ちが持つもの」が時を経て中間層、そして貧困層へと普及することを指すバリアン・ルールが当てはまる状況に似ています。スポーツにおいては刻一刻と変わる自分の身体を自分以上に知りコントロールしてくれるパーソナルトレーナーの存在です。

最近パーソナルトレーナーを付けている人も増えてきましたが、まだまだ少数で高価です。本来最も必要になるであろう学生や、ケガのリスクが増す40代以上のスポーツマンに向けて低価格・高品質なものとして普及を望む層は多いでしょう。しかし残念ながらすでに民主化へ目論見を持ち動き出しているケースはありますが、実現していません。

では、今足りていない要素は何か。それは誰でも簡単にそして正確に、身体の定量化しづらい情報を取得する技術です。正しく身体の動きを把握できなければ良質なフィードバックに意味はありません。今回取り上げた「Sportip」はここに強みを持っています。

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Image Credit:Sportip

同社はスポーツ科学で有名な筑波大学発の企業です。スポーツ特化のデータセットを持つ研究室と共同開発体制を取り、スマホのカメラでの高精度な姿勢推定を実現しています。あなたの身体がどのように動いているのか、またその動きは理想的な形でどのように乖離しているのか。容易かつ正確に身体の姿勢を把握できれるコア技術は、データセット作成コストを考えると他社が簡単に模倣できるものではありません。

今月の19日まで開催されていたCVPR2020でも話題になったのが、Facebookも力を入れる単一カメラでの姿勢推定です。筑波大学の蓄積してきた高価なモーションキャプチャで撮影されたデータセットと、スマホカメラとのクオリティギャップを埋めるSportipのアルゴリズムのかけ合わせで、スポーツの動作において圧倒的な差別化を図れたのは深いレイヤーでの産学連携の賜物でしょう。

また同社は筑波大学のフィードバックを専門とする研究室とも提携しています。スポーツ医学、運動生理学等をバッググラウンドに抱え、最先端の知見をサービスに組み込めるのは大きな強みです。

現在はtoB向けのサービスを展開している同社ですが、いずれtoCのサービスとして無人パーソナルジムの構想も明らかにしています。「一人にひとつのコーチを」同社のビジョンが実現するとき、ソフトウェアが物理空間を飲み込み、最良の体験へと導いた代表的な事例となっているかもしれません。

 

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