インキュベイトFの250億円ファンドに年金基金が出資、シードから最大30億円まで投資可能

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10周年を機にリブランディングしたインキュベイトファンドのロゴ

ニュースサマリ:一部で報道あったように、スタートアップへの投資を手掛ける独立系ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドは7月20日、新たなファンド設立を公表する。新たに設立するのはインキュベイトファンド5号投資事業有限責任組合で、予定しているファンド規模は250億円。7月10日時点で一次募集を終了しており、同社の説明によれば予定の半分以上が完了しているそうだ。

出資者の詳細については現時点で完全には明らかにされておらず、過去のファンド出資者、年金基金、金融機関、政府系機関が出資に応じているとしている。出資の対象となるのはこれまでのファンドポリシーと変わらず、創業期のスタートアップが対象で、ファンド規模の拡大に伴い、プレIPO期までフォローオンが可能となった。1社あたりの出資額は最大で30億円としている。

話題のポイント:国内スタートアップ投資のTop-Tier、インキュベイトファンドがフラッグシップのファンドを更新しました。4号まではファンド総額は100億円規模で事業会社が出資者(LP/リミテッド・パートナー)の中心でしたが、今回はその倍以上の規模で、LPについても機関投資家が参加するなど、ひとつ階段を上がった形になっています。

トップティア・ファンドたち

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一気通貫の支援体制(資料提供:インキュベイトファンド)

国内で200億円以上を集める単体でのスタートアップ(未公開株)向けファンドは数多くなく、ジャフコ(ジャフコSV6・800億円)、ANRI(200億円規模)、WiL(500億円規模)、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP・400億円規模)、グローバル・ブレイン(6号・200億円)などの独立系や、コーポレートベンチャーキャピタルとしてグローバル・ブレインが運営する31VENTURES(三井不動産・300億円)、YJキャピタル(3号・200億円)などがあります。国内のスタートアップ投資が4000億円程度ということを考えるとこれらのTier1グループが果たす役割の大きさがよく分かります。

インキュベイトファンドはここに加わる形になったわけですが、やはり彼らの特徴はシード特化・共に事業を作るスタイルにあります。「First Round, Lead Position, Build Industories」というのは彼らの初号ファンドからのポリシーなのですが、とにかくシード期からリードを取り、一緒に事業を作るとという点にこだわりを持っているのが特徴です。出資先での主な実績としては大型買収が話題になったポケラボや、上場組としてSaaSの申し子Sansan(※)、GameWith、メドレーといった企業があります。※Sansanへの出資はインキュベイトファンドの前身ファンドによる投資

共同代表パートナー、村田祐介さんによれば、今回のファンドでは1社あたり最大で30億円程度の出資が可能で、これまで以上にシード期からリードインベスターとして後ろのラウンドまで対応が可能になったというお話です。シードからの支援を強調するANRIが20億円、ユニコーンファンドを標ぼうするGCPが50億円規模まで出資を可能にしているので、またひとつ選択肢が広がったと考えて良いのではないでしょうか。

3つの注目領域

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インキュベイトファンドの注目領域(資料提供:インキュベイトファンド)

ではどのような領域に投資をするのでしょうか。同じく村田さんの話では、デジタルトランスフォーメーション(DX)領域、パブリックセクターイノベーション、ディープテックの3つに注目をするそうです。DX領域はややバズワード化していますが、彼らが投資したSansanが分かりやすい事例でしょう。単なる業務のデジタル化というよりは、「名刺交換」という慣例をソーシャルに変換し、そもそも名刺のいらない世界観を目指す、といった業界構造そのものの変革を可能にするテクノロジーを指しています。

ディープテックは落合陽一氏が創業したピクシーダストテクノロジーズのように、テクロジーとサイエンスの交差点のようなテーマを取り扱う研究開発領域です。またパブリックセクターについては同じく出資先のグラファーが手掛けている行政効率化といった公共性の高いテーマを主に取り扱うそうです。

今後、こういった領域を手掛けるスタートアップを、インキュベイトファンドが運営するイベント(インキュベイトキャンプ等)や、FoF(ファンズ・オブ・ファンド)を通じて集めることになります。

年金基金が参加することの意味

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写真左から:代表パートナーの赤浦徹氏、本間真彦氏、和田圭祐氏、村田祐介氏(写真提供:インキュベイトファンド)

インキュベイトファンドは今年10周年を迎えます。10年前、ちょうど本誌がスタートアップ取材を開始した時と同じです。あの頃は忘れもしないリーマンショックや3.11などの大きな波乱があった時期です。2010年のスタートアップ投資額は700億円程度。アーリー期のスタートアップに数千万円が投じられたら大ニュースになっていた頃でした。

インキュベイトファンドはジャフコから独立した赤浦氏が立ち上げたインキュベイトキャピタルパートナーズ(1999年)をきっかけに本間氏、和田氏、村田氏という個性的なファンドパートナーを集める形で立ち上がった「合衆国」のようなファンドです。スタートアップを起業家と一緒に作り出す独特の手法は、138億円という巨額でグリーに買収されたポケラボを生み出し、赤浦氏が二人三脚で支援し続けたSansanは国内SaaSのお手本として上場を果たしています。

そんなインキュベイトファンドの新ファンド・トピックスとして今回、村田氏が感慨深く語ってくれたのが年金基金をはじめとする機関投資家のLP参加でした。

実は2015年ぐらいからGCPのファンドには年金基金をはじめとする機関投資家の参加があり、昨年大型調達を果たしたANRIについてもその傾向はありました。今回もその流れを受けたものなのですがやはり、私たちが納めている年金基金がスタートアップというハイリスク・ハイリターンの市場に流れ込んできたことの意味は大きいです。

もちろんなんとなく雰囲気で出資するほど公的機関の審査は甘くなく、この辺りの活動については、例えばJVCAとしてスタートアップ投資のパフォーマンスを評価する基準を作って公的機関とのコミュニケーションをスムーズにするなどの粘り強いやりとりが功を奏したという話です。

村田さんは国民生活にスタートアップ・エコシステムが組み込まれるきっかけになる、と表現していましたが、それだけこの分野の投資の科学が進み、公的機関におけるお墨付きをもらえた、というのは確かに感慨深いです。