ファッション提案アプリ「FACY(フェイシー)」運営、Tencent Cloud(騰訊雲)と提携——ファッション小売のOMO対応を強化へ

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Image credit: Tencent Cloud / Styler

ファッション提案 O2O サービス「FACY(フェイシー)」を運営・提供するスタイラーは31日、中国のテック大手 Tencent(騰訊)のクラウド部門である Tencent Cloud(騰訊雲)と提携したことを明らかにした。

スタイラーではこれまで FACY を O2O(online-to-offline)サービスとして、オンラインから実店舗への送客サービスという位置づけで運営してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大が、消費者の購買行動に大きな変化を与えると判断。事業全体をオンライン体験とオフライン体験をシームレスに統合した OMO(online merges with offline)支援へと進化させる。

新型コロナが加速させるファッション小売の OMO 化

ファッション EC は EC 全体の中でも大きな割合を占めるが(市場規模ベースでは全体の20%前後)、ファッションの実店舗販売に完全に取って代わることは現時点で難しい。その理由の一つは、新型コロナ後のカンファレンスやイベントがオンライン化された時の課題として、筆者が拙稿で何度か述べているセレンディピティの問題がある。

オンラインのカンファレンスやイベントで「偶然の出会い」を創出するのが難しいように、ファッション EC ではレコメンドエンジン(協調フィルタリングなど)を使ったオススメはできても、「知らなかったブランドだったが、店員が勧めてくれたので気に入って買った」というような買い物のセレンディピティを創出するのは難しいかもしれない。

Image credit: Alibaba

新型コロナウイルスが感染拡大下にあった中国では、小売店の店員が店頭にリングライトや三脚をセットアップし、ライブコマースで商品を紹介・販売する姿が各所で目立った。一般的なライブコマースアプリでは、ファッションブランドが持つ顧客向けの自社アプリなどとの連携や統合は難しいが、これを可能にするのが Tencent Cloud が提供するソリューションだ。

Tencent Cloud が提供する店舗と顧客とがスマートフォン越しに互いの顔を見ながらやりとりできる機能は、すでにサイバーエージェント子会社 Cyber Palのファンミーティングを開催できるプラットフォーム「テレライブ」や、イグニスの恋愛・婚活マッチングサービス「with」のビデオ通話サービスなどに採用されている。

スタイラーでは同社が相談を受けるファッションブランドなどに対し、OMO 実現策の一つとして Tencent Cloud が持つオンライン接客やライブコマースソリューションを紹介する。このソリューションでは、フロントエンドである顧客体験のオンライン・オフラインシームレス化のみならず、商品在庫のオンライン・オフライン販売の統合管理、複数リアル店舗間での在庫配置調整などバックエンド業務の支援も行える。

Image credit: Tencent Cloud

流行り廃りの激しいファッション業界においては、D2C ブランドの隆盛が追い討ちをかける形で、ショッピングモールではファッション店舗の出退店が激しくなっているが、Tencent Cloud のソリューションを使えば、モール内の店舗配置 CAD データを読み込むだけで、ショッピングモールの店舗案内マップ表示サイネージに反映させるような仕組みも提供可能だという。スタイラーでは協業関係にある東急不動産(東証:3289)などの協力も得て、ショッピングモールなどでの PoC を展開したい考えだ。

オンラインを主軸にした D2C ブランドが今後増えてくる。彼らの店舗は長期賃貸には馴染まない。そんな中で、店頭でのリテンションでどうやってお金を稼いでいくか、というのはショッピングモールなど施設運営側にとって大きな課題だ。

スタイラーは Tencent Cloud のソリューションなども活用しながら、主にコミュニケーションと在庫のデジタル化をやっていく。オンラインとオフラインを跨いで知見を持っているプレーヤーが日本にはいないため、この分野で圧倒的にリードしたい。(スタイラー 代表取締役 小関翼氏)

ファッション提案アプリ「FACY(フェイシー)」は、ライフスタイル版の OMO アプリへ

Image credit: Styler

スタイラーはファッションブランドに OMO ソリューションを提供するのと同時に、自社の旗艦アプリ FACY の OMO 対応を図る。2020年秋にアプリやサービスの全面リニューアルを図る予定だ。

配車アプリからスーパーアプリになった東南アジアの Grab、レストランガイドとグループ購入サイトから進化した Meituan(美団)、コロンビア発のオンデマンドデリバリ Rappi などをベンチマークしている。

これらのアプリがコモディティ層を狙っているのに対し、FACY はややミドルプライスのライフスタイルに特化した OMO を目指す。New Retail と Luxury という2つのキーワードで攻め、将来は化粧品、家具などにも領域を拡大する。(小関氏)

日本ではおそらく、LINE や楽天、決済アプリ各社などがスーパーアプリになろうとしていると思われるが、前出の Grab、Meituan、Rappi が提供可能なサービスのバリエーションには及ばない。OMO でユーザの心を捉え、提供可能なサービスのバリエーションを拡大できれば、FACY は OMO アプリからスーパーアプリに変貌できる可能性をも秘めている。

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