新進気鋭の起業家が大物キャピタリストとアイデアを磨きあげる合宿イベント「Incubate Camp 13th」が開催

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2〜3日の2日間、スタートアップへの投資・育成事業を行うインキュベイトファンドが開催する起業家と投資家の合同合宿「Incubate Camp 13th」が 、千葉県内のホテルで開催された。今回はコロナ禍でのイベント開催となったため、登壇者・メンターをはじめとする参加者は、マスクやフェイスシールドの着用を求められた。

Incubate Camp の参加対象となるのは、シードラウンドでの調達を求めているスタートアップに加え、すでにサービスをリリース済で、追加の資金調達やサポートを希望するスタートアップだ。2日間にわたって、スタートアップ16社をインキュベイトファンドの代表パートナー2名、14名のゲストベンチャーキャピタリストがメンタリング。2日目には、審査員8名を交えたプレゼンテーションが実施された。

入賞の是非とは別に、参加スタートアップはゲストベンチャーキャピタリストから投資を受けられる可能性があるほか、スポンサー各社からはウェブサービスの無料利用権など特典が進呈される。審査員らからは、いくつかのスタートアップに将来性を認められたとの声も上がっていたので、今回の Incubate Camp を経て、新たにいくつかの出資が実施されることになるだろう。

本稿においては、プレゼンテーションで披露されたサービスの概要についてお伝えしたい。個々のサービスの背景や詳細などについては、随時 BRIDGE で取材を進めていく予定だ。

Incubate Camp 13th のプレゼンテーションで審査員を務めたのは、

  • DBJ キャピタル 内山春彦氏
  • グロービス・キャピタル ・パートナーズ 仮屋薗聡一氏
  • 三井住友銀行 齋藤健太郎氏
  • W ventures 新和博氏
  • 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ 中野慎三氏
  • WiL 松本真尚氏
  • インキュベイトファンド 和田圭祐氏
  • インキュベイトファンド 村田祐介氏

…の皆さん。司会は、インキュベイトファンド アソシエイトの種市亮氏が務めた。

総合順位(2日目のピッチのみによる評価)

【総合順位1位】Loglass by Loglass(スポンサー賞も受賞)

(メンタリング担当:Spiral Capital 千葉貴史氏)

Loglass」は一般的に企業が経営管理として必要とする予算策定や予実管理などの業務を効率化してくれるクラウドサービス。従来、部署ごとに表計算ソフトや独自に開発したシステムなどで管理していた数値を一元管理し、関係者に必要な閲覧権限を与えて共有することができる。また、財務会計ソフトや販売管理、経費精算等の外部サービスとの連携も積極的に取り組むとしている。

今年4月にクローズドテストを開始し10社以上の有償利用が進んでいる。今回調達した資金で取り込み可能なデータ属性の拡張や分析機能の提供など、機能強化を進めるほか、開発・営業人員の獲得に充てる予定。

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【総合順位2位】KiteRa(ベストグロース賞1位タイも受賞)

(メンタリング担当:XTech Ventures 手嶋浩己氏)

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、企業は在宅勤務制度の整備や労働環境の変更を余儀なくされているが、これを実施するのに引いつようとなるのが就労規則の変更だ。就労規則の作成や変更は、労働基本法や過去の判例に基づく必要があるなど煩雑であるため、これまで社内外の社会保険労務士(社労士)に依頼するのが一般的。

社労士業務のうち社会保険手続をはじめとする1号業務は、SmartHR など SaaS を活用することで省力化が図れるようになったが、就業規則の作成や変更など2号業務にそのようなプレーヤーがおらず、社労士が自ら煩雑な作業をする必要がある。「KiteRa」は設問に答えるだけで就労規則を作成・編集管理できる社労士向け業務効率化 SaaS だ。半年で161社が導入、受注率66%と高成績を誇る。

【総合順位3位】Agently by TERASS(ベストグロース賞3位、審査員賞も受賞)

(メンタリング担当:グロービス・キャピタル・パートナーズ 今野穣氏)

日本には不動産業が32.1万社あり、1社あたりの平均社員数は3.3人。小規模多業社な業界であり、コストの平均半分以上を固定費が占めるため、労働生産性を低くしている要因となっている。「Agently」 は不動産売買仲介に関わるバックエンド業務をサポートし、不動産エージェントが〝一人会社〟であっても効率よく働けるようにするうバーチャル・ブローカレッジ・プラットフォームだ。

TERASS は自ら社員を抱えるのではなく、不動産エージェントとは個人事業主または副業で事業を営む人と業務委託で契約する。エージェントには仲介業務に集中してもらい、物件情報の抽出、広告作成や掲載、契約書の作成や捺印などを TERASS が代行。TERASS は雇用リスクを負わずスリムな経営が可能なので、不動産エージェントには仲介手数料の75%という高率でレベニューシェアする。

【総合順位4位タイ】 Sportip Pro & Sportip Meet by Sportip(ベストグロース賞1位タイも受賞)

(メンタリング担当:UTEC 郷治友孝氏)

Sportip は筑波大学発のスタートアップで、整体師・トレーナー向け AI 解析アプリ「Sportip Pro」を開発している。また、Sportip Pro で培った解析技術を応用し、一般ユーザ向けに個人の身体や姿勢の状態をチェックし、AI が最適なトレーニングメニューを提案してくれるサービス「Sportip Meet」を開発している。

ユーザは Sportip Pro を使う整体師やトレーナーからオフライン体験を、Sportip Meet を通じてオンライン体験を得られる。Sportip Pro は6月にリリース、事業者123社・エンドユーザ4,523人利用し、解析データは2万件を超えた。メニューとしては、トレーニング、ストレッチ、ヨガなどがあり、フィットネスジム大手、パーソナルトレーナー、整体師、理学療法士などを通じて提供。

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【総合順位4位タイ】KiZUKAI by KiZUKAI

(メンタリング担当:セプテーニ・ホールディングス 佐藤光紀氏)

KiZUKAI」は、主にサブスクリプションサービスを手掛けるサービス提供者向けにLTV(顧客生涯価値・ライフタイムバリュー)や解約率を改善させるための専用サービス。CSV で企業が持つ顧客情報を登録すると、独自のアルゴリズムにより解約の可能性が高い顧客を解析して割り出してくれる。従来、このような顧客解析にかかっていた時間を短縮できるのが特徴。

対象顧客に対して適切な対応をすることで解約率の改善に取り組むことができるとしており、2019年12月のサービス提供開始以来、大手など含む企業に導入を進めており解約率を15%以上改善した例もある。

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LexxHard by LexxPluss

(メンタリング担当:iSGS イベストメントワークス 五嶋一人氏)

物流センターにおける搬入ロボットには、従来からある磁気誘導型(AGV)と近年導入が増えつつある自動走行型(AMR)が存在する。AGV は現場の床面にテープを貼る必要があり、運用する中で剥がれたり損傷したりして貼り直す運用が発生する上、柔軟な運用には限界がある。また、AMR は高機能であるが、技術的な複雑性から現場導入のコストが高くなる傾向がある。

LexxPluss は、特殊なカメラを使って多種多様な情報をリアルタイムで測定しながらシナリオベース制御システムで運用できる「ビジュアルベース自動走行モード(次世代 AGV)」を開発。ロボットに AMR と共に実装することで、現場ニーズに合わせ30種類以上の多様な制御が可能になる。Robot as a Service として、3PL(third-party logistics)事業者への導入を目指す。

PORTAS CLOUD by park&port

(メンタリング担当:B Dash Ventures 西田隆一氏)

製品の商流、特にアパレル業界においては、対面での商談、カタログを使った商品の案内、紙ベースでの注文などアナログでのやり取りが多く、営業情報も属人的になりがち。一方で、B2B においてはデジタル化の流れは不可避であり、新型コロナウイルス感染拡大はこの波に拍車をかけている。

PORTAS CLOUD」は、展示会を起点とするアパレル B2B に特化した SaaS。メーカーが出展したい商品を展示会に紐付け、招待したいバイヤーを紐づけることで、簡単にオンライン展示会を開催できる。注文機能を備えており、通常のオフライン展示会との併用も可能で、注文集計もワンクリック。ローンチから5ヶ月間で、メーカー複数社がサービスを利用している。

YAGO by YAGO

(メンタリング担当:Incubate Fund 赤浦徹氏)

小規模事業者が EC を運営する場合、従来は EC プラットフォームに依存していたが、いわゆるノーコード・ローコードに対応したサービスの普及により、個性のある EC 店舗を自前で開設する傾向にある。オンライン集客や CRM などの施策も自前でできるようになったからだ。一方、ヨガやジムなど無形サービスの提供者は、予約などを依然としてプラットフォームに依存することが多い。

YAGO」は無形サービスの提供者に特化して、予約・決済に加え、動画配信や顧客などクロスセルやエンゲージメントを一気通貫で提供するサービスだ。まずは、ヨガのインストラクターにオンラインヨガを提供するためのメニューを用意し、専属のコンサルティングサービスを含めた導入支援・集客支援を行う。同社はこれまでに MVP をシェアスペースオーナーに提供しテストしたことがある。

Precal by Precal

(メンタリング担当:グローバル・ブレイン 立岡恵介氏)

全国に6万店舗ある処方箋薬局はの最大の事務作業が処方箋の入力業務だ。処方箋は複雑で入力項目が40以上。フォーマットが病院によってバラバラであるため、これが OCR による自動化が進まない原因の一つとなっている。また、服用方法などの入力方法は薬局によって異なり、300種類以上に上る。薬の変更(ジェネリック対応)、調剤方法の指定、加算算定ではデータの加工も必要になる。

処方箋の入力業務は薬剤師以外が行っても構わないが薬剤師が行っているのが現状で、これが薬剤師の労働負荷増・生産性低下を招く。「プレカル」を使えば、薬局では患者から受け取った処方箋をスキャンしプレカルに送信。プレカルでは OCR で入力内容を読み取り、さらに担当者がそれを補正しデータの形にして最短数十秒で薬局に戻す。将来は医療ビッグデータプラットフォーマーを目指す。

Smapo

(メンタリング担当:KVP 長野泰和氏)

オフライン運用型コミュニケーションプラットフォーム「Smapo」を開発。事業内容とピッチ内容は、ステルスのため非公開。

I’mbesideyou by I’mbesideyou

(メンタリング担当:Bonds Investment Group 野内敦氏)

コロナ禍で Zoom を使ったテレカンが状態化する中、画面共有をしながらプレゼンテーションしていると聞き手の顔がほとんど見えず、反応がわかりにくいのは、まさにコロナ時代の新たなペインと言える。I’mbesideyou は、Zoom 連携により、オンラインで参加している人々の集中度、喜怒哀楽、誹謗中傷の無い場を提供できているか、などを見える化できるマルチモーダル AI を開発。

一回のテレカンでの見える化のみならず、動画が蓄積することで参加者を顔単位でグルーピング(顔寄せ)ができるので、例えば、ある人物が時系列を追って、どのように反応が変化しているかのカルテを作成することができる。オンライン教育サービスで、運営者による品質向上努力や受講者の満足度確認の計測に役立てることができる。すでに特許を11件出願中で、年内に50件の出願を目指す。

FastLabel by N.Code

(メンタリング担当:ジェネシア・ベンチャーズ 田島聡一氏)

AI 市場は今後7年間で約10倍に成長すると言われ、AI に必要となる教師データも急増しているが、実際には多くの AI 実用化の失敗事例が報告され、その6割はデータの不足によるものと見られる。AI もまた、これまでの汎用的なものから、医療画像への応用など、より用途に特化した難易度の高いものへと変化しており、AI 開発は教師データ作成に多くのリソースが費やされるようになる。

N.Code が開発する「FastLabel」は、教師データをスピーディーに作成し、それをディプロイするだけで AI アプリが作成できる SaaS だ。まずは教師データ作成から着手、将来は、ディープラーニングなどのモデル選択、ディプロイ、フル自動化までを一気通貫で提供できる AI 開発 プラットフォームを目指す。

Pricing Sprint by Pricing Studio(旧社名:Best path Partners)

(メンタリング担当:YJ キャピタル 堀新一郎氏)

長期的に見て、有名企業がサービスやプロダクトを値上げしても顧客がそれを受け入れられているのは、プライシング戦略が成功しているためだ。この背景には、1. 原価とか競合ではなくバリューベースの価格設定ができていること、2. 適切なアンケート調査ができていること、3. 適切なタイミングで価格変更ができていることなどがある。

しかし、プライシング戦略にはその専門性から人材が不足しており、有名企業の3分の2以上はプライシングの専門ファームに分析を依頼している。「Pricing Sprint」は、データ収集から価格分析までできる SaaS だ。顧客の支払意欲を特定可能な分析モデルを採用しており、価格変更で大幅な需要変動が起こるポイントを計算でき、価格変更のシミュレーションで PDCA を回すことも可能だ。

Workyspace by Worky

(メンタリング担当:Incubate Fund 本間真彦氏)

Workyspace」は、コロナ禍でリモートワークが増える中、チームのパフォーマンス低下を防ぐプラットフォーム。リアルのオフィス環境では社員同士、仕事に直結する意識的なコミュニケーションと、仕事には直結しないもの無意識のコミュニケーションが存在するが、リモートワークでは後者が欠落しがち。気軽に質問できない、新しい人間関係を構築できないなどの弊害を生じる。

Workyspace は、この無意識なコミュニケーション(雑談・偶発的な会話など)をビデオチャットを使って補う。具体的には、その人のところへ行って話しかけられる、集中している時間は同僚にその状況を知らせ話しかけられることを避ける、などの機能を実装。今後、勤怠連携、作業レポートなどの機能を追加予定。来年に30社の有料利用を目指す。

Knowns by Knowns

(メンタリング担当:STRIVE 堤達生氏)

企業は日夜行うリサーチはコストが高く、時間がかかり、リサーチそのものが難しい。その理由は、リサーチデータの取得プロセスに多くの人件費が必要となり、しかもそのデータがリサーチ後に捨てられてしまっているからだ。互いに差し障りの無いリサーチデータを複数企業間で共有し、それを各社が共有しない自社独自のデータと組み合わせられれば、リサーチはより安価で効率的になる。

昨年、企業の複数部署間でリサーチを統合できるプラットフォームを運営する Qualtrics が SAP に80億米ドルで買収された。Knowns では Qualtrics をベンチマークしつつ、日本市場に合ったリサーチ統合プラットフォームを12月にローンチする予定。Knowns で取得したデータは 0 Party Data(ユーザが能動的に企業に対して意図的に提供するデータ)にも変換可能とのこと。

aiPass by CUICIN

(メンタリング担当:サイバーエージェント・キャピタル 近藤裕文氏)

宿泊施設ではオペレーションの効率化が課題だが、その足かせの一つとなっているのが利用されているシステムの多さだ。例えば、あるホテルではベンダー15社・14システムが利用されていたという。このシステムの多さが宿泊業界の非効率、コスト高、レガシーさを招いていると考えた CUICIN は、宿泊施設の一連のオペレーションを単一 SaaS「aiPass」で一気通貫に処理できる仕組みを目指す。

宿泊施設ではレセプションでのチェックインでは宿泊客が紙に記入することが多い。このため、従業員1人あたり5.6時間/日、宿泊客1組あたり15分がチェックインに費やされている。そこで、CUICIN ではスマートフォンで事前チェックイン→チェックアウトできる仕組みを開発した。aiPass の基礎機能とは別に、ホテル毎に求められる追加機能を他システムと連携する API としてカスタマイズ開発する。

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キャピタリスト賞(起業家がメンターのキャピタリストを評価)

キャピタリスト賞1位:グローバル・ブレイン 立岡恵介氏
キャピタリスト賞第2位:YJ キャピタル 堀新一郎氏
キャピタリスト賞第3位タイ:STRIVE 堤達生氏
キャピタリスト賞第3位タイ:Incubate Fund 赤浦徹氏
キャピタリスト賞第3位タイ:Bonds Investment Group 野内敦氏

Incubate Camp は2010年から通算で12回開催され(今回を入れ13回)、220名超を選出している。他のファンドからの調達も含めた、これまでの Incubate Camp 出身スタートアップの資金調達合計額は270億円以上に達していて、参加起業家のうち2社が IPO、18社が M&A によりイグジットしている。

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