深刻化する「デジタル教育格差」ーー解決方法は出世払い?(後半)

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前回からの続き

皮肉なジレンマ

Image Credit:Nikihita S

前回はデジタル格差が引き起こす、宿題格差や教育進捗の問題について整理してきました。一方、その打ち手としては「行政がデジタル端末やWifiルーターを手配するなどしてネット環境を整備すればよい」といった案があります。

ただ、問題はそう簡単ではなさそうです。

Common Mediaの調査によれば、低所得者層のティーンやトゥイーン(8-12歳の子供)は、高所得者層と比較して2時間以上エンタメコンテンツに時間を消費してしまうそうです。同調査では、低所得者層のトゥイーンが平均5時間49分を毎日費やしているのに対し、高所得者層は3時間59分となっていました。数値データから推測すると、比較的低所得者層はデジタルコンテンツ中毒に陥りやすい状況が目に浮かびます。正しい使い方を学んでいないため、全く教育とは関係のない使われ方をする、という可能性を示唆しているのです。

また、FOXが伝えるところでは、低所得者が多くの時間を費やしてしまう理由として、複数デバイスを持っていないため、1つの端末(スマートフォン)に集中して長く使ってしまう傾向があるそうです。これでは遊びと学びの切り替えが環境的に難しくなります。かといって、教育コンテンツへのアクセスを増やすために端末支給をしたとしても、高所得者の利用傾向に垣間見えるような、適切な利用時間を維持すべく利用時間を自分でコントロールできるのかは未知数です。

デジタル端末利用のジレンマに陥るリスクが見え隠れしています。

新しいデジタル教育の形

Image Credit:Lambda

このように、現在浮かび上がっている市場課題は低所得者層を中心とする子供を持つ家庭が抱える3つの問題と言われています。「アクセシビリティ(教育アクセスおよび通信アクセス)」「ファイナンス(資金)」「ウェルネス(健康)」です。「イコールライツ」と「ファイナンス」を組み合わせて問題解決するアプローチはトレンドになっていて、米国では人材成長の期待値を見越して資金投資する事業が成長しています。

例えば「Lambda School」は、出世払いのコーディング学校を運営しており、約9カ月のプログラミングコースを初期費用無料で入学できます。厳しい審査基準を通れば無料で講義を受けられる代わり、卒業後に年間5万ドルの収入を上げられるようになってから、収益分配の形で授業料を徴収するモデルです。利益回収が必ずしもできるわけではないため、デッド(融資)にも当たらない、人材育成と連動するWin-Winのモデルを模索しています。

同様のモデルは、今回課題に挙げている小中高教育でも考えられるかもしれません。平等な教育機会を提供するため審査は一切設けず、デジタル端末およびブロードバンド回線費用も全て出世払いにする形が考えられます。社会人になって年間3〜5万ドル以上稼げるようになったら、年間5%程度の収益分配をしてもらうことでコストを回収する方法です。卒業後まで面倒を見ないと利益回収できませんが、逆に言えば教育機関も長く面倒を見る意識付けができるはずです。

現在では月額25ドルで高速ブロードバンド環境を張れる「Wander」なども登場してきており、年間で300ドル程度でネット環境は提供できます。パソコンを5年ほどで買い換えるとしても、3,000〜5,000ドルほどのコストで高校卒業まで利用できそうです。これであれば、小学校入学から高校卒業まで1人当たり1万ドルの費用を、Lambda Schoolのモデルで回収する試算が立ちます。仮に年間3万ドルの収入から5%を回収し続けるならば、10年かかる計算。およそ20〜30年で利益回収できる長期投資と捉えられるでしょう。

その上で、Microsoftが買収した子供向けデジタルコンテンツプラットフォーム「SuperAwesome」や、「SafeToNet」のような、デジタルウェルビーイングを確保できる健康維持の体制をセットで提供するわけです。エンタメコンテンツの消費にだけ使われる事態を避ける施策です。

このように、新しいデジタル教育の形は、人材投資という市場原理をうまく導入する形で生徒を支えたり、ソフトウェアを駆使して適切な利用環境を作るモデルになるかもしれません。そもそも義務教育を受けるために追加のコストを強いる事業モデルは批判を受けるかもしれませんが、出世払いを採用する折衷案を持たせることで市場理解を得られる可能性も出てきます。

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