街とクラウドファンディングの関係、渋谷はなぜ4,289(シブヤク)万円を集めたのか Vol.2

CAMPFIRE代表取締役 家入一真氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

渋谷がクラウドファンディングをしていたのをご存知だろうか。7月に4,289(シブヤク)万円を集めることを目標にプロジェクトが開始し、1,300人以上から4,500万円近くを集めて無事、成功している。

でも一体なぜ。

確かにコロナ禍は渋谷の街を直撃した。外出自粛が続いた49日間、人でごった返していた渋谷スクランブル交差点は、いつの間にか「人がいない」ことを伝えるシンボルに変化した。それでも、だ。渋谷は日本を代表する街であり、若者を中心とするカルチャーの震源地になっている。これは変わらない事実だ。その街がなぜ人々から支援を集めなければならなかったのだろう?

街とクラウドファンディングの関係

国内における街とクラウドファンディングの関係は意外と古い。きっかけは2011年の東日本大震災だ。どうしようもないほど甚大な被害をもたらした震災は、互助の仕組みを必要とした。まだ産声を上げたばかりのクラウドファンディングや寄付のサービス事業者たちはこの事態に向き合い、持てる力を振り絞った。あれから約10年。それ以降も巻き起こる数々の災害に対し、クラウドファンディングは支援の輪を広げる手助けをした。

地域の経済活動にも一役買っている。思い出すのは2017年に始まった別府市の「湯〜園地」プロジェクトだ。“遊べる温泉都市構想”として配信されたYouTube動画が「100万再生を突破したらこの計画を実行に移す」と市長が宣言したところ、あっという間にその目標を達成。一方で、税金を投入するかどうかは判断が分かれる。そこで生まれたアイデアがクラウドファンディングの活用だった。結果、このプロジェクトは目標金額1,000万円を大きく超える3,400万円を3,600人以上から集めることとなった。

災害も街の活性化も共通しているのは街やそこにいる人たちが課題を抱えている、という事実だ。では、渋谷は何が問題だったのだろう。

渋谷が抱えていた課題

YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング

「元々、地方の課題に対してクラウドファンディングで何かできないかと考えていて、47都道府県回りましたし、しっかりと考えてきました。ただ、東京はというともちろん軽視したことはなかったのだけど、目を向けることが出来ていなかった。そもそも地域活性化って、どこかの土地の成功事例をコピペだけしても決して上手くいかない、その地域地域で地に足をつけて生きる方々の足下にこそ、宝の原石があるのだと思っています。そう思っている僕たちが、オフィスのある渋谷に目を向けられてなかった」(家入氏)。

渋谷でクラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がった背景を訊かれ、こう振り返るのはCAMPFIRE代表取締役の家入一真氏だ。今回の話は何も感染症拡大だけが要因だったわけではない。

実は渋谷には元々「人が集まりすぎる」という問題があった。ビジネスや観光でこの街を訪れる人たちの数は1日約300万人。もちろんやってきた人たちはここで買い物をしたり楽しんだりしてお金を落とす。これが税金となって渋谷の街に還元される・・・となればよいのだが、実際はそうではない。大きな割合を占める法人税は区の歳入に含まれないため、いわゆる区民の税金によってこの巨大な街を運営しなければならないのだ。1日300万人が訪れる街を23万人の区民が支える。あきらかにアンバランスだ。

そしてそこにコロナ禍が直撃した。ライブハウスには人が入れなくなり、ファッションを買い求める客で賑わったショップからは人気が消えた。周辺の飲食店には人が回遊しなくなった。渋谷を形作っていたカルチャーが壊れれば、戻すのはそう簡単ではない。

「渋谷区長の長谷部(健)さんにお会いして。やはり民間からいらっしゃってる方なので、民間の知恵というのかな、それをお持ちでした。スタートアップや大企業が集まることでこの問題に立ち向かえる。クラウドファンディングを使ってストーリーを生み出す、それが狙いでした。渋谷って日本のカルチャーを牽引してきた存在だったので、そこがもう一回カッコ良くなるって仰っていて。すごくいいなと」(家入氏)。

資金はもちろん使い道があるのだが、やはりそれ以上にこのキャンペーンを通じて渋谷の課題を知り、一緒にアクションを起こしてくれる企業やアーティスト、スタートアップたちが集まったことの意味の方が大きいだろう。実際、渋谷区や渋谷区商店会連合会、渋谷区観光協会、渋谷未来デザインが協力して立ち上げた「YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング 実行委員会」にはKDDIをはじめ、多くの企業が参加することとなった。

一見すると健康そうな都市も課題を抱える。クラウドファンディングという仕組みはこういった課題を見つけ出し、人や企業に伝え、共創の環境を生み出してくれる。今、渋谷の街は人出が戻りつつあるが、もしまた新たな課題にぶつかっても、一緒に課題を解決してくれる仲間がいれば必ず道は見つかるだろう。

裸になってみる

家入氏がこれまでやってきたこと、それは小さな力をインターネットで集めて、新しい繋がりと幸せを生み出すことだ。時にサーバーだったり、手のひらのコマースだったり、場合によってはリアルなカフェだったりした。カタチは違えど、根っこにあるのは同じ匂いがする。そして彼はいつも誰かと共に何かを創り出す。インタビューの最後、家入氏はその理由についてこう話してくれた。

「一人だとアイデアも何もでてこないんですよね。一人でいると本当に天井のシミをみて1日終わるんですよ。アイデアも自分の中から湧き出てくる、なんてことは全くなくて、人と対話する中で生まれてくる。違う業界の人と話をするのが好きで、昨年も少年院の視察をしてきたり。そういう「自分と違う課題」を目の前にたくさん並べて、そこに自分がやってきたことを切り口にしてみるとアイデアが出るんですよね。よく「身近な人の顔を思い浮かべて、手紙を書くようにサービスを作ろう」というお話を社内でするんですが、その人の顔を思い浮かべて、ああ、こういうことに困ってる人がいるんだなと思って作ると、答えって見えてくるんじゃないでしょうか。

大企業とスタートアップのコラボによる共創、オープンイノベーションなども近い話だと思っています。それぞれが見えている課題や、出来ること、得意なことがあって、それを共創する形で解決する。新しいプロダクトを生み出す。ただ、大企業の場合、どうしても看板を背負ってやってきてしまう場合が多いじゃないですか。そういう状況で、オープンイノベーションだ協業だと言ってもなかなか新しいものは生まれづらい。一度、裸になってみること、そこから始めることが必要なのではないでしょうか」(家入氏)。

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