期待高まる「スマート農業」の要諦と「新たなビジネスチャンス」

SHARE:
Photo by freestocks.org from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社の鈴木祐介氏・松尾壮昌氏が共同執筆した。

一次産業のデジタル化は市場も大きい分、取り組みの範囲も広い。

例えば「屋内農業」に絞って紐解くと、2017年のグローバル市場は1,066億ドルであったとのデータがある。2026年には1,700億ドル規模と予測されおり、年平均成長率でみれば5%以上だそうだ。この屋内農業市場は栽培品種の生育メカニズム最適化や、ロボットやAI画像認識を活用した技術革新が起こっているため注目が集まっている、いわゆる「スマート農業」の領域だ。高額な初期投資や作目品種が限られる一方、収穫不足や気候変動問題に対処できることから、近い将来の成長機会が期待されている。

では、国内ではどういうステップになるのだろうか。

グローバル・ブレインでは農林中央金庫と共同で農林中金イノベーション投資事業有限責任組合(以下、NCIF)を運営しており、直近だと7月には農業用機械の運転支援アプリ「AgriBus-Navi」を運営する農業情報設計社への出資も実施している。本稿では、それら知見から国内におけるアグリテック・スマート農業の俯瞰を試みたい。

農業の課題とスマート農業が目指す世界

この領域における主要な課題は大きく「人手不足」と「効率性」の2つに集約される。

農林水産省が公表した資料によると、1995年に414万人いた農業就業人口は20年経過した2015年には210万人と激減している。技術革新による課題解決が待ったなしの状況で期待されるのが「スマート農業」なのだ。

スマート農業では生産の自動化、生産から販売までのサプライチェーンに関わるデータ活用などがテーマとしてある。例えば生産に関するデータが細かく揃っていれば、熟練した生産者と同様に誰でも農作物を作ることができるようになる。さらにこの世界が一歩進んで生産の予測ができれば、保険や融資など金融商品の展開も広がる。革新のポイントはデータとデバイス、そしてギグワーカーなど社会的な経済構造の変化にある。では、それぞれケーススタディを元に紐解いてみたい。

農業を自動化する「次の狙い」

農業は耕うん整地や種まきから始まり耕作、生育、収穫とワークフローが流れていく。その後、出荷、消費と繋がるわけだが、それぞれに効率化できるポイントがある。例えば生育管理のところで言うとIoTデバイスを使って日照条件や温度、土壌の水分条件などの外部条件を取得する事例が増えている。また、テラスマイル社のように、異なるデバイスから取得したデータを統合的・横断的に見える化することで、営農・経営に役立てるサービスも登場している。

農薬の散布も重要だ。

出資先の農業情報設計社ではAgriBusシリーズを展開

トラクターの自動操舵を開発する農業情報設計社はGPS/GNSSを活用して耕うん、播種や農薬の散布を効率化する。汎用的なAndroidアプリとトラクターに後付けできるGPS/GNSS装置により、精度高く運転経路を記録できるため重複なく耕うん、播種や農薬の散布ができる。また、当社の自動操舵機器を組み合わせることで指定した運転経路通りに運転する自動操舵も可能となる。

収穫も自動化の波がやってきている。

「Root AI」が開発する農作物のピッキングロボット「Virgo」は、様々な種類の農作物を認識して収穫するため汎用性が高く、人手不足解消が期待されている。それ以外にも、国内外で汎用性を狙った野菜や果樹の自動収穫の試みが進み、注目を集めている。このように生産のワークフローが自動化されると、課題であった人手不足と効率性の問題が解決に向かうと同時に副次的な効果が生まれてくる。

それがデータだ。

耕作・生育・収穫までの一連の流れがスマート化すれば、出荷タイミングや、収益量や生産物の品質の予測が現実味を帯びてくる。農作物の量や品質の予測ができれば、農作物に対する保険の在り方が変わる可能性もはらむ。また、より良い質や量をもたらす土地の傾向が見えれば、農地としての担保価値算定にも影響が出るかもしれない。農業を取り巻く事業環境を大きく変える余地を内包するデータの取得に、各企業が取り組み出している。

都市型農業の可能性と壁

農業をデジタル化することで、生産販売だけでなく金融など別のビジネスモデルの可能性が見えてくることについて整理してみた。そこでもう一つ、やや消費に近い観点で「都市型農業」の件についても少しだけ触れてみたい。

そもそも海外ではスマート農業は都市部で行われることが多い。先述したロボットやAI技術の確立により、都市部の限られたスペースと水資源を最大限活用できるためだ。無農薬作物を計画的に栽培できる。

例えば4億ドル以上を調達している「Plenty」は、一度に大量の農作物を栽培できる垂直農業を展開している。高層建築物内での栽培が可能で、土地の少ない都市部での農業を提案している。他にも「AeroFarms」「Bowery」「infarm」などが代表的だ。

都市部でのスマート農業は、生鮮食品配達市場と密接な関連性を持つ。従来の宅配網で配達される食料品は新鮮さに欠けるが、都市部で効率的に農作物を栽培・出荷できるのならば、鮮度を維持したまま配達できる。生鮮食品のECは感染症拡大の問題もあって大きく進んだトレンドのひとつだ。

フードマイレージの削減や環境負荷軽減といった文脈でも、こうした都市型農業への期待は広がっている。しかし日本では、フードマイレージ等への意識は欧州と比べ、まだ醸成途上にあるのではないか。更に都市型農業には、別の大きな壁も存在している。それが土地の価格だ。そのため、都市部の事例では企業保有遊休地の活用などが主流だろう。更に、施設への初期費用と運営コストが、最終の消費価格に転嫁される。コスト抑制、品質と売価確保のバランスが、ビジネス上は非常に重要となる。

昨今の野菜の価格高騰などをみていると、環境に影響されない安定供給性には魅力がある一方、都市型農業や植物工場を考える際は、QCD、すなわち品質、コスト(売価)、安定供給の問題をどう解決するか、そこにかかっている。

少人数でも生産を可能にし、新たなデータという武器を与えてくれるのがスマート農業の強みだ。AIの進化によりデータ活用のユースケースが増えてきたのも追い風に感じる。農業に関わる方々のデジタル理解度も進む中、ゆっくりとキャズム超えのタイミングを待っているのが今の国内状況ではないだろうか。