DXの型:ソフトウェア利用が前提のハードウェア提供、半自動化(1/2)

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Photo by Mike Chai from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr

DXの「型」

私たちジェネシア・ベンチャーズでは、日々世の中の普遍的なトレンドに沿った有望なビジネスモデルの発掘、支援に注力する中で、デジタルを起点に消費者体験や企業間取引を持続可能な形に昇華する「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」にも一定の「型」があることに気づき、それらを進んで蓄積してきました。

昨年11月に公開した『DXの羅針盤』では、DXビジネスの基本型として5つの型に言及しましたが、今回はその続編として、新たに4つの型を紹介したいと思います。社内で蓄積しているフレームワークを広く公開、共有することにより、DX領域で起業を志す方や大手企業の中にいながら新たなビジネスモデルの構築を志す方、はたまた投資家としてDXスタートアップへの出資や成長支援を手がける方が、皆で同じ方向を向き、ともに豊かな社会を実現していくための一助になれば幸いです。

型6:ソフトウェアの利用を前提としたハードウェアの提供(”SaaS plus a box“)

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

6つめの型は、「ソフトウェアの利用を前提としたハードウェアの提供」です。海外では”SaaS plus a box”とも表現されますが、この型の要諦は、ソフトウェアを起点に顧客との関係を構築(再構築)することにあります。

ハードウェア単体での販売の場合、顧客との関係性は単発で終わってしまいますが、ソフトウェアが顧客とのアンカーの役割を果たすことによって、顧客接点がフロー型からストック型へと変容し、コモディティー化しがちなハードウェアの消費価値を長く持続させることができます。

モノからコトへのシフトが謳われはじめて久しいですが、その本質はハードウェアがソフトウェアに100%置き換わることではなく、顧客接点のデジタル化をトリガーとして顧客の購買対象が機能から体験へと変わることに他なりません。 iOSとAppStoreを起点に携帯電話やオーディオプレイヤー、デジタル時計の利用価値を再構築したAppleはこの型の代表例と言えますが、他にもオンラインレッスン/コミュニティーSaaSを起点にエアロバイクを提供販売するPelotonや、自家用車の消費体験をモバイルアプリ+付帯サービスでアップデートするNIOなど、顧客の体験価値を戦略の軸に据えて大きく成長する新興プレイヤーが増えています。

私たちの支援先では、モバイルアプリ/オンラインコミュニティーに生育管理機器を組み合わせて都市型マイクロファーミング事業を展開するプランティオも、その新たな体験価値が多くのユーザーに受け容れられています。

型7:半自動

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

 7番目の型は、「半自動」です。デジタルとアナログの間、完全自動と完全マニュアルの間とも言えますが、これまで相反するものとして棲み分けが行われていたソフトウェアや機械による自動化(例:金融のアルゴリズムトレーディングや広告のリアルタイムビッディング)と人的なオペレーション(例:接客や配送をはじめとする現場産業)の二者が、互いの良いところを取り合って折衷型を成すケースが増えています。

これまでも、労働力不足という国家的・長期的な課題を背景に多くの企業が機械化、自動化を推進してきましたが、ここ数年のSaaSの導入普及によって業務効率化のハードルが下がっていること、また20-30代の若年層を中心にウェブ業界から既存産業へ、あるいは反対に既存産業からウェブ業界へとクロスボーダーの人材流動化が進み始めています。

これに伴い、産業間のノウハウ移転や共有が始まっていることなどを主な背景として、デジタルとアナログ双方のメリット・デメリットを理解した上で最適な組み合わせを選んで滑らかなオペレーションを敷ける素地が産業全体で整ってきているように感じます。

とりわけ、クロステック(既存産業×IT)領域のスタートアップを含む新規事業においてはこの型が重視されます。というのも、複雑なオペレーションが絡む業界課題を解いていく上で完全自動のアプローチはそもそもオプションから外れる上、仮に物理的な供給能力の調達ができたとしても、その過程に介在する属人的なオペレーションを解消できなければスケーラブルな事業成長は可能にならないからです。

では半自動を実現するにあたって何が必要かと言えば、全体の工程を分割可能な最小単位まで丁寧に分解し、自動化しやすい工程から順に効率化した上で再度工程間を紡ぎ合わせて全体最適を担保すること、これに尽きると思います。

私たちの支援先では、インドネシアにおいて運送業者とドライバーのマッチングプラットフォームを提供するLogislyがこの型を磨き込んで事業を大きく伸ばしていますし、日本でデスクワーカーのワークフロー最適化に取り組むBizteXも、祖業のRPA(=完全自動)単体では実現し得ない(一方で顧客の本質的な目的である)ワークフローの最適化という課題を解くべく新たに開始したiPaaS事業において、半自動のエッセンスをプロダクトに織り込んで成長を遂げています。(次につづく)

関連リンク:DXの型 #6-9 | DX-Compass by Genesia.

関連リンク:成長企業が押さえるべきDX「5つの型」ーーデジタルトランスフォーメーション【DXの羅針盤】

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