東南アジアのモバイル決済新星「Clik」、370万米ドルをシード調達——パイロット運用の地にカンボジアを選んだ理由とは

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Clik CEO 兼 会長の Matthew Tippetts 氏
Image credit: Clik

Matthew Tippetts 氏は、約20年前にテックバンカーとしてキャリアをスタートさせ、その後、アメリカを拠点とするヘッジファンド Citadel でポートフォリオの管理に従事した。これを機にアジアに来た彼は、すぐにユーザエクスペリエンスの点で大きなギャップがあることに気付いた。

Tippetts 氏は次のように振り返った。

オンライン空間では、多くのことが行われていなかった。加盟店を支援し、ビジネスを成長させるために、データを適切に活用するためにできることがたくさんあった。それが基本的にアイデアの始まりだった。

Tippetts 氏と彼の共同設立者らが最初に行ったことは市場調査だった。

我々は、人々がどのように決済しているのかを理解したかった。そこで、1,800社、約1,000人にインタビューを行い、人々が何をする準備ができているのか、どのようにしているのかを本当に理解することにした。

Tippetts 氏は、その時点で人々が何を使っているのか、またそこにある信頼の要因は何かを知りたかったのだ。この取り組みは最終的にカンボジアを拠点とするフィンテックスタートアップ Clik の設立につながった。

当時私が思い描いていたサービスのいくつかに彼らが興味を持っているのを見てみたかったのだが、調査の結果はポジティブなものだった。そして、Skye(チーフ・マーケティング・オフィサーの SKye Cornell 氏)とチームを作り上げることにした。

その後、3人目の共同創業者である Darren Jensen 氏と、他の共同創業者たちと出会ったが、彼らは皆、シリアルアントレプレナーかテックのプロフェッショナル、フィンテックのプロフェッショナルだった。(Tippetts 氏)

なぜカンボジアなのか

Clik 共同創業者の3人。左から:Darren Jensen 氏、Matthew Tippetts 氏、Skye Cornell 氏
Image credit: Clik

Clik はそのプラットフォームの中で、企業、加盟店、顧客向けの先進的なモバイル決済システムを構築することで、「すべての人に適した100%安全でシームレスな決済方法を提供することで、東南アジア全域にデジタルコミュニティを創造する」というビジョンを共有している。

その際に、なぜカンボジアが選ばれたのかという疑問が出てくる。

当時私がカンボジアにいたから——それは当然の理由だったが、同時に、カンボジアが新しいテクノロジーのインフラをパイロットするには最適な場所であると我々は考えた。ここでは国民の80%以上がインターネットを利用し、10ギガバイトを7~8米ドルで利用することができる。カンボジアの人々の95%がスマートフォンを持っているので、彼らはモバイル決済を行うためのツールを持っていることになる。

フィージビリティスタディを行い、カンボジアで決済をする人たちに質問をしたところ、60%近くの人たちがすでにアプリを使って決済をしていた。決済会社の1社が30%の人々のスマートフォンに搭載されていたことからも、その普及率の高さがうかがえる。(Tippetts 氏)

多くの人の考えとは対照的に、カンボジアにはかなりダイナミックなフィンテック分野が存在する。若者をターゲットにしたキャッシュレスモバイル決済プラットフォーム「Pi Pay」など、この国にはすでにかなりの数のプレイヤーが存在している。

スマートフォンを使ったタッチ決済

Image credit: Clik

Clik が構築しているエコシステムを理解するには、キャッシュレス決済を行うためのハードウェアが必要ない、そう遠くない未来を想像してみてほしい。

我々は、銀行がアプリに銀行口座をリンクできるようにしたいと考えている。そうすれば、携帯電話でタッチして決済すると、銀行口座から直接お金が引き出されるので、完全にシームレスで実用的だ。(Tippets 氏)

Tippets 氏は、Clik が今見ることができるものは、氷山の一角のようなものだと付け加えている。

このプラットフォームの目に見える部分は、加盟店がデータインサイトに関連したさまざまな作業を支援できることだ。ローヤルティプランの作成からマイクロターゲティング、メッセージングなど、すべてが顧客用アプリで利用できる。

しかし、それだけではない。例えば、アクティベーションチームが加盟店に手を差し伸べてコンバージョンを支援するための、独自の CRM やセールスフォース自動化システムの構築をするなど、社内向けに開発されたウェブアプリケーションも存在する。

また、加盟店の顧客が銀行口座をリンクし、加盟店が90秒で顧客をオンボードできる e-KYC 製品を構築した。我々は e-KYC を優先することにしたが、これは加盟店であろうが顧客であろうが、カスタマージャーニーにとって重要な部分だ。加盟店はアプリをダウンロードしてアプリに目を通すだけで、銀行が必要とするものに似て、自動化された方法で必要なすべての「Know-Your-Client」を満たすことができる。(Tippets 氏)

しかし、カンボジアでは、標準的な KYC を行うためには、対面でのチェックインが必要となる。

これに対応するために、我々はこのセールスフォース自動化ツールを使うアクティベーションチームを待機させている。彼らは加盟店のところに行き、アプリをダウンロードしてもらい、必要な情報を収集するのを手伝い、5分以内に加盟店を KYC に完全対応させられる。(Tippets 氏)

加盟店を5分以内にオンボードできるというのは、全く新しい市場を開拓するという意味で強力だ。

ローンチに先立つ資金調達とパートナーシップ

我々はこの分野での地位を確立したいと考えていたため、商用サービスのローンチを遅らせたのは異例のことだった。しかし、2,500以上の加盟店と契約を結び、金融機関との契約も結んでいる。

Clik は正式に立ち上げる前から、いくつかの投資や国際的なパートナーシップを確保している。同社はまた、シリーズ A ラウンドで資金調達を行っている。Clik の主要な投資家は、モバイル決済やクラウド決済システムの主要な投資家の1つである Openway Group だ。

創業者の Andrew Vereninov 氏に説明したところ、彼はすぐに我々が何をしているのかを理解してくれて、我々に協力するのを志願してくれた。そして、電話一本で70万米ドル近くの資金を調達することができた。(Tippets 氏)

Clik はその後、Phillip Capital のオンラインマートシステム「POEMS」からも出資を受けた。また、カンボジア国立銀行の保証付きライセンスも確保している。

早ければ10月までにはライセンスを取得できるだろう。そのため、正式なローンチに向けて、規制に関わるリスクはもはや無い。(Tippets 氏)

Clik は出資を受けたことに加え、世界的決済プロバイダ MYPINPAD の強化された PCI 準拠の決済セキュリティと、既存の決済インフラとの連携を可能にする設備を利用している。

データドリブンに特化

Clik のチーム
Image credit: Clik

最近の、そして現在調達進行中の資金は、製品のロードマップに使用される。

2020年末のローンチに向けて軌道に乗っていると仮定して、2021年前半までには、かなり多くの決済機能が追加されるだろう。まずは Visa から始めたいと考えているが、MasterCard、そしておそらく UPI と Alipay(支付宝)も追加していく。また、他のいくつかの金融機関のアカウントと連携できるようにするため、すでにいくつかの金融機関と交渉を開始している。

商用サービスのローンチ後間もなく、国際送金などの追加機能を提供する。2021年後半には、データ分析や人工知能、機械学習などのデータドリブンツールを導入し、顧客からの収益予測やローヤルティプランの最適化、マイクロキャンペーンの最適化を支援する。

さらに、隣国であるミャンマーに特許ライセンスを申請中で、年末までにはミャンマーにも事業を拡大する。(Tippets 氏)

データ決済の格差

カンボジアのフィンテック協会の会員だけでも、すでに7つの決済スタートアップが存在する。

Tippets 氏によると、カンボジアでは現在、取引の85~90%が現金で行われており、市場には約25社のモバイル決済プレイヤーが存在している。カンボジアにはかなりの数のプレイヤーが利用できるスペースがあるため、市場の成長の可能性は非常に大きいという。Tippets 氏は特に、決済とデータの断片化が激しい実店舗ビジネスについて、その可能性を指摘している。

東南アジアでは、小売決済の97%は実店舗で行われているが、オンライン店舗業界が持つデータドリブンツールを利用して、顧客をより良く理解したり、より良いサービスを提供したり、顧客のローヤルティを高めたり、リピート購入を促したり、店舗価値を高めたりするような、実店舗の加盟店を支援している企業は存在しない。(Tippets 氏)

Tippets 氏は、今後は決済アグリゲータが、これらすべての異なるプレーヤー間の相互運用性を実現し、ビジネスを成長させるための鍵になると考えている。

それが理由だ……我々は、パートナーや加盟店、顧客に多くの価値をもたらすことができるエコシステムを構築し、1日に6回、常にサービスを利用する十分な理由があるようにしたいと考えている。シームレスで実用的、超安全、どこでも使えるということだ。(Tippets 氏)

【via e27】 @e27co

【原文】

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