キャッシュレス経済への移行を進めるカンボジアフィンテック市場

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Image Credit: Cambodia Central Bank

ピックアップ:Financial Technology in Cambodia

ニュースサマリー:カンボジア国立銀行(NBC)が2020年に発表したデータによれば、カンボジアにおけるフィンテックサービスのニーズと実際の供給には約240億ドルのギャップが生じているそうだ。また、総人口1,600万人の内450万人はFacebookアカウントを所持しているとのデータも明らかにしており、テクノロジーを活用したサービスの利用が期待されている。

重要なポイント:カンボジアでは2018年頃からキャッシュレス決済の利用が増え始め、現在では50社以上の決済会社がキャッシュレスサービスを展開しているといわれているが、未だトッププレーヤーと呼ばれるほどに成長した企業は出てきていない。 そんな中、現在のカンボジア市場に注目し参入に意欲を見せる新興フィンテック企業もあれば、NBCが推進するプロジェクトが前進するなど、今年に入り新たな動きが出てきている。

詳細な情報:カンボジア市場は2019年半ばまでで既に50社以上のキャッシュレス決済サービスが存在しているといわれている。2017年からの約2年で5~10倍に増加した。

  • 代表的なサービスとしては Pi PayTrue MoneySmartLuy Mobile MoneyWing MoneyBongloySabay Wallet などが挙げられるが、ユーザー数やサービス内容で突出した企業はまだ出てきていない。そのためカンボジアのキャッシュレス決済市場に注目する企業もまだ多い。今年だけを見ても、海外から参入した2社が直近3カ月以内に資金調達を行っている。
  • Fincyシンガポールを拠点とする同社はブロックチェーンを利用した支払い、振替、給与計算などを行える高機能デジタルウォレットの提供を実施する。2020年1月にカンボジア市場へ参入し、直後に新型コロナウイルスの影響を受けることとなったが、既にプノンペンだけでも600以上の加盟店を獲得し同社の予想を上回るペースでの成長を遂げている。現在は同社が「長引くバンデミック下でもビジネスと投資環境は依然として活気がある」と評価するカンボジア南部の都市シアヌークビルでの事業展開に注力している。 2020年6月12日にカンボジアを始めとする東南アジアでの事業拡大のために、親会社であるGBCI Ventures Pte Ltdから1,100万ドルの資金調達を行った。
  • Clikカンボジアのキャッシュレス決済市場に注目するMatthew Tippetts氏が、他2名と共同創業したスタートアップ。今年8月にシードラウンドで370万ドルの資金調達を行い、2020年末までにカンボジア国内でのサービスローンチを予定。銀行口座と紐付けた決済アプリを利用し、シームレスなタッチ決済サービスの展開を予定している。しかし、カンボジアの銀行ではKYCは対面で行なう事が前提になっているという問題に直面し、サービスローンチに先立ちe-KYCの導入・構築にも力を入れている。
  • 参考記事:東南アジアのモバイル決済新星「Clik」、370万米ドルをシード調達——パイロット運用の地にカンボジアを選んだ理由とは
  • また、NBCもデジタル決済プロジェクトを推進している。Project Bakong:NBCによって2017年に始動したブロックチェーン基盤のP2Pデジタル決済システムProject Bakong。今年6月18日にホワイトペーパーを発行している。CBDC(中央銀行デジタル通貨)の準形式であり、QRコードとモバイルアプリを使用した決済システムによって金融包摂の推進を目指している。また、非効率的な決済システムを改善、銀行サービス利用への道を開くことで貧困を緩和するといった、プロジェクトの目的がホワイトペーパーに記載されている。 ※本プロジェクトの開発には日本のブロックチェーン企業ソラミツが参加している。

背景:カンボジアは人口に対するインターネットカバー率が既に80%近くに達し、データ通信量は10GBで7〜8ドル程度と比較的安価な現状だ。そのため、 スマートフォン所持率は2016年時点で95%と言われている。VISAが公開したデータによれば、国民の約3割がキャッシュレス決済の普及に期待していると回答し、キャッシュレス経済へと移行する環境は既に整いつつあるように思える。また、NBCが6月に発表したデータによると、昨年カンボジア国内でアクティブな電子決済アカウントの数は522万件に達し2018年から64%増加していることが分かる。銀行と決済サービス機関を介したモバイル決済取引額は、2019年のGDPにおける22.9%に相当したとする。

カンボジアでデジタル決済が推進される背景には、他の新興国同様の金融包摂の推進という目的以外にも、長年の米ドル経済から脱却し現地通貨リエルの流通を促進させる狙いもある。

執筆:椛澤かおり/編集:岩切絹代・増渕大志

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