マチマチの「ネオ・自治会」が変える“ご近所コミュニケーション”のあり方

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東京消防庁との提携発表。写真右がマチマチ代表取締役の六人部生馬氏(素材提供:マチマチ)

ニュースサマリ:ご近所さんのソーシャルネットワーク(SNS)「マチマチ」は9月4日、第三者割当増資の実施を公表している。引受先となったのは石川県の三谷産業、山口県のカシワバラ・コーポレーション、北海道の三和物流サービス、それと個人投資家等。調達した資金や払込日程などの詳細は非公開。この増資により、引受先となった各社と連携し、地方展開の強化を実施するほか、開発の体制を強化する。

また、同社は同日に地域防災の強化を目的とした協定を東京消防庁と締結したことも伝えている。今回の連携で東京消防庁はマチマチを活用し、防災訓練や防災知識などの情報を地域ごとに発信することが可能となる。また、台風や地震などの災害時には近隣住民同士の共助や被災状況の把握・共通などにも使われる。

東京消防庁がスタートアップと協力・提携するのは初。感染症拡大を受けて従来の対面による防災訓練が困難になる中、インターネットを中心とした情報共有のあり方を模索した結果としている。東京消防庁はこれまでにもNintendo Switchソフト「あつまれ どうぶつの森」を活用した防災情報の発信をしており、マチマチとの取り組みはそれに続くものとなる。

マチマチは2016年に開始したローカルSNS。今年9月時点で東京都の渋谷区や大阪市など29の公共機関と提携しており、子育て中の家族が地域の保育園やイベントなどの情報交換などに活用している。月間200万人が訪問・利用しており、地域情報として店舗や病院、防犯・防災などの口コミ情報が20万件登録されている。SMS認証により本人確認を実施しており、地域利用における情報の安全性を確保しているのが特徴。

Image Credit : Nextdoor

話題のポイント:感染症拡大で大きく注目されることになったのがローカル情報です。特にレストランなどの飲食店が窮地に立たされたのはご存知の通りで、来店できないケースで急ごしらえしたECも導線がなければ売りようがありません。結果、私も近隣の店舗前で声かけをしている様子を多数見かけました。

大手と異なり、オンライン化をしようにも大きな予算をかけられない場合、頼りになるのがソーシャルネットワークです。例えば私の友人が手がける店舗では、Facebookなどを活用してオンラインでの商品提供を呼びかけ、クラウドファンディングなどと合わせて拡散させるような方法を取っていました。一方、これらはインターネットに精通していなければなかなか難しいのも事実です。

そこで注目が集まるのが地域に特化したソーシャルネットワークです。最大手の米Nextdoorは、Facebookなどと異なり、地域に特化したことから防犯や防災、ローカル店舗などの情報のやり取りがあるのが特徴で、現在11カ国、25万地域で利用されています。2019年の調達情報から評価額は21億ドル以上ともされる有望株です。

では、マチマチは実際、どのような使われ方をしているのでしょうか。同社代表取締役の六人部生馬さんにお話を伺ったところ、やはり平時は子育て世代のコミュニケーションが多いというお話の一方、台風などの災害時には信頼できる近所の情報源として活用されているそうです。

「昨年に発生した台風19号などは被害も大きく、例えば多摩川が氾濫しそうになった時など、武蔵小杉方面の地域で水が溢れてきている、避難所はいっぱいだった、などのその場にいるからこそ得られる情報を共有されていました。また発生後はここでスマホの充電ができる、ホテルでお風呂を使わせてもらえるといった共助のやりとりもありましたね」。

確かにこれらはFacebookなどのソーシャルネットワークでも知人から情報を提供されるケースがあります。ただ、やはり限定的になることと、一般に溢れるソーシャルネットワークの情報には一定数の不確定情報も混在することから信頼性の面で不安が残ります。例えば今回の感染症拡大のようなケースでは、移動範囲が狭い分、地域の情報が大切になりました。マチマチでは公共施設の混雑状況、デリバリー対応の店舗、マスクなど生活物資の在庫情報など、旧来であれば町内会などが回覧板等で提供するような情報を住民同士で自然とやりとりすることに成功したのです。

マチマチで展開される自治会のデジタル化(ネオ・自治会/素材提供:マチマチ)

そして六人部さんともお話して納得感があったのが、マンションの自治会や町会のような単位がデジタルに近づいているケースです。特に首都圏では自治会が形式的になるケースも多く、私自身、感染症拡大に向き合って改めてコミュニティへの帰属の弱さと怖さを実感しました。

マチマチでは6月から店舗向けの有料会員サービスを開始したそうです。これは企業が月額費用を払うことで、地域住民の一員として効果的に情報を提供できる仕組みです。チラシなどの広告のネット置き換え、と言えばそうかもしれませんが、出稿費ではなく月額会費としている点にマチマチのポリシーを感じます。住民や自治体、そして企業がある小さなエリアで良質なコミュニケーションを取ることができれば、今回のような問題があっても協力することができます。料金は月額3万円から業種などによって変動するとのことでした。

急にやってきた非接触という難題ではありますが、これをきっかけに地域の協力体制・情報網が強化されることを期待したいです。

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